データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日比賠償協定,経済開発借款に関する交換公文

[場所] マニラ
[年月日] 1956年5月9日
[出典] 日本外交主要文書・年表(1),751−752頁.条約集,34−34.
[備考] 
[全文]

往簡訳文

 書簡をもつて啓上いたします。本全権委員は、フィリピン共和国の経済開発の促進に資するため日本国の民間商社がフィリピンの民間商社に提供する借款に関して、両政府の代表者が到達した了解を明らかにする次の取極を確認する光栄を有します。

1 現在において九百億円(九○、○○○、○○○、○○○円)に換算される二億五千万合衆国ドル(二五○、○○○、○○○ドル)に等しい円の額までの長期貸付又は類似のクレディット(以下「借款」という。)が、日本国の民間商社又は国民により、締結されることがある適当な契約に基いて、フィリピン共和国の民間商社又は国民に対し行われるものとする。

2 借款は、商業上の基礎により、かつ、両国の関係法令に従つて行われるものとする。

 フィリピン共和国政府は、借款の契約をすることができる投資部門及び諸産業を決定し、並びにその契約をしようとするフィリピンの民間商社又は国民の適格性を定める基準を決定する権利を留保する。

3 両政府は、借款の提供を、関係法令の範囲内で容易にし、かつ、促進するものとする。

 借款について日本国政府が行うことを必要とする容易化及び促進の措置は、日本国及びフィリピン共和国の民間商社相互間の契約による借款であつて、日本輸出入銀行のような日本国の金融機関から、通常の商業上の基礎により、当該時においてこれらの金融機関が振り向けることができるその資金の範囲内において、融資を受けているものにつき、現に行われている措置と同様とする。

 両政府は、この取極の円滑な運用のため、借款の提供及び返済の進ちよく状況を随時共同で検討するものとする。

4 借款の条件は、当該借款契約の当事者間で合意されるものとする。なお、次のことが了解される。

(a)借款は、現物又は通常の方法による分割払で返済するものとする。

(b)商業上の基礎において正当と認められるところに応じ、返済の期間は長いものとし、利率は低いものとする。借款は、主として、機械及び設備並びにこれらに附随する役務の形で行われるものとする。

5 借款契約から又はこれに関連して生ずる紛争は、当該契約の当事者間の合意に基く仲裁によつて、又はその紛争について管轄権を有する国の通常の訴訟手続に従つて解決されるものとする。

6 この取極は、二十年間効力を有する。ただし、この取極の効力発生の日から十九年が経過した後、借款がその二十年の期間の末までに1に定める金額に達しないと認められたときは、両政府は、いずれか一方の政府の要請により、この取極の有効期間を延長するため協議を行うことができる。

 本全権委員は、この書簡及びこの書簡に述べた取極の内容を確認される閣下の返簡を、フィリピン共和国が千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約の自国の批准書を同条約第二十四条の規定に従つて寄託した日に効力を生ずる両政府間の合意を構成するものとみなすことを提案する光栄を有します。

 本全権委員は、以上を申し進めるに際し、ここに閣下に向つて敬意を表します。

千九百五十六年五月九日にマニラで

日本国全権委員

高碕達之助

フィリピン共和国全権委員

フェリノ・ネリ閣下

来簡訳文

 書簡をもつて啓上いたします。本全権委員は、本日付の閣下の次の書簡を受領したことを確認する光栄を有します。

(日本側公文省略)

 本全権委員は、閣下の書簡に述べられた取極の内容を確認し、かつ、閣下の書簡及びこの返簡を、フィリピン共和国が千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約の自国の批准書を同条約第二十四条の規定に従つて寄託した日に効力を生ずる両政府間の合意を構成するものとみなすことに同意する光栄を有します。

 本全権委員は、以上を申し進めるに際し、ここに重ねて閣下に向つて敬意を表します。

千九百五十六年五月九日にマニラで

フィリピン共和国全権委員

フェリノ・ネリ

日本国全権委員 高碕達之助閣下