データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日本国とインドネシア共和国との間の平和条約

[場所] 
[年月日] 1958年1月20日
[出典] 外交青書2号,155‐157頁.
[備考] 
[全文]

 日本国及びインドネシア共和国は、

 両国間の戦争状態を終結し、国際連合憲章の原則に適合して両国国民の共通の福祉の増進と国際の平和及び安全の維持とのため友好的な連携の下に協力することを希望して、

 この条約を締結することに決定し、よつて、その全権委員として次のとおり任命した。

 日本国

  外務大臣 藤山愛一郎

 インドネシア共和国

  外務大臣 スバンドリオ

 これらの全権委員は、互にその全権委任状を示し、それが良好妥当であると認められた後、次の諸条を協定した。

第一条

 日本国とインドネシア共和国との間の戦争状態は、この条約が効力を生ずる日に終了する。

第二条

 両締約国の間及び両締約国の国民相互の間には、堅固なかつ永久の平和及び友好の関係が存在するものとする。

第三条

 両締約国は、千九百五十五年四月十八日から二十四日までバンドンにおいて開催されたアジア・アフリカ会議における決定の精神に従つて両国間の経済関係をさらに緊密化することを希望する。

 よつて、

(a) 両締約国は、その貿易、海運、航空その他の経済関係を安定したかつ友好的な基礎の上に置くために、条約又は協定を締結するための交渉をできる限りすみやかに開始するものとする。

(b) 該当する条約又は協定が締結されるまでの間、両締約国は、両国間の貿易、海運その他の経済関係の分野において、いかなる第三国に与える待遇に比較しても無差別な待遇を相互に与えるものとする。

第四条

1 日本国は、戦争中に日本国が与えた損害及び苦痛を償うためインドネシア共和国に賠償を支払う用意がある。しかし、日本国が存立可能な経済を維持すべきものとすれば、日本国の資源は、戦争中に日本国がインドネシア共和国その他の国に与えたすべての損害及び苦痛に対し完全な賠償を行い、かつ、同時に日本国の他の債務を履行するためには十分でないことが承認される。

 よつて、

 (a) 日本国は、別に合意される細目規定に従つて、総額二億二千三百八万アメリカ合衆国ドル(二二三、〇八〇、〇〇〇ドル)に等しい八百三億八百八十万円(八〇、三〇八、八〇〇、〇〇〇円)の価値を有する日本国の生産物及び日本人の役務を、十二年の期間内に、賠償としてインドネシア共和国に供与することに同意する。この生産物及び役務の供与は、最初の十一年の期間において、二千万アメリカ合衆国ドル(二〇、〇〇〇、〇〇〇ドル)に等しい七十二億円(七、二〇〇、〇〇〇、〇〇〇円)の年平均額により行い、未供与分を第十二年目に供与するものとする。

 (b)(I) インドネシア共和国は、この条約の効力発生の時にその管轄内にある日本国及び日本国民(法人を含む。)のすべての財産、権利及び利益を差し押え、留置し、清算し、その他なんらかの方法で処分する権利を有する。この(I)に掲げられる財産、権利及び利益は、現在、封鎖され、若しくは名義を変えられており、又はインドネシア共和国の敵産管理当局の占有若しくは管理に係る財産、権利及び利益で、同当局の管理の下におかれた時に日本国又は日本国民(法人を含む。)に属し、又はこれらのために保有され、若しくは管理されていたものを含む。

  (II) 次のものは(I)に定める権利から除く。

   (i) 日本国政府が所有し、かつ、外交目的又は領事目的に使用されたすべての不動産、家具及び備品並びに日本国の外交職員又は領事職員が所有したすべての個人の家具、用具類その他の投資的性質をもたない私有財産で外交機能又は領事機能の遂行に通常必要であつたもの

   (ii) 宗教団体又は私的慈善団体に属し、かつ、もつぱら宗教又は慈善の目的に使用された財産

   (iii) 日本国とインドネシア共和国との間における千九百四十五年九月二日後の貿易、金融その他の関係の再開の結果としてインドネシア共和国の管轄内にはいつた財産、権利及び利益

   (iv) 日本国若しくは日本国民の債務、日本国に所在する有体財産に関する権利、権原若しくは利益、日本国の法律に基いて組織された企業に関する利益又はこれらについての証書。ただし、この除外は、日本国の通貨で表示された日本国及びその国民の債務にのみ適用する。

  (III) (II)に例外として掲げられた財産は、その保存及び管理のために要した合理的な費用が支払われることを条件として、返還しなければならない。これらの財産が清算されているときは、その代金を返還しなければならない。

  (IV) (I)に定める財産を差し押え、留置し、清算し、その他なんらかの方法で処分する権利は、インドネシア共和国の法律に従つて行使されるものとし、所有者は、これらの法律によつて与えられる権利のみを有するものとする。

2 インドネシア共和国は、前項に別段の定がある場合を除くほか、インドネシア共和国のすべての賠償請求権並びに戦争の遂行中に日本国及びその国民が執つた行動から生じたインドネシア共和国及びその国民のすべての他の請求権を放棄する。

第五条

1 日本国は、戦争から生じ、又は戦争状態が存在したために執られた行動から生じたインドネシア共和国及びその国民に対する日本国及びその国民のすべての請求権を放棄する。

2 前記の放棄には、千九百三十九年九月一日から千九百四十五年九月二日までの間に日本の船舶に関して旧オランダ領東インド又はインドネシア共和国が執つた行動から生じた請求権並びに旧オランダ領東インド又はインドネシア共和国の手中にあつた日本人の捕虜及び被抑留者に関して生じた請求権及び債権が含まれる。ただし、千九百四十五年九月二日以後に制定されたインドネシア共和国の法律で特に認められた日本国民の請求権を含まない。

第六条

 この条約の解釈又は適用から生ずる紛争は、まず交渉により解決するものとし、交渉の開始の時から六箇月の期間内に解決に至らないときは、いずれか一方の締約国の要請により、国際司法裁判所に決定のため付託されるものとする。

第七条

 この条約は、批准されなければならない。この条約は、批准書の交換の日に効力を生ずる。批准書の交換は、東京でできる限りすみやかに行われなければならない。

 以上の証拠として、下名の全権委員は、この条約に署名調印した。

 千九百五十八年一月二十日にジャカルタで、日本語、インドネシア語及び英語により本書二通を作成した。解釈に相違があるときは、英語の本書による。

日本国のために

藤山愛一郎

インドネシア共和国のために

スバンドリオ