[文書名] 日本国とインドネシア共和国との間の賠償協定
日本国及びインドネシア共和国は、
千九百五十八年一月二十日にジャカルタで署名された日本国とインドネシア共和国との間の平和条約第四条1(a)の規定の実施に関する協定を締結することを希望し、
よつて、このためそれぞれの全権委員を任命した。これらの全権委員は、互に全権委任状を示してそれが良好妥当であると認められた後、次の諸条を協定した。
第一条
1 日本国は、現在において八百三億八百八十円(八〇、三〇八、八〇〇、〇〇〇円)に換算される二億二千三百八万アメリカ合衆国ドル(二二三、〇八〇、〇〇〇ドル)に等しい円の価値を有する日本国の生産物及び日本人の役務を、この協定の効力発生の日から十二年の期間内に、以下に定める方法により、賠償としてインドネシア共和国に供与するものとする。
2 前項に定める生産物及び役務の供与は、最初の十一年の期間において、現在において七十二億円(七、二〇〇、〇〇〇、〇〇〇円)に換算される二千万アメリカ合衆国ドル(二〇、〇〇〇、〇〇〇ドル)に等しい円の年平均額により行い、未供与分を第十二年目に供与するものとする。
第二条
1 賠償として供与される生産物及び役務は、インドネシア共和国政府が要請し、かつ、両政府が合意するものでなければならない。これらの生産物及び役務は、この協定の附属書に掲げる計画の中から選択される計画に必要とされる項目からなるものとする。ただし、インドネシア共和国政府が附属書に掲げる計画以外の計画に充てるため要請する項目は、両政府間の合意により、賠償として供与される生産物及び役務に含めることができる。
2 賠償として供与される生産物は、資本財とする。ただし、インドネシア共和国政府の要請があつたときは、両政府間の合意により、資本財以外の生産物を日本国から供与することができる。
3 この協定に基く賠償は、日本国とインドネシア共和国との間の通常の貿易が阻害されないように、かつ、外国為替上の追加の負担が日本国に課されないように、実施しなければならない。
第三条
両政府は、各年度に日本国が供与する生産物及び役務を定める年度実施計画(以下「実施計画」という。)を協議により決定するものとする。
第四条
1 第六条1の使節団は、各年度の実施計画に従つて生産物及び役務の供与が行われるため、インドネシア共和国政府に代つて、日本国民又はその支配する日本国の法人と直接に契約を締結するものとする。
2 すべてのそのような契約(その変更を含む。)は、(a)この協定の規定、(b)両政府がこの協定の実施のため行う取極の規定及び(c)当該時に適用される実施計画に合致するものでなければならない。これらの契約は、前記の基準に合致するものであるかどうかについて認証を得るため、指定された日本国の当局に送付されるものとする。この認証は、原則として十四日以内に行われるものとする。定められた期間内に認証が得られなかつたときは、その契約は、第八条の合同委員会に付託され、合同委員会の勧告に従つて処理されるものとする。その勧告は、合同委員会がその契約を受領した後三十日以内に行われるものとする。この項に定めるところに従つて認証を得た契約は、以下「賠償契約」という。
3 すべての賠償契約は、その契約から又はこれに関連して生ずる紛争が、一方の契約当事者の要請により、両政府間で行われることがある取極に従つて商事仲裁委員会に解決のため付託される旨の規定を含まなければならない。両政府は、正当になされたすべての仲裁判断を最終的なものとし、かつ、執行することができるようにするため必要な措置を執るものとする。
4 1の規定にかかわらず、賠償としての生産物及び役務の供与は、賠償契約なしで行うことができる。ただし、各場合について両政府間の合意によらなければならない。
第五条
1 日本国政府は、第一条の規定に基く賠償義務の履行のため、賠償契約により第六条1の使節団が負う債務並びに前条4の規定による生産物及び役務の供与の費用に充てるための支払を、第九条の規定に基いて定められる手続によつて、行うものとする。その支払は、日本円で行うものとする。
2 日本国は、前項の規定に基く円による支払を行うことにより、及びその支払を行つた時に、その支払に係る生産物及び役務をインドネシア共和国に供与したものとみなされ、第一条の規定に従い、その円による支払金額に等しいアメリカ合衆国ドルの額まで賠償義務を履行したものとする。
第六条
1 日本国は、インドネシア共和国政府の使節団(この協定において「使団節」という。)が、この協定の実施(賠償契約の締結及び実施を含む。)を任務とする同政府の唯一かつ専管の機関として日本国内に設置されることに同意する。
2 使節団の任務の効果的の遂行のため必要であり、かつ、もつぱらその目的に使用される使節団の日本国における事務所は、東京及び(又は)両政府間で合意することがある他の場所に設置することができる。
3 使節団の日本国における事務所の構内及び記録は、不可侵とする。使節団は、暗号を使用することができる。使節団に属し、かつ、直接その任務の遂行のため使用される不動産は、不動産取得税及び固定資産税を免除される。使節団の任務の遂行から生ずることがある使節団の所得は、日本国における課税を免除される。使節団が公用のため輸入する財産は、関税その他輸入について又は輸入に関連て課される課徴金を免除される。
4 使節団は、他の外国使節団に通常与えられる行政上の援助で使節団の任務の効果的な遂行のため必要とされるものを日本国政府から与えられるものとする。
5 インドネシア共和国の国民である使節団の長、使節団の上級職員二人及び2の規定に従つて設置される事務所の長は、国際法及び国際慣習に基いて一般的に認められる外交上の特権及び免除を与えられる。使節団の任務の効果的な遂行のため必要があると認められたときは、前記の上級職員の数は、両政府間の合意により増加することができる。
6 インドネシア共和国の国民であり、かつ、通常日本国内に居住していない使節団のその他の職員は、自己の職務の遂行について受ける報酬に対する日本国における課税を免除され、かつ、日本国の法令の定めるところにより、自用の財産に対する関税その他輸入について又は輸入に関連して課される課徴金を免除される。
7 賠償契約から若しくはこれに関連して生ずる紛争が仲裁により解決されなかつたき、又は当該仲裁判断が履行されなかつたときは、その問題は、最後の解決手段として、日本国の管轄裁判所に提起することができる。この場合において、必要とされる訴訟手続上の目的のためにのみ、使節団の法務部長の職にある者は、訴え、又は訴えられることができるものとし、そのために使節団における自己の事務所において訴状その他の訴訟書類の送達を受けることができるものとする。ただし、訴訟費用の担保を供する義務を免除される。使節団は、3及び5に定めるところにより不可侵及び免除を与えられてはいるが、前記の場合において管轄裁判所が行つた最終の裁判を、使節団を拘束するものとして受諾するものとする。
8 最終の裁判の執行に当り、使節団に属し、かつ、その任務の遂行のため使用される土地及び建物並びにその中にある動産は、いかなる場合にも強制執行を受けることはない。
第七条
1 両政府は、この協定の円滑なかつ効果的な実施のため必要な措置を執るものとする。
2 インドネシア共和国は、日本国が第一条にいう生産物及び役務を供与することができるようにするため、利用することができる現地の労務、資材及び設備を提供するものとする。
3 この協定に基く生産物又は役務の供与に関連してインドネシアにおいて必要とされる日本国民は、インドネシアにおける所要の滞在期間中、その作業の遂行のため必要な便宜を与えられるものとする。
4 日本国の国民及び法人は、この協定に基く生産物又は役務の供与から生ずる所得に関し、インドネシアにおける課税を免除される。
5 インドネシア共和国は、この協定に基いて供与された日本国の生産物が、インドネシア共和国の領域から再輸出されないようにすることを約束する。
第八条
この協定の実施に関する事項について勧告を行う権限を有する両政府間の協議機関として、両政府の代表者で構成される合同委員会を設置する。
第九条
この協定の実施に関する手続その他の細目は、両政府間で協議により合意するものとする。
第十条
この協定の解釈及び実施に関する両政府間の紛争は、まず、外交上の経路を通じて解決するものとする。両政府がこうして解決することできなかつたときは、その紛争は、各政府が任命する各一人の仲裁委員とこうして選定された二人の仲裁委員の合意により定める第三の仲裁委員との三人の仲裁委員からなる仲裁裁判所に決定のため付託するものとする。ただし、第三の仲裁委員は、いずれか一方の国の国民であつてはならない。各政府は、いずれか一方の政府が他方の政府から紛争の仲裁を要請する公文を受領した日から三十日の期間内に各一人の仲裁委員を任命しなければならない。第三の仲裁委員については、その期間の後の三十日の期間内に合意されなければならない。一方の政府が当該期間内に仲裁委員を任命しなかつたとき、又は第三の仲裁委員について当該期間内に合意されなかつたときは、いずれか一方の政府は、それぞれ当該仲裁委員又は第三の仲裁委員を任命することを国際司法裁判所長に要請することができる。両政府は、この条の規定に基いて与えられた裁定に服することを約束する。
第十一条
この協定は、批准されなければならない。この協定は、批准書の交換の日又は千九百五十八年一月二十日にジャカルタで署名された日本国とインドネシア共和国との間の平和条約の批准書の交換の日のいずれかおそい日に効力を生ずる。
以上の証拠として、下名の全権委員は、この協定に署名調印した。
千九百五十八年一月二十日にジャカルタで本書二通を作成した。
日本国のために
藤山愛一郎
インドネシア共和国のために
スバンドリオ