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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日本国とフィリピン共和国との間の友好通商航海条約

[場所] 東京
[年月日] 1960年12月9日
[出典] 外交青書5号,268−271頁.
[備考] 
[全文]

 日本国政府及びフィリピン共和国政府は、

 両国間に存在する友好の関係を維持し、及び強化することを希望し、並びに

 相互に有利な基礎の上に両国間の貿易及び通商を容易にし、及び発展させることを希望して、

 友好通商航海条約を締結することに決定し、そのため、次のとおりそれぞれの全権委員を任命した。

 日本国政府

  フィリピン共和国駐在特命全権大使  湯川盛夫

  外務審議官  島重信

  外務省経済局長大使  牛場信彦

 フィリピン共和国政府

  前下院議長  J・B・ラウレル・ジュニア

  上院外交委員会委員長  ロレンソ・スムロン

  下院外交委員会委員長  ラモン・P・ミトラ

  上院外交委員会委員  ロヘリオ・デ・ラ・ロサ

  下院外交委員会委員  アントニオ・V・ラキサ

  日本国駐在特命全権大使  マヌエル・A・アデバ

  商工次官  ペルフェクト・E・ラギオ

  フィリピン賠償使節団団長公使  セサール・Z・ラヌーサ

  中央銀行副総裁  アンドレス・V・カスティリヨ

  公使  エンリケ・M・ガルシア

 これらの全権委員は、互いにその全権委任状を示し、それが妥当であると認められた後、次の諸条を協定した。

第一条

 いずれの一方の締約国の国民も、他方の締約国の領域への入国並びに同領域内における滞在、旅行及び居住に関するすべての事項について、いかなる第三国の国民に与えられる待遇よりも不利でない待遇を与えられる。

第二条

1 いずれの一方の締約国の国民及び会社も、他方の締約国の領域内において、税金の賦課、裁判所の裁判を受け、及び行政機関に対して申立てをする権利、契約の締結及び履行、財産権、法人への参加並びに一般にあらゆる種類の事業活動及び職業活動の遂行に関するすべての事項について、いかなる第三国の国民及び会社に与えられる待遇よりも不利でない待遇を与えられる。

2 1の規定にかかわらず、各締約国は、相互主義に基づき、又は二重課税の回避若しくは歳入の相互的保護のための協定により、租税に関する特別の利益を与える権利を留保する。

第三条

1 いずれの一方の締約国の国民及び会社も、両締約国の領域の間における支払、送金及び資金又は金銭証券の移転に関して、並びに他方の締約国の領域と第三国の領域との間における支払、送金及び資金又は金銭証券の移転に関して、いかなる第三国の国民及び会社に与えられる待遇よりも不利でない待遇を与えられる。

2 1の規定は、いずれか一方の締約国が、国際通貨基金協定の締約国として有するか又は有することがある権利及び義務に合致するような為替制限を課することを妨げるものではない。

3 いずれの一方の締約国も、他方の締約国のすべての産品の輸入に対し、又は当該他方の締約国の領域に仕向けられるすべての産品の輸出に対し、なんらの制限又は禁止をも課してはならない。ただし、すべての第三国の同様の産品の輸入又はすべての第三国への同様の産品の輸出が同様に制限され、又は禁止されている場合は、この限りでない。

4 3の規定にかかわらず、いずれの一方の締約国も、貨物の輸入及び輸出について、当該一方の締約国が、2の規定に基づいて当該時に課することができる為替制限と同等の効果を有する制限又は統制をすることができる。

第四条

1 すべての種類の関税及び課徴金で、輸入若しくは輸出について若しくはそれらに関連して課され、又は輸入品若しくは輸出品のための支払手段の国際的移転について課されるものに関し、それらの関税及び課徴金の賦課の方法に関し、輸入及び輸出に関連するすべての規則及び手続に関し、輸出貨物に対する内国税の適用に関し、輸入貨物について又はこれに関連して課されるすべての内国税その他すべての種類の内国課徴金に関し、並びに輸入貨物の国内における販売、販売のための提供、購入、分配又は使用に影響を及ぼすすべての法令及び要件に関し、いずれか一方の締約国がいずれかの第三国を原産地とする産品又はいずれかの第三国に仕向けられる産品に対して与えているか、又は将来与えるすべての利益、特典、特権又は免除は、他方の締約国の領域を原産地とする同様の産品又は他方の締約国の領域に仕向けられる同様の産品に対し、即時に、かつ、無条件に与えられるものとする。

2 1の規定は、いずれか一方の締約国が内国漁業の産品に与える特別の利益には適用しない。

第五条

 両締約国は、両国間の貿易を発展させ、及び経済関係を強化すること並びに、特にそれぞれの領域内における経済の発展及び生活水準の向上に資するため、科学及び技術に関する知識の交換及び利用を促進することを目的として、相互の利益のため、協力することを約束する。いずれの一方の締約国も、自立を基礎とする自国経済の健全なかつ均衡のとれた発展に役だつような他方の締約国の資本又は技術を自国の領域内に導入することを妨げてはならない。

第六条

1 いずれか一方の締約国の国旗を掲げる船舶で、国籍の証明のため当該締約国の法令により要求される書類を備えているものは、公海並びに他方の締約国の港、場所及び水域において、当該一方の締約国の船舶と認められる。

2 いずれの一方の締約国の商船も、他方の締約国の商船及び第三国の商船と均等の条件で、外国との通商及び航海のため開放されている他方の締約国のすべての港、場所及び水域に旅客及び積荷とともに入ることができる。これらの船舶は、当該他方の締約国の港、場所及び水域において、すべての事項に関して、いずれかの第三国の同様の船舶に与えられる待遇よりも不利でない待遇を与えられ、また、係留場所の割当て、積卸しの施設の使用、水先人の役務並びに燃料、潤滑油、水及び食糧の補給その他すべての種類の技術上の便益に関して、当該他方の締約国の同様の船舶に与えられる待遇よりも不利でない待遇を与えられる。

3 いずれの一方の締約国の商船も、他方の締約国の領域に又はその領域から船舶で輸送することができるすべての貨物及び人を輸送する権利に関して、いずれかの第三国の同様の船舶に与えられる待遇よりも不利でない待遇を与えられる。また、これらの貨物及び人は、(a)すべての種類の関税及び課徴金、(b)税関事務並びに(c)奨励金、関税の払いもどしその他この種の特権に関して、当該他方の締約国の商船で輸送される同様の貨物及び人に与えられる待遇よりも不利でない待遇を与えられる。

4 各締約国は、沿岸貿易に従事する権利を自国の船舶のみに留保することができる。もっとも、いずれの一方の締約国の商船も、常に他方の締約国の法令に従い、外国で積載した旅客若しくは積荷の全部若しくは一部を陸揚げし、又は外国向けの旅客若しくは積荷の全部若しくは一部を積載する目的をもって、当該他方の締約国の領域内のいずれかの港から他の港に向かつて航海を続けることができる。

5(1) いずれの一方の締約国も、他方の締約国の船舶に対し、難破、海上損害又は不可抗力による寄港の場合には、同様の場合に自国の船舶に与えると同一の援助、保護及び免除を与えるものとする。それらの船舶から救い上げられた物品は、国内消費のため搬入された場合を除くほか、すべての関税を免除される。ただし、国内消費以外の目的のため搬入された物品については、それが当該他方の締約国から搬出されるまでは、歳入の保護のための措置を執ることができる。

 (2) いずれか一方の締約国の船舶が他方の締約国の沿岸で座礁し、又は難破した場合には、当該他方の締約国の当局は、もよりの地にある船舶所属国の権限のある領事官にそれを通告するものとする。

6 いずれか一方の締約国の権限のある当局が発給した船舶の積量測度に関する証書は、他方の締約国の権限のある当局によって、同当局が発給した証書と同等のものと認められる。

第七条

 この条約の規定は、いずれか一方の締約国が、

(a) 公共の安全若しくは国防又は国際の平和及び安全の維持

(b) 核分裂性物質又はその生産原料である物資

(c) 武器、弾薬及び軍需品の取引並びに軍事施設に供給するため直接又は間接に行なわれるその他の貨物及び資材の取引

(d) 公衆道徳の保護及び人、動物又は植物の生命又は健康の保護

(e) 金又は銀の貿易

に関する措置を採用し、又は実施することを妨げるものと解してはならない。

第八条

1 各締約国は、他方の締約国がこの条約の実施に関する事項について行なう申入れに対しては、好意的考慮を払い、かつ、その申入れに関する協議のため適当な機会を与えなければならない。

2 この条約の解釈又は適用に関する両締約国間の紛争で外交交渉により満足に調整されないものは、両締約国が他のなんらかの平和的手段による解決について合意しなかったときは、国際司法裁判所に付託するものとする。

第九条

1 この条約は、批准されなければならない。批准書は、できる限りすみやかにマニラで交換されるものとする。

2 この条約は、批准書の交換の日の後一箇月で効力を生ずる。この条約は、三年間効力を有し、その後は、3に定めるところにより終了するまで効力を存続する。

3 いずれの一方の締約国も、他方の締約国に対し六箇月前に文書による予告を与えることによつて、最初の三年の期間の終りに又はその後いつでもこの条約を終了させることができる。

第十条

 この条約は、日本語、フィリピン語及び英語によるものとする。解釈に相違がある場合には、英語の本文による。

 以上の証拠として、各全権委員は、この条約に署名調印した。

 昭和三十五年十二月九日(フィリピン共和国独立第十五年十二月九日及び千九百六十年十二月九日に相当する。)に東京で、本書二通を作成した。

日本国のために

湯川盛夫

島重信

牛場信彦

フィリピン共和国のために

J・B・ラウレル・ジュニア

ロヘリオ・デ・ラ・ロサ

アントニオ・V・ラキサ

マヌエル・A・アデバ

ペルフェクト・E・ラギオ

セサール・Z・ラヌーサ

アンドレス・V・カスティリヨ

エンリケ・M・ガルシア