データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] マルコス・フィリピン大統領日本国訪問に関する日本・フィリピン共同コミュニケ

[場所] 
[年月日] 1966年10月3日
[出典] 外交青書11号,18−20頁.
[備考] 
[全文]

一 フェルディナンド・E・マルコス・フィリピン大統領は日本国政府の招待により、夫人を伴い、ラモス外務大臣、ロムアルデス大蔵大臣、サラス官房長官、アスピラス広報担当大臣その他の随員とともに、一九六六年九月二八日から一〇月三日まで日本を訪問した。

二 マルコス大統領夫妻は日本滞在中、天皇、皇后両陛下と会見した。マルコス大統領はまた佐藤総理大臣及びその他の日本国政府首脳と会談し、現下の国際情勢と両国が関心を有する諸問題について意見を交換した。この会談は極めて友好的かつ率直な雰囲気の下に行なわれた。

三 右会談において大統領と総理大臣は国連が世界の平和維持ならびに人類の福祉向上のため果してきた大きな役割を高く評価するとともに、この世界機構がますますその機能を強化し、その権威を向上するよう今後とも真摯な努力を傾けるとの決意を表明した。両国首脳はまた最近国連においてアジア諸国の間に協力関係を一層緊密にしてゆこうという気運がみられることを歓迎するとともに、今後ますますかかる気運を促進するため両国が努力する旨を表明した。

四 右会談において、大統領と総理大臣は、最近インドネシアとマレイシアとの間の紛争が両当事国指導者の真摯な努力により解決に至ったことに対し歓迎の意を表するとともに、アジアにおけるかかる和解への気運が一層促進さるべきことについて意見の一致をみた。両首脳は、他方、ヴィエトナムにおいて依然紛争解決への見通しが立たないまま戦闘が継続されていることに対し深い優慮の念を表明し、一日も早く平和裡に同紛争の解決がもたらされるよう強い希望を述べるとともに、和平実現のため両国が今後とも、それぞれの立場から努力を重ねてゆくことに同意した。

五 大統領と総理大臣はさらに、アジアの諸国がそれぞれの国造りに邁進し、経済の発展と住民の福祉の向上をはかることがアジアに現存する緊張を緩和し、この地域に平和と安定をもたらす所以であることについて意見の一致をみた。

六 大統領と総理大臣は、アジアに起こりつつある相互理解と地域協力の新たな気運に満足の意を表明した。両国首脳は、近く正式に発足するアジア開発銀行を歓迎するとともに、同銀行が成功裡に運営されるよう両国政府が十分協力することを約した。両者は、第二回会議が明年マニラで開催されることとなっている東南アジア開発閣僚会議が、東南アジア諸国の経済開発を促進する上において最も効果的であることを認めた。

七 マルコス大統領と佐藤総理大臣は、最近日比貿易が着実に増進しつつあることを喜び、両国貿易の増進のため一層努力することに合意をみた。佐藤総理大臣は長期にわたり懸案となっている友好通商航海条約の早期批准を日本政府が希望する旨表明したのに対し、大統領は条約の早期批准を達成するよう、また、既に議会に審議のため上程されている関係法案と同時に、あるいはこれとの関連において同条約を早期審議のため上院に提出するようあらゆる努力を傾けると答えた。

八 右会談において、マルコス大統領は日本のフィリピンに対する経済及び技術協力を一層拡大する必要性を強調するとともに、鉄道、学校、道路及び橋梁の如き各種の開発計画を遂行するに当って、フィリピンにおける現地通貨を含む融資の必要につき総理大臣の注意を喚起し、これら計画の実施に関し、日本政府の協力を要請した。

 前記に関連し、大統領は総理大臣に対し日比合同委員会の設置を提案するとともに、同委員会が一九五六年五月九日マニラにおいて両国政府代表の署名した交換書簡に述べられている二億五、〇〇〇万ドルの借款を含む公共及び民間両部門への融資に関連した諸問題をも検討することにしては如何と述べた。

 佐藤総理大臣は、大統領がフィリピン経済開発の推進に努力を傾注しておられることに対し深甚な敬意と理解を有する旨表明し、両国政府による決定に先立ち、特定の賠償計画に対する融資の方法を検討し勧告すること及び前記二億五、〇〇〇万ドル借款に関する諸問題を取り上げることを目的として合同委員会を出来るだけ速やかに設置することに合意した。

九 大統領の要請に対し、総理大臣はカガヤン鉄道延長計画の実施に対して然るべき考慮を払う旨を約し、また同計画に関し必要な調査及び設計ができる限り速やかに行なわれるべきであると提案した。大統領はソルソゴン延長計画を含めるよう希望を表明したのに対し、総理大臣は、同計画は、カガヤン鉄道延長計画の成果をみきわめた上で協議のため取り上げたいと述べた。

一〇 大統領は、フィリピンの農業開発計画に関連し日本政府が海外経済協力基金、日本輸出入銀行及びその他の資金源からの必要な援助を行なうようにとの希望を表明した。総理大臣は、農業開発の分野において、日本政府は、両国政府の合意する方式で大統領の要請に応じうるよう最善の努力を払う旨述べた。

一一 総理大臣は家内小規模工業技術開発センター設置に関する日本国政府とフィリピン共和国政府との間の協定が、両国間の技術協力に新しい一頁を加えたことを強調した。大統領は同協定の署名は日本のフィリピン共和国に対する技術協力の強化を示すものとして歓迎するとともに、この協定の円滑な実施に協力することを約した。

一二 マルコス大統領及び佐藤総理大臣は、日本青年海外協力隊がフィリピンの地域開発に貢献するとともに、日比両国青年間の相互理解及び親善の増進に寄与していることを認め、今後更に他の分野においても協力隊の派遣が望ましい旨合意をみた。

一三 大統領と総理大臣は、政治、経済及び文化等あらゆる分野における両国の友好的かつ協力的関係が今後ますます発展することを強く希望した。

一四 大統領は日本国総理大臣がフィリピン共和国を訪問するよう鄭長な招待の意を表明し、総理大臣は喜んで右招待を受諾した。

一五 マルコス大統領は日本滞在中に大統領夫妻一行が受けた友情にみちた暖い歓迎に対し、日本政府および国民に深く感謝の意を表明した。

 マルコス大統領の今次訪日は日本とフィリピン共和国との間の相互理解と友好関係の増進に大いに貢献した。