[文書名] 東南アジア開発閣僚会議における上田常光外務省経済協力局長演説
議長
私は、この機会に、東南アジア諸国が進めておられる開発の努力に対し、わが国がこれまでに行なってきた協力の内容について簡単に説明致したいと思います。
過去一〇年間にわが国政府がこの地域に供与した経済技術協力の総額は、約九億ドルとなっております。これがこの期間のわが国政府の経済技術協力の全体に占める比率をとりましても約五〇%と圧倒的に高く、わが国の東南アジア諸国との協力重視の政策が現実の実体を伴っていることを如実に物語っております。
右のうち、わが国からの資金協力につきましては、あらためて詳細に申し上げる必要はないかと存じます。ここでは、この形でのわが国の協力が、各国の必要に応じたいろいろの形で、すでに東南アジアのすべての国に対して行なわれており、その目的においても、各地におけるダム、上水道、道路、鉄道、電気通信網などの基礎的社会施設の建設、食糧援助を含む商品援助、外国為替安定基金への拠出、戦災復旧などのための緊急援助など、広範多岐にわたっていることを申し上げるに止めます。一九六七年において、わが国が東南アジア諸国に供与した資金の額は、贈与が約九、九〇〇万ドル、政府貸付が約九、一〇〇万ドルにのぼっております。
わが国の財政事情は、決して容易な状態になく、これまでの協力も多くの困難と負担を伴ったものでありました。しかしながら、わが国は、今後とも、東南アジア諸国の真の必要に対してはできる限りの協力を続けていく所存であります。さしあたり、本年度においては、これまでに約束ずみの贈与、借款の支払いなどのほか、戦火を被ったベトナムとその近隣の国の復旧に協力するため、新たな無償資金援助を計画しております。
技術協力は、金額的には資金協力と規模を異にするものでありますが、開発に必要な技術と知識と経験を供与し、それぞれの国が自らの手で将来の開発を進めていくため不可欠な人間的基盤を形成するという意味において、きわめて大きな意味をもつものと考えます。
わが国が一九五四年コロンボ・プランに参加した当時、わが国の技術協力予算の規模は年間五万ドル程度でした。それが現在では年間約二千万ドルの規模にまで拡大いたしました。まず、研修生受入れ及び専門家派遣については、わが国政府ベース技術協力の半分近くが東南アジアに向けられているのであります。昨年末までに東南アジア諸国から受入れた研修生は総数一〇、六〇〇名のうち四、八〇〇人にのぼり、他方わが国がこの地域に派遣した専門家も総数約一、七〇〇名のうち八〇〇人をかぞえております。そのほか、最近におきましては、わが国の若者が海外青年協力隊として各国の方々と新しい国造りの苦労をともにしており、その数は三〇〇人近くに及んでおります。
東南アジアからの研修員受入れの最近の内訳は、まず農水産業が約二〇%を占め、ついで行政及び医療保健がそれぞれ一五%、電気通信一〇%、軽工業、運輸、建設がそれぞれ五%というような比率になっております。
また専門家の派遣については、医療が六〇%で一位を占め、農・水産業一三%、電気通信八%というような順序になっております。
この他、民間の研修員受入れに政府が補助金を与える形で、昨年末までに約一、四〇〇人を東南アジア諸国から、主として自動車、産業機械、通信機器等の製造業に受入れております。
これについて特にご希望があれば承り、今後の参考にしたいと考えております。
研修生の受入れ及び専門家の派遣という伝統的な形の技術協力のほか、近年においてはわが国政府ベース技術協力の内容も多岐にわたり、専門家と機材とを供与して、各国で訓練を行なうための技術協力センターや、各種の資源調査、開発プロジェクトのフィージビリティ調査から実施設計などが行なわれておりますが、特に一次産品開発、農業医療面での協力は、最近になって行なわれることとなった、プロジェクト・ベースのまとまった協力として今後の進展が期待されます。これらの技術協力は東南アジアに対して大きな割合が向けられてきましたが、今後は更に東南アジアに対して技術協力を一層拡充強化していきたいと考えております。一例を研修員の受入れにとりますと、本年度東南アジア諸国から約六〇〇名の受入れを計画しておりますが、東南アジア諸国の地域的連帯感育成の一助とするため、これら諸国を主たる対象とする研修コースを電気通信関係等、開発閣僚会議の事業と関係の深い分野を手始めに順次開設していくことを検討しております。また、特に本会議参加国から経済技術協力を担当しておられるハイ・レベルの方々を同時にお招きして、今後の経済技術協力の効率化及び相互理解の増進に資する機会を持ちたいと考えております。
わが国が従来から力を入れて参りました医療協力につきましても、今後、東南アジア地域に対するその一層の拡充をはかるため、本年度に調査団を各国に派遣することを予定しております。さらに、今後わが国として、人口問題の分野での協力を検討していきたいと考えておりますことは、既に申し上げたとおりでありますが、差当り本年度においては、家族計画国際セミナーの拡充、専門家チームの派遣などを計画しており、東南アジア各国からの要請があれば具体的な協力の形について検討を行なうための調査団を派遣したいと考えております。なお、わが国は家族計画分野での確立された国際民間団体である国際家族計画連盟に対しても、本年度はじめて一〇万ドルの拠出を行なう予定であります。
以上のような二国間の経済技術協力のほか、東南アジアにおける地域協力に対しても、わが国は実質的な貢献を行なっております。
特に、わが国は、アジア地域における国際的金融機関として、アジア開発銀行を重視し、その設立に積極的に参加してまいりましたが、なかでも、銀行の農業特別基金に対しては、昨年他国に率先して二、〇〇〇万ドル相当額の拠出を行ない、本年度も引続き同額の拠出を行なうことを考慮しております。わが国は、この拠出が主として東南アジア地域における基礎的な農業開発プロジェクトに使用されることを期待しております。
アジア開発銀行のほか、東南アジア漁業開発センター、ECAFEの諸活動、メコン委員会の事業であるナム・グム・ダム、プレクトノット・ダムの建設、アジア文部大臣会議などに対する協力を通じて東南アジアの開発に貢献していることは既にご承知のとおりであります。
以上、わが国の経済、技術協力プログラムの進捗状況の大要を申し述べました。わが国としては、今後ともアジアとりわけ東南アジア地域に重点をおいてできる限りの経済、技術協力を惜しまない方針であります。
しかしながら、東南アジアは、域外先進国からの協力をもさらに必要としております。このような域外先進国からの協力を助長するためには、今後、域内諸国において、現実的な経済開発計画を確立するとともに、資本協力及び技術協力に対応する現地費用の調達や投資環境の改善が必要であり、また技術協力の場合には人的な開発を最大限に効果的たらしめるため十分なカウンターパート・スタッフの配置を行なう等、受入れ体制の整備に配慮が払われるよう希望して私の報告を終りたいと思います。