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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第4回東南アジア開発閣僚会議愛知外務大臣冒頭発言

[場所] 
[年月日] 1969年4月3日
[出典] 外交青書13号,20−22頁.
[備考] 
[全文]

 議長、代表各位、ならびにご列席の皆様

 わたくしは今回外務大臣として、はじめて東南アジア開発閣僚会議に出席し、親しく東南アジアの友邦の経済開発を推進しておられる指導者の方々にお目にかかる機会を得ましたことを、深くよろこびとするものであります。

 東南アジア開発閣僚会議も回を重ね、ここに第4回会議を迎えました。本日各位と親しく一堂に会し、これまでにこの会議のあげてきた成果をかえりみます時、わたくしはこの会議が、東南アジアの経済開発というわれわれすべてに共通の課題について、率直な意見の交換を行ない、ともに将来の方策を探求するため、きわめて貴重な場であることを今さらながら痛感する次第であります。

 現在の東南アジアにおける事態は、なお、きわめて流動的な要因を含んでおります。また、目を広く東南アジア地域外の情勢に転じましても、昨年来の国際通貨危機をはじめとして、種々の経済的変動や困難が姿を現わしております。

 われわれは、このような容易ならざる環境の中で、困難を克服し、将来の東南アジアの方向を探りつつ、経済開発のための共同の努力を積重ねていかなければならないのであります。

 わが国は、自衛のためのほかは武力を保持せず、平和国家の理想を高く掲げ、すすんで戦争のない世界の創造を目指し、国際的な協力を通じて「平和への戦い」に積極的な貢献を行なつていく決意をかためております。戦争のない東南アジアの創造のためには、開発と安定のための提携が進められなければなりません。このような考え方のもとに、わが国は、東南アジア諸国の共同の努力の一翼を荷つて明るい将来への歩みを進めていきたいと考えております。

 現在、アジアにおいては、長い伝統を持つたECAFEを始め、いくつかの地域協力機構が、有意義な活動を行なつております。特に、アジア開発銀行が、発足後日浅くしてすでに本格的な活動に入り、立派な業績をあげておられることを高く評価し、今後の活動を期待しております。

 わが国としては、これらの地域協力機構が、それぞれの分野でおさめてきた大きな成果に敬意を表するとともに、今後ともできる限りの支援を惜しまない所存であります。東南アジア開発閣僚会議もまた、これらの機構と協力しつつ、この地域の発展と繁栄に貢献することを強く念願するものであります。

 現在国連においては、1970年代を第2開発の10年として経済、社会開発のための国際協力を進めるための準備が行なわれております。また、カナダのピアソン元首相が、世銀総裁の委嘱をうけて、開発と援助の問題について、過去の実績を評価し、長期的展望を打立てる事業を進めております。1960年代も終りに近づき、新たな年代をむかえようとする時、これらの事業は誠に時宜を得たものであります。開発と援助の問題はまさに、長期的視野に立ってしかも現実の可能性を踏まえつつ忍耐強く取組んでいくべきものであります。この閣僚会議においても、東南アジアの経済開発の問題を、長期的観点から共通の問題として話合い、その解決に向ってともに努力していくことこそがわれわれの課題でありましょう。

 このような考え方に立ってみますとき、この閣僚会議の運営においては、今後とも域内の各国に共通する基礎的な経済開発の問題に重点をおいていくことが、適当ではないかと考えます。われわれが従来ここでとり上げてきた問題をみましても、農業、漁業、運輸通信など、経済開発のために基礎的な重要性を有する分野のものを主としております。これら農業開発、インフラストラクチュア開発をはじめとし、人的資源開発、国内資源活用などの分野における東南アジア地域における地域協力が、今後ますますその重要性を増すであろうことを考えますと、これこそが、この閣僚会議で長期的観点から検討を行なっていく問題として特にふさわしいものであると考えられるのであります。この意味において、アジア開発銀行が実施している地域運輸調査や、タイ国政府が提案されている東南アジア経済分析は、この閣僚会議としてぜひ積極的に支持していきたいものと考えております。

 この関連で、これまで取上げられなかつた問題の一つに人口問題があります。もとより、人口問題については、各国の社会的、文化的背景などから、それぞれの関心の所在、当面それに対処するためにとられるべき措置などに大きな差異があるわけでありますが、アジアの多くの国々の間には、急激な人口の増加が、経済、社会開発の促進にとって大きな問題であるとの認識が既にあり、最近政府機関あるいは民間団体がイニシアティヴをとってこれに積極的に取組まんとする気運が起りつつあることは、注目すべきであると考えます。わが国としては、かかる気運にもかんがみ、今後、東南アジアにおいても、各国の要請に応じて、この分野での協力をさらに拡充することを具体的に検討しております。

 わが国が、これまで、東南アジアの経済、社会開発のためできる限りの協力を行なってきたことは、今さら申すまでもありません。その詳細につきましては別の機会に申上げることと致しますが、わが国は今後とも、このような努力をいっそう強化する所存であります。

 現在の東南アジアにおいて最も流動的な地域はヴィエトナムでありますが、長きにわたったヴィエトナム紛争もようやく平和的解決の方向に大きくうごきつつあります。わが国は、この地域に、繁栄の基礎となる永続的平和が確保されることを心から念願し、そのためできる限りの努力を払う所存であります。

 特に、わが国は、ヴィエトナムに平和が確保される暁には、ヴィエトナム、および戦争によつて影響を受けた周辺の国々の復興と開発を助けるため、できるだけ広汎な国際的基盤に立つ共通の努力が払われるべきであると考えており、かかる国際協力を実現するための方策を、現在、真剣に検討しております。

 さらに長期的には、来たるべき1970年代、平和が訪れた東南アジアにおいて、いかにすれば経済開発が最も効果的に進められるか、そのためには、何を目標に、いかなる活動を、どのような協力関係のもとに行なっていくべきか、という基本的な問題について検討を行ない、今後の東南アジア諸国との協力の基盤を作りたいというのが、わたくしの念願であります。

 この10年間は、東南アジア地域についても、また、地域外の諸国についても、大きな可能性をはらんでおります。わが国経済が今後かりに過去数年間と同様に急速な成長を続けうるとするならば、1980年頃には、国民総生産が5、000億ドル台の規模にも達しうるであろうとの試算があります。わが国としては、今後こうした国民経済の進展に応じて海外経済協力を積極的に推進していく方針であり、この場合における経済協力の額は非常に大きなものとなることが予想されるのであります。また、その大きな部分はアジアに向けられることとなりましょうから、その時点においてわが国から、また域外先進国から、東南アジアのために供与されるであろう経済協力の規模は、現在われわれの予想もしえない程のものとなりましょう。一方それを受入れ、効果的に活用するためには、東南アジア諸国の側においても、既に踏み出したけわしい自助の努力の道を更に進む決意をあらたにし、計画的総合的に開発を進められることが強く要請されるのであります。

 このような、われわれ相互の努力があいまって、さらには、かかる努力が広く域外先進国や国際機関との協力にも結びつけられていくことによって、東南アジア開発の前途がひらけていくのであります。わたくしは、このようにして、東南アジアの未来を形作る共同事業がともに進められ、来たるべき70年代が、真の意味で東南アジアにおける平和と開発の10年とよぶにふさわしいものとなることを熱望するものであります。