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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ラオス問題に関するプーマ首相と佐藤栄作首相往復書簡,プーマ首相の親書

[場所] ビエンチャン
[年月日] 1969年6月19日
[出典] 日本外交主要文書・年表(2),858−859頁.外務省公表集,136−8頁.
[備考] 
[全文]

一九六九年六月十九日

ヴィエンチャン

総理大臣閣下

 御承知の如く、インドシナにおける事態は、混乱と動乱の二十余年を経て最近好転をみせており、これは、敵対者達もようやく戦争を終結することを欲しているかにみえるベトナムにおいて特にうかがわれます。

 北爆の一方的停止を行なった米国のイニシアティヴは、確かに和平の気運をつくり出し、その結果開始されたパリ会談により紛争の政治的解決への道が開かれたと考えることが可能となるに至りました。

 このような気運は、ラオスにおける情勢にも若干の影響をもたらしました。確かにわが国においては、ベトナムにおけると同様に戦闘は激しさを減じておらず、われわれは多数の犠牲者を出していることを歎いております。しかしながら、最近行なわれた色々な外交的接触により、われわれは武力によらずラオス問題を解決する道を切り開く機会が今日、わが国に与えられていると考えることが出来るに至ったのです。

 われわれが、わが国において平和が確立されることをいかに願っているかは閣下の御存知の通りです。一九六二年の協定は、この点では、われわれに非常に大きな希望を与え、われわれはジュネーヴ協定の他の署名国の援助、理解及び誠意を得るならば、わが国の国境、領土保全及び中立の地位を尊重させることができると期待したのです。

 事態は、われわれの願望通りには進展しませんでした。しかしながら、われわれは、ラオスとベトナムにおける戦争が同じ原因と同じ結果の現われであるとしても、全体の解決のためのベトナム人と米国人との間の話し合いの結果を漫然と待つ必要はないと考えております。

 私の考えのすべてを閣下に述べますれば、一九六二年にジュネーヴで行なわれた如く、ベトナム問題とは別にラオス問題について話し合いと接触を実現するためのイニシアティヴがとられることが今日極めて望ましく、またそれが可能であると私は考えます。

 平和のためのこのようなイニシアティヴは注目に値すると思います。日本の名声、アジア問題に関する豊富な経験高い外交の伝統、またベトナム戦争における非交戦国としての好個の立場に照らし、日本が世界的な問題について果している大きな役割に思いをいたしつつ、私は日本政府の御都合のよい時期に、日本政府が上記のイニシアティヴをとることはできないであろうかと閣下にお伺いいたす次第です。このイニシアテイヴをおとりいただけるならば誠にラオスとしましても幸甚であります。

 閣下、アジアは切実に平和を必要としております。しかるに大きな脅威は、アジア、特に侵略又は圧迫の犠牲となった場合に自ら守るにすべなく、その声を真に聞き入れてもらうことも出来ない開発途上の小国に覆いかぶさっております。

 これら小国の友邦国で最も名声高い日本が、インドシナにおける紛争の火消役を務めるためその影響力を行使してその手はじめにベトナム問題と関係ずけることなく、ラオス問題をとりあげていただければこれらの小国はさぞ力強く感ずるでありましょう。

 総理閣下、私はここにラオス国民の衷心からの気持をお伝えいたしました。

 ラオスの平和のための御尽力を期待し、これに謝意を表しつつ。

敬具

ラオス王国首相

スヴァナ・プーマ殿下