データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] カンボジア問題に関するアジア会議共同声明

[場所] 
[年月日] 1970年5月17日
[出典] 日本外交主要文書・年表(2),966−968頁.外務省公表集,昭和45年,301−4頁.
[備考] 
[全文]

一、カンボディアにおける最近の情勢から発生した緊急な事態を討議するため、外相会議が、インドネシア政府の招待により、一九七〇年五月十六日及び十七日の両日ジャカルタで開催された。会議出席者は次のとおりであった。

 ウイリアム・マクマーン

  オーストラリア外務大臣

 アダム・マリク

  インドネシア共和国外務大臣

 愛知揆一

  日本国外務大臣

 崔圭夏

  大韓民国外務部長官

 ファニア・カンパン・パニア

  ラオス外務大臣代理

 アブドル・ラザック

  マレイシア副総理大臣兼国防大臣

 キース・ホリオーク

  ニュージーランド総理大臣兼外務大臣

 カルロス・ロムロ

  フィリピン外務大臣

 インチュラ・ラーヒム・イシャーク

  シンガポール外務担当国務大臣

 タナット・コーマン

  タイ外務大臣

 チャン・ヴァン・ラム

  ヴィエトナム共和国外務大臣

 会議は、議長にアダム・マリク、副議長にアブドル・ラザック副首相及びカルロス・P・ロムロ外相、報告者にタナット・コーマン外相をそれぞれ選出した。また、アルタティ・マルズキ・スデイルジョ夫人が会議事務局長に選任された。

二、会議は、インドネシアのスハルト大統領閣下により開会された。大統領は開会演説の中で、国連憲章により、国際平和及び安全を守ることを託されている大国及び一九五四年のジュネーヴ協定の下で特別の責任を有している諸国が、カンボディアにおいて、それにふさわしい行動をとる兆候がみられないと述べた。ジャカルタにおける今次会議は、それ故に事態の悪化を阻止し、カンボディア国民が外部からの干渉なしに自からの問題を解決することができるようにするため、カンボディアに平和的環境を回復することに貢献しようとする公正な努力の第一歩として開催されたものである。これらの目的を達成することは、インドシナ全域について平和的解決を見出すという、より広範な問題についても好ましい影響を与えるであろう。

三、会議の招きにより、カンボディアのサンポール第二副首相兼外相は、同国における最近の事態の推移と現状について説明し、これに関する質問に答えた。

四、会議に参加した閣僚は、善意と相互理解の精神をもって、カンボディア及びこの地域全般における事態に関し、自由かつ率直な意見の交換を行なった。閣僚は、地域的な問題に対処するための第一義的な責任は、まず地域内の諸国に存すること、ならびに平和の回復と維持のためには、当事国及び関係国のすべての間で可能な限り広い基盤に基づく協力が必要であることを認めた。閣僚は、今回の会議において採択された考えが出発点となり、アジア諸国間に意見の一致が広まるにつれて、今回の会議に参加しなかった諸国が今後の討議に参加するであろうとの希望を表明した。

五、閣僚は、特にカンボディアにおける、更には東南アジア全般における平和と平穏を回復することに寄与するとの共通の願望に基づき、この問題に関係ある国連憲章の目的及び原則、特に如何なる国家間の紛争も平和的手段により解決すべきであるとの憲章第一条の遵守を再確認した。閣僚は、また、一九五五年四月開催されたアジア・アフリカ諸国バンドン会議の宣言、特に国家主権と領土保全の尊重及び他国の内政に対する不干渉に関する原則を想起した。

六、閣僚は、国際問題において中立と非同盟の立場を維持し、干渉されずに国内問題を処理したいとのカンボディア国民の願望を認めた。しかしながら、閣僚は、カンボディア情勢を検討し、このまま放置すれば東南アジア全体の平和と安定を一層危うくするようなカンボディアにおける極めて悪化した情勢に深い憂慮をもって留意した。閣僚は、外部からの干渉なしに、一九五七年の同国政府の宣言で規定され、かつ、それ以来幾度もくり返し再確認されてきた厳正中立及び非同盟に関するカンボディアの宣明された政策に従って、カンボディアの将来がカンボディア国民自身により決定されるべきであるとの点について意見の一致をみた。これに関連し、閣僚は、カンボディアの主権、中立、統一及び領土保全を尊重し、同国の国内問題に干渉しないとの一九五四年のジュネーヴ協定の当事者及びその他の関係者の誓約を想起した。

七、上記の諸点を考慮して、閣僚は、次のことを真剣にかつ強く要請する。

 (1)すべての戦闘行為が直ちに停止され、すべての外国軍隊がカンボディア領から撤退すること。

 (2)すべての当事者は、カンボディアの主権、独立、中立及び領土保全を尊重し、カンボディア国民が外部からの干渉または圧力を受けることなく、自らの選択する平和的手段により自己の問題を解決し得るよう、両国の国内問題に干渉しないこと。

 (3)一九五四年のジュネーヴ会議の共同議長国及び参加国ならびに同会議により設置されたカンボディア国際監視委員会の構成国が、同委員会の活動再開につき相互に協議し、協力すること。

 (4)一九五四年のジュネーヴ会議の参加国及び他のすべての関係者が現在の事態の正当な、平和的かつ有効な解決を見出すための国際会議の早期開催について、意見の一致に達するよう相互に協議すること。

八、閣僚は、上記の見解及び勧告を国連の記録にとどめる旨を決定した。閣僚は、これにより、国連の全加盟国が問題の重大さを承知し、国連事務総長及びその他が示唆した線での国際会議の開催によるカンボディア問題の平和的解決のためにあっせんを行なうようにとの希望を表明した。

九、閣僚は、今次の参加者の中から三名即ちインドネシア、日本及びマレイシアの外務大臣に対し、上記の七項(3)及び(4)ならびに八項を実施する方途につき三者の間で、また、その他の関係者及び一九五四年のジュネーヴ協定の共同議長国とも緊急に協議を開始し、かつ国連による措置を求めるため国連事務総長ならびに安保理事会議長及び理事国との話合いの端緒を開くよう要請した。閣僚は、これら三閣僚がその努力の結果を今次会議に参加した政府に通報することを求めた。今次会議の議長は、参加国政府及びその他の関係者と平和的解決のため更にとり得る方途につき協議することを認められた。

十、閣僚は、ジャカルタ滞在中、インドネシア共和国政府及び国民から閣僚及びその代表団に寄せられたあたたかいもてなしと今次会議のための行きとどいた手配に対し深い感謝の意を表明した。