[文書名] 佐藤総理大臣とスハルト・インドネシア共和国大統領との会談に関する共同発表
1 スハルト大統領と佐藤総理大臣は,1972年5月10日及び12日に東京において会談し,両国にとつて共通の関心事である広範囲な事項について率直かつ実り多い意見の交換を行なつた。討議は,真心のこもつたかつ友好的な雰囲気のもとで行なわれ,両国間の相互理解の増進に大きく貢献した。
2 大統領と総理大臣は,国際情勢,特に,ニクソン大統領の中国訪問に引続くアジア情勢の最近の進展について意見を交換し,このような進展に照らしての両国の諸政策を討議した。
3 大統領と総理大臣は,インドシナにおける情勢の悪化に深い懸念を抱き,インドシナ紛争の早急かつ平和的な解決がもたらされるべきであるとの心からの希望を表明した。両者は,両国政府がこの地域の平和と安定を回復するために必要ないかなる援助をも供与するために緊密に協力すべきであることに合意した。
4 大統領と総理大臣は,東アジア及び西太平洋地域における安定と繁栄を達成するために地域協力の重要性が増大しつつあることに満足の意をもつて留意した。大統領は,総理大臣に対し,特に加盟国の国力の充実を目的としたASEANの活動に反映されている東南アジア諸国間の地域的な精神,連帯感及び団結心の増大を説明した。総理大臣は,東南アジア諸国におけるこのような傾向を歓迎し,加盟国の共通の希望であるならば日本国政府がASEANに協力する意思を有することを表明した。
5 大統領と総理大臣は,インドネシアに対する日本国の政府援助において現在までに示された大きな進展に満足の意をもつて留意するとともに,将来に亘りこの協力関係を増進することの必要性を再確認した。大統領は,日本国政府がインドネシア援助国会議の枠内で供与してきた援助に対する謝意を表明するとともに,日本国政府がインドネシアの将来の援助需要に応ずべく,さらに援助の規模を拡大するよう希望を表明した。総理大臣は,インドネシア援助国会議参加諸国の対インドネシア援助が近年増大しつつある事実に照らし,日本国政府がインドネシア援助国会議において引続き積極的な役割を演ずる用意がある旨を述べた。
6 大統領と総理大臣は,両国の民間部門における経済協力の伸長に留意するとともに,両国政府の間の率直な意見交換を通じ,かつ,両国政府がそれぞれ自国の民間部門に適当な支持を与えることにより,さらにこの協力関係を強化する必要があることを再確認した。これに関連して,大統領は,アサハン水力発電及びアルミ精錬プロジェクトが極めて重要であることを強調した。総理大臣は,日本国の関係企業がこのプロジェクトへの投資の認可を与えられた場合には,日本国政府がこれらの企業に支持を与える可能性に言及した。
7 大統領は,日本経済の急速な発展を注意深く観察し,日本経済の拡大の趨勢を維持するために石油が重要な役割を演じていることを深く認識した。大統領は,さらに,日本国が,経済及び社会の各種の分野において調和のとれた発展をするために努力しており,深刻化しつつある公害問題に対処するためには低硫黄石油が必要であることに留意した。これらの点に鑑み,大統領は,現存の商業チャネルを通じる供給とは別個に,10年間に5,800万キロリットルの低硫黄石油を日本国に供給することにつき,インドネシア政府が必要な措置をとることを確認した。総理大臣は,大統領の配慮に感謝するとともに,インドネシアの石油分野における開発に貢献するため現地通貨融資を含む620億円のアンタイドのプロジェクト借款が暖和された条件でインドネシアに供与されるよう日本国政府が協力する用意がある旨,及び,この借款がインドネシア援助国会議の枠内における日本国の援助ではなく,融資買油となるものでもない旨を述べた。
8 大統領と総理大臣は,会談の実り多い成果に反映されている両国間の緊密かつ友好的な絆に満足の意を表明し,国際問題及び両国間関係に影響を与える諸問題につき討議するため,インドネシアと日本国とで交互に開催される両国政府の代表者の間の年次協議が行なわれるべきことに合意した。