[文書名] 第7回東南アジア開発閣僚会議における大平外務大臣冒頭演説
議長
私は最初に閣下が第七回東南アジア開発閣僚会議議長に全会一致で選任されましたことを心からお祝い申し上げます。それとともに,私は今次会議開催準備のために,ヴィエトナム共和国政府が払われた御努力並びにわれわれ参加代表団のために示されたあたたかい接遇に対し感謝いたします。今回はじめて本閣僚会議に出席する機会を得ましたことは,私の最も欣快とするところであります。それだけに今次会議が実りあるものであるようにとの私の期待はひとしお大なるものがあります。
議長
昨年この閣僚会議がマレイシアで開かれてから経過いたしました1年半余りの間に,アジアにおいては国際情勢の変化の徴候を示すいくつかの重要な出来事が相ついで起こりました。昨年における中華人民共和国の国際連合への参加,本年度初頭の米中首脳会談,南北両鮮間における対話の開始などがこれであります。また長期にわたり戦火が続いて来たインドシナ地域については,待望の和平が実現に近づきつつあります。
これら一連の動きがアジアの国々に与える影響には多様なものがあります。しかしこれを全体の趨勢としてみれば,アジアにおける対立と緊張の時代が対話によつて平和を指向する時代へと移行しつつあることを示すものといえましよう。本年9月わが国が中華人民共和国との間に長年にわたる両国間の不正常な状態に終止符を打つ合意を行ないましたのは,まさにこのような時代の潮流の認識に立つて更にこれを一歩進めんがためのものでありました。
すでに本閣僚会議参加諸国には総理大臣の特使を通じて御説明申し上げたとおり,わが国の念願は,日中国交正常化を通じてアジア地域における緊張緩和,ひいては世界の平和に寄与することであります。
東南アジア地域につきましては,わが国は従来から同地域の安定と繁栄に寄与することをわが外交の一貫した基本方針の一つとして参りました。わが国は今後ともこのような基本政策に立脚しつつ,域内諸国との緊密な友好関係をさらに一層増進してゆく所存であることをここに確信いたします。
同時にわが国は,アジアにおいてすべての国が,国の大小や体制の如何にかかわらず自立平等の立場にたつて国際協力を維持,発展させてゆくことが肝要であることを深く認識し,これをわが国の指針として参る所存であります。
議長
以上申し述べましたようにアジア地域において国際緊張の緩和が緒についたことは,まさにこの地域の住民が開発の努力に専念するための好機をもたらすものであります。しかし同時に,この緊張緩和を定着させ,持続的に平和に基礎づけられたより豊かな時代を招来するためには,地域の国々が地道な開発努力を積み重ね,経済及び社会の安定と調和ある発展を達成してゆくことが期待されます。
この意味において私は,東南アジア諸国がそれぞれ開発のためたゆまない努力を重ねられ,着実な成果を挙げられていることに深い敬意を表するものであります。また,各国自らの努力を相互に力づけ,補完しあう地域協力の気運が,東南アジア諸国連合をはじめとして,最近この地域に盛り上りをみせていることは誠に同慶にたえません。
私はこのような域内諸国の努力を通じて,この地域には更に力強い発展と実り豊かな将来が約束されていることを確信するものであります。
議長
わが国は,東南アジア諸国の開発努力に対して従来から積極的な協力を行なつて参りました。最近の実績はお配りした資料で御覧願いたいと思います。開発途上にある諸国の開発に協力することは,国際社会の一員としてわが国の責務であり,わが国はこれを対外政策の基本的な指針の一つとして今後とも努力して参る考えであります。
そしてここにアジアにおける時代の転期にあたり,わが国は平和を志向するアジアの一国として,より一層の繁栄と安定を目指す東南アジア諸国の共同の開発努力に参加し,これら諸国の期待に沿つた役割を最大限に果たしてゆく所存であります。
そのさい開発協力のあり方については,わが国として留意すべきいくつかの問題があると考えます。
まず,開発協力が開発途上国のために供与されるものである以上,これを行なうにあたつては,開発途上国の立場を十分理解した協力関係が肝要であります。わが国は今後一層あらたな心構えをもつてこのような方向にそう協力に努めてゆきますとともに,各方面から御意見があれば常に謙虚に耳を傾けつつ,可能な措置については着実にこれを実行に移して参りたい所存であります。
また,開発協力は開発途上国の経済的自立に資することをその目的とすべきものであります。このような観点からわが国は,今後とも基礎部門の充実をはじめとしてこれら諸国の底力のある発展に寄与すべき息の長い協力に一層心掛けて参りたいと考えます。
さらに,開発途上地域の発展のためには多くの援助国や国際機関の参加が必要であります。東南アジアにつきましては,わが国はアジア開発銀行をはじめとする国際機関及び他の先進国,特にこの地域に隣接する太平洋の諸先進国との間に,地域の開発への共同の参加努力がなお一層強化されることを切に希望するものであります。
議長
わが国は以上の諸点に心を致しつつ,今後次のような方向で開発協力の強化に努力して参る方針であります。そのさい東南アジアの開発需要には特に配慮して参りたいと存じます。
わが国はさきに第三回国連貿易開発会議において政府開発援助をGNPの0.7%まで拡大するとの目標を受諾しました。また,去る10月OECDの開発援助委員会の上級会議においては,援助条件に関する新勧告が採択されました。これらの量及び条件面での援助目標の達成は,率直に申してわが国にとつて決して容易なことではありません。すなわちわが国自身,国内における社会及び経済の開発や調整の必要から,対外経済協力についてなしうることに種々の制約が存在したことは率直に認めざるをえないところであります。このような対内施策の必要に基づく国内の財政需要は,将来もなを根強いものがあります。しかしながらわが国は,今や拡充された経済力をもつて,今後あらゆる困難をのり越えて援助量の拡大及び条件緩和のためにできる限り力を尽してゆきたいと考えております。
援助のアンタイイングにつきましては,わが国は今後とも援助供与諸国間の国際合意促進のため最善の努力を続けてゆきますとともに,国際合意の成立以前においてもわが国援助のアンタイイングの積極的拡大に努力する方針であります。とくにアジアの諸国に対する援助供与にあたつては,援助受入れ国からのアンタイイングの要請には今後とも十分配慮してゆきたい考えであります。
わが国は,かかるアンタイイングの積極的拡大の一環として,この度わが国の供与する借款につき,開発途上諸国からの調達の道を開くこととし,速やかに所要の具体的措置を講ずる所存であります。
なお,わが国の二国間政府借款に関しましては,従来そのアンタイイングにつき一部国内法上の制約が存在しましたが,さきの国会における関係法律の改正によつてこれらの制約は除去されました。これは,只今述べましたアンタイイングの積極的拡大方針を制度的に裏付けるものであります。
議長
開発途上国の開発促進のためには,狭義の援助とともにこれら諸国の輸出の拡大のための諸方策を講ずることが肝要であります。わが国の経済成長は,諸外国に対し極めて有望な輸出市場を提供するものでありますが,わが国は拡大する国内市場を更に各国に開放するため貿易障壁の軽減撤廃に努めて来ており,最近も鉱工業品及び農産加工品につき関税率の原則として一律20%の引下げならびに輸入割当枠の一層の拡大の措置をとりました。
更に,開発途上国からの輸入を一段と促進するため,わが国の特恵制度及び運用につき重要な改善を加えることを検討しております。
わが国としては,本会議参加諸国を含め,開発途上国からの輸入を一層促進するため,以上のような貿易制度上の改善に加え,開発途上国の輸出産業育成等輸出振興に貢献する援助の拡充に努めて参る所存であります。また,このような努力と相手国との協力を通じて,今後とも相互の貿易関係の円滑な進展をはかることをその貿易政策の一主眼としていきたい考えであります。
議長
わが国は,インドシナ諸国民が長期にわたる戦火により大きな被害をうけて来たことを深く悲しむものであります。従つてこの地域に一日も早く平和が到来することを希求して参りました。
当事者が和平にむかつて真剣な努力を重ねていることを高く評価するものであります。
わが国は,かねてから和平実現の暁には,この地域諸国の民生の安定,復興及び開発のために二国間及び多角的協力を通じ出来るだけの協力を行なう所存であることを表明して参りました。平和なくして開発は望めません。わが国としてはインドシナ復興のための国際協力については,政治体制の相違をのり越えて出来る限り多くの国が参加することが望ましいと考えております。
かかる国際協力につきましては,今後のインドシナ情勢の推移や関係諸国の考え方を十分に見極めつつ,わが国としていかなる具体的貢献が有効適切かを鋭意検討して参る所存であります。
議長
この会議は,経済開発問題に関する閣僚の意見交換及び域内諸国間の相互理解の場として,発足以来今回すでに7回を重ねて参りました。アジアに重要な「潮流の変化」が生まれつつある今日,このような共同の意思疎通の場を持つことは,ますます有意義であると考えます。わが国としてはこの会議を通じて今後とも域内諸国の率直なご意見をうかがい,わが国の行なう協力のため,参考として参りたいと存じます。
開発閣僚会議はまた地道な地域協力の場でもあります。この面においては,とくに本年1月東南アジア貿易投資観光促進センターが現実に発足したこと及び東南アジア医療保健機構の設立準備が進展したことを皆様とともによろこびますと同時に,同機構の設立を具体化するための構想が今次閣僚会議において検討され,その採択に至ることを希望するものであります。
このようにして私は,かねて域内の「対話」と具体的な地域協力に着実な業績を重ねて来たユニークなこの開発閣僚会議は,今後とも十分に活用していく意義があることを確信いたしております。
さらに私は,この会議が東南アジアの経済発展と社会的進歩に貢献する共同の方策探究の場として,あたらしい時代に即応した充実と発展をとげることを期待するものであります。私は今回の会議においてこの方向に沿つた皆様の御意見を歓迎いたしますとともに,この機会をかりて,次回会議を,会議が第一歩をふみ出した東京に招請申し上げることを表明する次第であります。