データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第7回東南アジア開発閣僚会議共同コミュニケ

[場所] サイゴン
[年月日] 1972年12月13日
[出典] 外交青書17号,521−526頁.
[備考] 訳
[全文]

 1 第7回東南アジア開発閣僚会議は,1972年12月11日より13日までサイゴンで開催された。

 2 会議にはインドネシア共和国,日本,カンボディア,ラオス,マレイシア,フィリピン共和国,シンガポール共和国,タイ及びヴィエトナム共和国の九カ国が参加した。

 3 会議には,インドネシア共和国のB・S・アリフィン外務省対外経済関係局長,日本の大平正芳外務大臣,カンボディアのキー・タン・リム公共事業・通信大臣,ラオス王国のシースク・ナ・チャムパサク大蔵兼国内経済担当大臣,マレイシアのダトウク・ハジ・アブドル・タイブ・マムド第一次産業大臣,フィリピンのセザール・ヴィラタ大蔵大臣,シンガポールのエンケ・オトマン・ビン・ウオック社会事業大臣,タイのポット・サラシン国家革命評議会副議長及びヴィエトナムのレ・トウアン・アン国家計画開発大臣が首席代表として出席した。

 4 会議には,また,オブザーバーとしてアジア開発銀行総裁井上四郎氏,国際連合アジア極東経済委員会経済部担当官チンナウォート・ソォーンソルシマ博士,国際連合食糧農業機関インド・太平洋漁業理事会アジア極東地域事務局地域漁業担当官ドミンゴ・D・タピアドール氏,東南アジア漁業開発センター事務局長アポン・スリブヒブハッド氏,東南アジア貿易投資観光促進センター事務局長吉川重蔵氏,国際連合開発計画のオットー・ヤノンノネ氏ならびに世界保健機関のスタリナス・フラッシュ博士が出席した。

 5 会議は,ヴィエトナム共和国副大統領チャン・バン・フオン閣下により開会され,同副大統領はヴィエトナム共和国政府ならびに国民の名において各国代表及びオブザーバーを歓迎した。

 同副大統領は,ヴィエトナム国民がすべて生きるに値する生活を享受できる,繁栄しかつ平等な社会の建設の目標を追求しうるために平和を熱望している旨表明した。

 副大統領は,これまでの経験の示すところにより,地域協力が大きな恩恵をもたらすものであることに注目した。副大統領は,更に,今次会議及びその後の会議の結果,更に多くの地域プロジェクトが生まれるようにとの希望を表明した。

 副大統領は,訓練とリーダーショップの重要性を強調すると同時に,域内の先進国と開発途上国が国民の技術と知識をたかめるために協力し,個人ならびに国家の福祉に貢献しつつあることを特に歓迎した。

 副大統領は,東南アジアの開発に対するヴィエトナム国民の支援と貢献を誓約した。ヴィエトナム国民は自らの将来及び地域の将来に信をおいており,公平かつ繁栄する社会建設の理想とすべての国民の願望を追求することを決意している。

 6 会議は,討議の対象となる諸問題が出席したすべての加盟国に対してもつ重要性に留意しつつ,卒直に,和気あいあいと,かつ建設的に討議を行なつた。会議はアジアにおいて進みつつある緊張の緩和が,経済,社会開発に集中するための機会を拡大することに注目した。安定し,かつ調和のとれた開発を達成するためには,会議参加国がそれぞれ,また地域として,継続する現実的な努力を行なうことが必要であろう。

 7 東南アジアの経済開発の全般的進展と問題点を評価するに当り,会議は,東南アジア地域の各国が程度を異にはするが,それぞれ経済的発展を達成したことに注目した。かかる発展は各国の主要な問題のなかでも,インドネシア及びマレイシアについては世界の一次産品貿易における慢性的な変動,フィリピンについては,天災,社会的不安,穀物の病虫害及び国際通貨調整が貿易に与える悪影響,シンガポールについては,限られた土地と天然資源の乏しさ,また,タイについては,増大する民間部門の対外債務にかかわらず達成されたものである。カンボディアとラオスは特別の場合であるが,長期にわたるインドシナにおける戦火によりその経済発展が引続き悪影響を受けた。一方,ヴィエトナム共和国は,戦火にかかわらず,その経済開発をすすめる努力を成功裡に行なつている。

 8 会議は更に,加盟国の当面する諸問題の解決のため,いくつかの代表団の行なつた示唆及び提案に注目した。地域の開発途上国に対し,援助のアンタイイングを含め,緩和された条件の援助が一層供与されるようにとの要請があつた。工業化と,天然資源を基礎とする製品,半製品輸出を援助するため,比較優位を基礎とする補完的生産を目的として,一層の貿易自由化が先進国の対外貿易政策に反映されるようにとの強い要請があつた。天然産品と合成品の競合が東南アジア諸国に与える悪影響に留意し,例えばゴムの場合,東南アジアからの天然ゴムの生産及び生産性の増大にてらして不当な合成品生産能力の拡大は不要であるとの示唆がなされた。インドシナへの平和の復帰は一層の地域経済協力を容易にするであろうし,また,この地域の復興に向つての共同の行動がなされ,そこでは日本が一層積極的かつ意欲的な役割りを果し,一層大きな責任を負うことが期待されるとの希望の表明があつた。和平実現の見通しにかんがみ,インドシナ三国の復興の諸問題に関する研究を直ちに始めることが有用であろうとの示唆があつた。東南アジア投資前基金の設置に関する提案があつた。これについては,次回閣僚会議における討議のためヴィエトナム共和国から詳細な報告が提出されるであろう。

 9 会議は,東南アジア諸国との緊密な友好関係を更に一層増進していき,かつ,この地域の安定と繁栄に寄与していくとの日本政府の確固たる意図に注目した。

 会議は,日本がその拡充された経済力をもつて,今後あらゆる困難を乗りこえて,援助量の拡大及び条件緩和のために出来る限り力をつくしてゆくであろうことに注目した。

 会議は,日本政府が,援助のアンタイイング化の積極的拡大の方針の一環として,同政府の供与する借款につき開発途上諸国からの調達の道を開くことに決定したとの発表を感謝をもつて注目した。

 会議は更に,日本がインドシナ半島に和平実現のあかつきには,出来るだけの協力を行ないたいとの意向に注目した。

 日本政府は,今後のインドシナ情勢の推移や関係諸国の考え方を見極めつつ,そのような協力のため,いかなる具体的貢献が有効適切かを鋭意検討するであろう。

 会議は更に,日本政府がその貿易相手国と,調和のとれた貿易関係を追求して,努力を払つていることに注目した。

 会議は,これに関連して,開発途上国からの輸入を一層促進するため,一般特恵制度の大幅な改善を検討する旨日本政府によつて表明された措置を歓迎した。

 10 会議は,運輸及び通信の分野における地域協力に,重要な進歩がみられたことに留意した。

 東南アジア諸国の要請に基づき,1970年から1990年に至る期間のあらゆる運輸手段についての勧告を含む地域運輸調査がアジア開発銀行の主催のもとに完成した。

 更に,東南アジア地域運輸通信開発局が,東南アジア運輸通信高級官吏調整委員会の常設事務局としてクアラ・ルンプールに設立された。

 会議は,便宜及び適格な職員を従来臨時事務局に確保してくるについてのマレイシア政府の援助に対し,感謝の意を表明した。会議は,本プロジェクトに対し全面的な支持を与えることに同意した。

 11 会議は,東南アジア漁業開発センターの訓練及び調査両部局が,限られた資金にもかかわらず,進歩していることを評価した。

 会議は,フィリピン共和国における養殖部局の設置に関する進歩に留意した。

 会議は更に,センターがその活動計画実施のため,友好的資金源からの一層の財政的援助を必要としていることに留意し,これらの需要が出来るだけ速やかに充足されるよう強く希望した。

 会議のすべての参加国がセンターに加盟するようにとの希望が再び表明された。

 12 アジア開発銀行総裁は,同銀行の活動状況に関する進歩状況を報告し,提案されている特別基金の改組につき特に関心を払つた。これら改組は特別基金の構成にかかわるものであり,資金の流れを容易にすることを目的とし,それによりすべての国が利益を受けることとなろう。新しい基金に,資金を動員する手段は講じられつつあり,1975年までの新規拠出金の目標は6億2,500万米国ドルに設定された。

 なお,今後なすべきことは多々残つているが,銀行は先進加盟国及び開発途上にある加盟国の強い支持を得て,地域の経済開発に相応の役割を果すことが出来るとの確信を述べた。

 会議は,農業特別基金を多目的特別基金に統合したいとの銀行の提案に支持を与えた。

 会議は,これらの特別基金の運用に当つては,当該国の経済的地位には関係なく,社会経済的プロジェクトの促進を考慮するよう,より大なる柔軟性が取入れられるべきであるとの示唆に留意した。

 13 会議は,アジア開発銀行による1970年代の東南アジア経済の研究を検討するため開催された地域会合の報告書の提出をうけた。

 会議は,この地域会合における結論,特に次の諸点につき閣僚会議参加国政府が留意するよう勧告した。

  (1) 緑の革命の成功にもかんがみ,農産物輸出促進のための金融,生産に関連する諸問題,ベスト・コントロール等の共通の関心事項のフオロー・アップに努めるべきである。

  (2) 失業問題,都市化の問題等の関連事項とともに,家族計画問題に地域ベースで取組むべきである。

  (3) 工業化政策は,可能な限り地域的配慮に立つべきである。

  (4) 貿易問題についての話合いは,域内貿易の拡大を究極の目的として,産業別に行なわれるべきである。

  (5) 地域の戦後の計画については,域内の協力を基礎とするのが最善のアプローチである。

 会議は,参加国政府の高級官吏の会合を近い将来東京で開催し,そこにおいて本件アジア開発銀行の調査についても更に検討を加えたいとの日本政府の申し出を感謝をもつて注目した。

  14 会議は,東南アジア貿易投資観光促進センターが最近東京に設立されたことに満足をもつて注目し,それが先進諸国と開発途上諸国との間の「開発におけるパートナーシップ」精神を真に表明するものであるとみなした。

 会議は,センターの活動がその意図した目的を達成するため,更に効果的に機能し得るよう一層強化されるべき旨合意した。

 会議は,若干の制度上及び財政上の問題がセンター運営のこの初期の段階で依然存在することに注目するとともに,これらの諸問題が加盟国政府間の話合いによつて解決されることを期待した。

  15 会議は,人口問題及び家族計画に関する政府間調整委員会の三カ年作業計画に注目した。この作業計画の実施は既に始まつており,会議は,このプロジェクトに対し2国間及び多国間ベースの協力が寄せられていることに注目した。

 政府間調整委員会の作業に対する熱意ある反応は,この枢要な活動の将来の発展の見通しを明るくするものである。

 16 会議は,租税条約交渉について東南アジア諸国に対する共通の指針を起草する任務をもつたアド・ホック作業部会を設立する旨のインドネシア政府の提案を含むアジア租税行政及び調査に関するスタデイ・グループの第2回報告に注目した。

 会議は,租税問題に関して,情報及び意見を交換するため,更に会合を開くことが有用なる旨合意し,スタデイ・グループの第3回会合の主催国になるという日本政府の申し出を感謝をもつて受諾した。

 会議は,同会合の主催国に対し,「アジア租税行政及び調査のためのセンター設立に特に関連する情報の交換」を議題に加えるようにとの示唆に注目した。

 会議は,次回会合の議題に次の2つの追加議題,すなわち(1)天然資源に基礎をおく産業に対する租税,及び(2)貿易の促進と拡大に主眼をおく関税行政を含めたいとのフィリピン政府の提案に留意した。

 17 会議は,東南アジアにおける経営教育の必要性に関する調査を国別及び地域レベルにおいて実施するために任命されたコンサルタントの勧告に注目した。コンサルタントは,国別レベルにおける経営教育の努力を増加すべき旨強調することに加えて,各国の努力を支持し調整するため地域的経営連合の設立を勧告した。しかしながら,会議は,この措置をとる前に慎重であるべきであると強く希望した。既存の地域的機関の活用が十分に調査されるべきである。

 会議は,経営教育が大企業のみならず,小企業においても果し得る重要な役割を強調した。会議は,経営教育の重要性を認識しつつ,各国政府が自国の国内開発計画に適当なプライオリテイを付することを勧告した。

 18 会議は,東南アジアにおける地域的医療機構設立に関する作業部会の報告を了承し,東南アジア医療保健機構(SEAMHO)の設立に原則的に合意した。

 会議は,(1)同機構設立のための条約草案を詳細に検討し,最終的なものにするために,政府間グループが設立されるべきこと,及び同グループの会合を主催するとの日本政府の申し出を歓迎すること,(2)機構の活動の範囲及び機構によつて採り上げられることとなる事業につき,意見の交換と調整が行なわれるべきであること,及び(3)条約の採択に先立つて厚生大臣会議が開催されるべきであることに合意した。

 会議は,公衆衛生及び殺虫剤規制に関する臨時事務局の報告に留意し,保健衛生向上のための実施及び企画についてのセミナー開催の必要性を認め,同セミナーを主催するとのインドネシア政府の申し出を満足をもつて受諾した。

 会議は,公衆衛生及び殺虫剤規制に関する作業部会の事業の一部が,SEAMHOの事業に統合される可能性に留意した。

 19 会議は,ヴィエトナム政府が東南アジア工科大学をヴィエトナムに設立するとの提案を,詳細な予備調査をもつて具体化するために行なつている努力に満足の意をもつて注目した。

 会議は,工科大学設立のために,このプロジェクトを詳細に調査するための作業部会の開催の可能性を含め,更に措置が可及的速やかにとられることを勧告した。

 20 開発援助に関する作業部会の設置についての暫定的調査結果がインドネシア代表団により会議に報告された。会議は,この地域における社会的及び政治的不安を伴つた経済発展の目的を達成するための総合的な地域開発援助計画を策定することの必要を認めた。

 21 会議は,第八回東南アジア開発閣僚会議を1973年中に東京で開催したいとの日本政府の招請に注目し,感謝をもつてこれを受諾した。

 会議は,閣僚会議の会合と会合の間においても,引続き協議を継続すべきであるとの願望を再確認しつつ,次回会議の準備のため,外交代表の間の所要の協議の他,近い将来東京において高級官吏の会合を開催したいとの日本政府の招請に注目した。

 22 会議は当地に参集した各国代表団にあたたかい歓迎とゆきとどいた接遇ならびに能率的な便宜を与えたヴィエトナム共和国政府及び国民に対し深い感謝を表明した。

  昭和47年12月13日 於サイゴン