データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 田中総理大臣のフィリピン共和国公式訪問に際しての日・比共同発表

[場所] マニラ
[年月日] 1974年1月9日
[出典] 外交青書18号,49−52頁.
[備考] 仮訳
[全文]

1 日本国総理大臣田中角栄閣下は,フィリピン大統領フェルディナント・E・マルコス閣下の招待により,1974年1月7日から9日までフィリピンを訪問した。

2 総理大臣は,1974年1月8日,大統領を表敬した。大統領と総理大臣は,同日極めて友好的,誠意にあふれかつ率直な雰囲気のもとに会談を行い,両国間に存在する友誼と相互信頼を再確認した。

3 会談において,総理大臣は,東南アジア諸国との間に,平和と繁栄を共に探究しかつ分かち合う良き隣人の関係を促進し強化したいとの日本の真摯な希望を表明した。総理大臣は,また,日本が東南アジア諸国との関係において,各国の自主性を最大に尊重し,各国の経済的自立の努力を阻むことなくその発展に貢献することを基本原則としていることを確認した。大統領は,右の発言を多大の関心と理解をもつて聴取した。大統領と総理大臣は,このような精神と原則に基づき,日比関係を含む日本と東南アジア諸国との関係を更に良好なものにしていくための一層の建設的努力が払われるべきであることに意見の一致をみた。

4 大統領と総理大臣は,地域的連帯および協力の精神がアジア全域の平和と繁栄に貢献するものであることを確認し,地域協力の重要性が増大しつつあることに満足の意をもつて留意した。

 両者は,アジア・太平洋地域における地域協力が関係諸国,特に,東南アジア諸国の希望と利益にかなうように促進されるべきであることを強調した。

 この関連において,総理大臣は,ASEANの重要な役割に留意し,東南アジア地域の安定と繁栄のために,ASEANがますます活発な活動を行つていることを高く評価した。

 大統領と総理大臣は,ASEAN加盟諸国の願望に沿いつつ,ASEAN地域の調和のとれた発展を促進するために日本のなし得る貢献につき討議した。

5 大統領と総理大臣は,両国が共通の関心を有する現下の国際情勢,なかんずく東南アジアの情勢について率直な意見を交換した。両者は,全ての平和と繁栄を享受し得る諸条件が確立されるべきであるとの両国共通の願望を表明した。

6 大統領は,アジア地域に影響を及ぼす重要な問題に関し必要とされる場合に相互協議のため招集されるアジア・フォラムの設立が望ましいことを説明した。

 総理大臣は,この提案に関心を表明し,この構想がアジアの連帯の気運を醸成するための広範な努力の一環として発展していくことを希望した。

7 大統領と総理大臣は,両国政府が国際連合およびその他の国際的な場において引続き協力を行うことが重要であることを再確認した。

8 大統領と総理大臣は,ヴィエトナム平和に関するパリ協定並びにラオスにおける平和に関する協定および同付属議定書の締結を歓迎し,関係各国によるこれら諸協定の忠実な遵守および実施がインドシナにおける安定的かつ永続的な平和の確立のために不可欠であることに合意した。両者は,カンボディア問題は外部からの介入を受けることなくカンボディア国民自身により平和裡に解決され,同地域に出来るだけ速かに平和が回復されることを希望した。

9 大統領と総理大臣は,中東における未解決の紛争が世界の平和と繁栄を脅かしていることに留意し,国際連合の関係諸決議,特に,安全保障理事会決議242の早急な実施により,同地域に可及的速かに公正,かつ,永続的平和がもたらされるべきであることに意見の一致をみた。

 この関連において,両者は,中東和平に関するジュネーヴ会議の開催を歓迎し,この会議が大きな成功をおさめるようにとの希望を表明した。

10 大統領は,現在フィリピンが建設に努力している「新社会」の目的および目標について説明した。総理大臣は,大統領と全フィリピン国民のかかる精神的な努力に敬意を表するとともにその成功を祈念し,日本国政府がフィリピンの進歩と繁栄のために引続き協力を行う用意のあることを再確認した。

11 大統領は,総理大臣が両国間の協力が高度に必要であることに対する真摯な理解に基づき,引続き援助を行うとの方針を誠意をもつて再確認したことに特に留意し,フィリピンの開発努力に対し日本から供与された援助に対し深甚なる謝意を表明した。

12 大統領は,フィリピンが外国からの投資,特に創始分野および優先分野に対する投資を歓迎している政策,およびフィリピンにおける外国投資の導入,事業およびサーヴィス活動の指針と奨励策につき説明した。大統領は,さらに工業製品の輸出を促進するために既にとられている国内産業の発展,保護,合理化政策につき説明した。総理大臣は,大統領の説明を理解をもつて聴取し,可能な協力の分野を検討することに関心を表明した。

13 大統領と総理大臣は,1973年12月27日に日比友好通商航海条約の批准交換が行われたことは両国の友好および相互信頼の増大を如実に反映する歴史的な里程標であつたことに合意した。大統領と総理大臣は,この精神に沿つて両国間の友好的かつ互恵的な関係が一層強化されるべきことを強調した。

14 大統領と総理大臣は,両国間の相互理解を増進させるために,あらゆる分野における人的接触と交流を拡大することが極めて重要であることに意見の一致をみた。この関連において,総理大臣は,日本国政府がアジアの青年間の友好と相互理解の増進を目的とする「東南アジア青年の船」の計画を発足させる意図を有していることを明らかにした。総理大臣の希望は,この計画がフィリピンの青年に対し,日本および東南アジア諸国をこれら諸国の青年とともに訪問する機会を提供することにある。大統領は,この計画が東南アジアおよび日本の青年間の理解の増進に対し貴重な貢献を果すようにとの希望を表明した。

15 大統領と総理大臣は,今次の総理大臣のフィリピン訪問が両国間の友好と協力関係の一層の強化に大きく寄与したことに満足の意を表明した。両者は,今回の訪問が両者の個人的接触を確立する機会をもたらしたことを歓迎し,今後ともかかる接触を維持し,かつ,強化したい旨希望した。

16 総理大臣は,フィリピン滞在中に総理大臣および随員一行が受けた友情に満ちた暖かいもてなしに対し衷心より感謝の意を表明した。