データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 田中総理大臣のタイ国公式訪問に際しての日本とタイとの共同発表

[場所] バンコク
[年月日] 1974年1月11日
[出典] 外交青書18号,53−56頁.
[備考] 仮訳
[全文]

1 日本国総理大臣田中角栄閣下は,タイ国政府の招待により1974年1月9日から11日までタイ国を公式訪問した。

2 タイ国滞在中,田中総理大臣は,1974年1月9日王宮を訪れて記帳を行つた。

 田中総理大臣は1月10日,サンヤ・タマサーク首相と率直かつ友好的な雰囲気の中で会談を行い,両国における友好関係の一層の強化と相互理解の促進の必要性を再確認した。

3 田中総理大臣は,東南アジア諸国との間に平和と繁栄を共に等しく享受する良き隣人の関係を促進し,強化したいとの日本の願望を表明した。

 田中総理大臣は,日本の東南アジア諸国に対する政策の基本原則を説明するにあたり,日本は東南アジア諸国国民の願望を最大に尊重し各国の経済的自立への努力をはばむことなく,その社会的,経済的発展に積極的に貢献したい旨述べた。

 サンヤ・タマサーク首相は,この地域における平和と繁栄を支持する日本の有益かつ建設的な役割を認めつつ,これらの説明を歓迎した。

 両者は,日・タイ両国の関係を良き隣人の関係の精神および互恵の確保を目的とした平等と公平の原則に基づき一層良好なものにすべく,日本とタイ国が更に建設的な努力を払うべきことに意見の一致を見た。

4 両首相は,アジアの情勢をはじめ両国が共通の関心を有するその他の問題を含む現下の国際情勢について率直な意見の交換を行つた。

 両者は,すべての東南アジア諸国が主権,領土保全および経済的自立の尊重という基礎の上に,永続的平和と繁栄を享受し得る諸条件がつくり出されるべきであるとの強い希望を表明した。

 この目的のため,両首相は,アジア・太平洋地域の諸国が国際連合およびその他の国際的・地域的な場において共同の努力を行うことが重要であることに意見の一致をみた。

5 両首相は,ヴィエトナムにおける戦争を終結させ平和を回復させる協定の成立,ラオスにおける平和を回復し,国民的和合を実現させる協定ならびに同協定議定書の締結を歓迎した。両者は,関係各国によるこれら諸協定の忠実な実施がインドシナにおける安定的かつ永続的な平和の確立のために枢要であることに合意した。同時に両者は,カンボディア問題は外部からの介入を受けることなくカンボディア国民自身により平和裡に解決され,カンボディアに出来るだけ速やかに平和が回復されることを強く希望した。両首相は,アジア・太平洋地域の諸国が,インドシナ問題,特に戦後のインドシナの再建,復興および経済開発につき,より一層の関心を持つ必要を認めた。

6 田中総理大臣は,ASEANの地域的連帯の精神に留意し,東南アジアの安定と繁栄のためのASEANの成果と活動を高く評価した。

 両首相は,地域的協力とパートナーシップの精神がアジア全域の平和と繁栄の達成に貢献するものであることを確認し,かかる地域協力の重要性が増大しつつあることに満足の意をもつて留意した。

 両者は,アジア・太平洋地域における地域協力が同地域の諸国民,特に東南アジア諸国民の希望と利益にかなうように促進されるべきであることを強調した。

7 両首相は,両国間の貿易を一層促進することの重要性を再確認し,最近数年間においてタイ国の対日輸出の着実な増大傾向がみられるに至つたことを歓迎した。

 両者は,両国間の貿易不均衡が依然として重要な問題であり,その公正かつ有益な解決のために双方において政府および民間のたゆまざる努力を必要としていることを認めつつ,本問題解決にあたり日・タイ貿易合同委員会が引続き重要かつ有効な役割を果たしていることに意見の一致をみた。

 両者は,両国の政府および民間関係者が,より均衡のとれた貿易関係を確立し,かつ維持するべく更に相互の積極的な努力を払うようにとの希望を表明した。

8 サンヤ・タマサーク首相は,タイ国の第3次5カ年経済開発計画の目的と満足すべき進捗状況に留意して,タイ国の開発努力に対する日本国政府からの援助に謝意を表明した。

 田中総理大臣は,引続きタイ国の経済開発に協力するとの日本国政府の意向を再確認した。

 この関連において,両首相は,日本のタイ国に対する円借款の条件がタイ国の利益となるようさらに緩和されることにつき意見の一致をみた。

9 両首相は,両国間の相互理解を増進させるために,あらゆる分野における人的接触と交流を拡大することが極めて重要であることに意見の一致をみた。この関連において,田中総理大臣は,日本国政府がアジアの青年間の友好と相互理解を目的とする「東南アジア青年の船」の計画を発足させる意図を有していることを明らかにした。田中総理大臣の希望は,この計画がタイ国の青年に対し,日本および東南アジア諸国をこれら諸国の青年とともに訪問する機会を提供し,かくしてこれらの青年すべてにくつろいだ雰囲気の下で相互理解を深める機会を提供することにある。サンヤ・タマサーク首相は,この提案を親善と建設的努力の意志表示として歓迎した。両者は,この計画が東南アジア諸国および日本の青年の間の理解の増進に対し貴重な貢献を果すようにとの希望を表明した。

10 両首相は,今次の田中総理大臣のタイ国訪問が両国間の友好と協力関係の一層の強化に大きく寄与したこと,および,右訪問が両者の個人的接触を確立する機会をもたらしたことを歓迎し,今後ともかかる接触を維持し,かつ,強化したい旨希望した。

11 田中総理大臣は,タイ国滞在中に総理大臣および随員一行が受けた友情に満ちた暖かいもてなしに対し衷心より感謝の意を表明した。