[文書名] 田中総理大臣のシンガポール共和国公式訪問に際しての日本とシンガポールの共同新聞発表
1 田中角栄日本国総理大臣は,シンガポール共和国政府の招待により,1974年1月11日から12日までシンガポールを公式訪問した。
2 田中総理大臣は,1月12日,シンガポール大統領ベンジャミン・ヘンリー・シアース博士を表敬した。
3 田中総理大臣とリー・クァン・シンガポール首相の間の公式会談は,1月11日極めて率直かつ友好的な雰囲気のもとに行われ,ここの雰囲気は両国間に存在する友誼と相互信頼の関係を再確認するものである。
4 会談において,田中総理大臣は,東南アジア諸国との間に,平和と繁栄を分かち合う良き隣人の関係を促進し強化したいとの日本の真摯な希望を表明した。田中総理大臣は,更に,日本が東南アジア諸国の自主性と経済的自立への希求を尊重しつつ,その発展に引続き貢献することを確認した。両首相は,このような原則と理解を基礎として,日・シ関係を含む日本と東南アジア諸国との関係を更に良好なものにしていくための一層の建設的努力が払われるべきであることに意見の一致をみた。
5 両首相は,現下の国際情勢,なかんずくアジアの情勢について意見を交換した。両首相は,全ての東南アジア諸国が各国の主権および一体性の尊重と経済的自立の基礎の上に確保される永続的平和と繁栄を享受し得る諸条件が確立されるべきであるとの両国共通の願望を表明した。
両首相は,両国政府が国際連合およびその他の国際的な場において引続き協力を行うことが重要であることを再確認した。
6 田中総理大臣は,ASEANの重要な役割に留意し,東南アジア地域の安定と繁栄のために,ASEANがますます活発な活動を行つていることを高く評価した。
両首相は,地域的連帯および協力の精神がアジア全域の平和と繁栄に貢献するものであることを確認し,地域協力の重要性が増大しつつあることに満足の意をもつて留意した。両首相は,アジア・太平洋地域における地域協力が関係諸国,特に,東南アジア諸国の希望と利益にかなうように促進されるべきであることを強調した。
7 田中総理大臣は,シンガポールの工業化と社会開発の目覚ましい成果を高く評価した。両首相は,両国が国際社会において緊密なパートナーとして協力していくことを再確認した。
8 両首相は,両国間の相互理解を増進させるために,あらゆる分野における人的接触と交流を拡大することが極めて重要であることに意見の一致をみた。この関連において,田中総理大臣は,日本国政府がアジアの青年間の友好と相互理解の増進を目的とする「東南アジア青年の船」の計画を発足させる意図を有していることを明らかにした。田中総理大臣の希望は,この計画がシンガポールの青年に対し,日本および東南アジア諸国をこれら諸国の青年とともに訪問する機会を提供することにある。
リー首相は,この計画を友好の積極的な意思表示として歓迎し,この計画が東南アジアおよび日本の青年間の理解の増進に対し貴重な貢献を果すようにとの期待を表明した。
9 両首相は,今次の田中総理大臣のシンガポール訪問が両国間の友好と協力関係の一層の強化に大きく寄与したことに完全な満足の意を表明した。両首相は,今回の訪問が両者の個人的接触を新たにする機会をもたらしたことを歓迎し,今後ともかかる接触を維持し,かつ,強化したい旨希望した。
10 田中総理大臣は,シンガポール滞在中に田中総理大臣および随員一行が受けた友情に満ちた暖かいもてなしに対し衷心より感謝の意を表明した。