データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 田中総理大臣のマレイシア公式訪問に際しての日本とマレーシアの共同新聞発表

[場所] クアラルンプール
[年月日] 1974年1月14日
[出典] 外交青書18号,60−62頁.
[備考] 仮訳
[全文]

1 田中角栄日本国総理大臣は,マレイシア政府の招待により,1974年1月12日から14日までマレイシアを公式訪問した。

2 田中総理大臣は,1月14日,国王陛下に拝謁した。田中総理大臣は,1月14日ラザク,マレイシア首相と極めて率直かつ友好的な雰囲気のもとに会談を行い,両首相は両国間に存在する友誼と相互信頼の関係を再確認した。

3 会談において,田中総理大臣は,東南アジア諸国との間に,平和と繁栄を分かち合う良き隣人の関係を促進し強化したいとの日本の真摯な希望を表明した。田中総理大臣は,また,日本が東南アジア諸国との関係において,各国の自主性を最大に尊重し,各国の発展と経済的自立のための努力に貢献することを基本原則としていることを確認した。ラザク首相は,右の説明を満足の意をもつて聴取した。両者は,右に述べられた精神と原則を基礎として,日本とマレイシアとの関係を更に良好なものにしていくための一層の建設的努力が払われるべきであることに意見の一致をみた。

4 両首相は,両国が共通の関心を有する現下の国際情勢,なかんずくアジアの情勢について率直な意見を交換した。両者は,全ての東南アジア諸国が主権尊重の原則と経済的自立の基礎の上に確保される永続的平和と繁栄を享受し得る諸条件が確立されるべきであるとの両国共通の願望を表明した。この目的のため,両首相は,両国政府が国際連合およびその他の国際的な場において引続き協議を行うことが重要であることを再確認した。

5 両首相は,ヴィエトナム平和に関するパリ協定並びにラオスにおける平和に関する協定および同付属議定書の締結を歓迎し,関係各国によるこれら諸協定の忠実な遵守および実施がインドシナにおける安定的かつ永続的な平和の確立に貢献することに意見の一致をみた。両者は,カンボディア問題はカンボディア国民自身により平和裡に解決され,同地域に出来るだけ速かに平和が回復されることを希望した。

6 両首相は,地域的連帯および協力の精神がアジア全域の平和と繁栄に貢献するものであるとの確信を表明した。この関連において,田中総理大臣は,東南アジア地域におけるASEANの重要な役割に留意した。田中総理大臣は,東南アジアの安定と繁栄のためのASEANの活発な活動ならびに東南アジアを平和・自由・中立地帯として確立しようとのASEAN諸国の努力を高く評価した。

7 両首相は,日本のマレイシアに対する経済協力について討議した。ラザク首相は,マレイシアの経済開発における日本の協力に深甚なる感謝の意を表明した。ラザク首相は,田中総理大臣に第2次マレイシア計画の下におけるマレイシアの進歩につき説明した。田中総理大臣は,マレイシアの開発努力に感銘を受けた旨を述べるとともに,その努力に対し日本は引続き協力する用意がある旨を表明した。この関連において,田中総理大臣は,第2次円借款がマレイシアの現行の諸開発事業計画に殆んどすべてコミットされたことに留意しつつ,日本は第2次マレイシア計画のために第3次円借款を供与するであろうこと,および,両国の政府当局がその詳細について話合うため可及的速かに会合するであろうことにつき原則として同意した。

8 両首相は,両国間の相互理解を増進させるために,あらゆる分野における人的接触と交流を拡大することが望ましいことに意見の一致をみた。この関連において,田中総理大臣は,日本国政府がアジアの青年間の友好と相互理解の増進を目的とする「東南アジア青年の船」の計画を発足させる意図を有していることを明らかにした。田中総理大臣の希望は,この計画がマレイシアの青年に対し,日本および東南アジア諸国をこれら諸国の青年とともに訪問する機会を提供することにある。ラザク首相は,この計画が東南アジアおよび日本の青年間の理解の増進に対し貴重な貢献を果すようにとの期待を表明した。

9 両首相は,今次の田中総理大臣のマレイシア訪問が,両国間の友好と協力関係の一層の強化に大きく寄与したことに意見の一致をみた。両者は,今回の訪問が両者の個人的接触を新たにする機会をもたらしたことを歓迎し,今後ともかかる接触を維持し,かつ,強化したい旨希望した。

10 田中総理大臣は,マレイシア滞在中に田中総理大臣および随員一行が受けた友情に満ちた暖かいもてなしに対し衷心より感謝の意を表明した。