データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] フェルディナンド・E・マルコス・フィリピン共和国大統領夫妻の訪日に際しての共同コミュニケ

[場所] 東京
[年月日] 1977年4月28日
[出典] 外交青書22号,359−362頁.
[備考] 仮訳
[全文]

1.フィリピン共和国大統領フェルディナンド・E・マルコス閣下及びイメルダ・ロムアルデス・マルコス夫人は,1977年4月25日から28日まで,日本国を公式訪問した。マルコス大統領夫妻には,外務長官カルロス・P・ロムロ閣下ほか政府の高官が随行した。

2.マルコス大統領夫妻は,4月25日,天皇・皇后両陛下と会見した。

3.4月26日及び27日,マルコス大統領及び福田総理大臣は,両国が共通の関心を有する国際的,地域的な幅広い諸問題ならびに二国間に存在する諸問題について意見交換を行つた。両首脳会談は,フィリピン側よりマルコス夫人,ロムロ外務長官,日本側より鳩山外務大臣,園田官房長官が出席し,親密かつ友好的な雰囲気の中で行われた。

4.会談において,大統領と総理大臣は,現在の国際情勢の下ではすべての国家が相互依存の関係にたつているとの認識を再確認し,各国が世界の平和と繁栄という共通の目標に向つて世界全体の協力を続けることが肝要である旨強調した。両首脳は,アジアにおける平和と安定ならびに同地域の繁栄が世界平和の維持にとつて極めて重要であることを再確認するとともに,両国政府がかかる共通の目的を達成するために協力して建設的努力を行うとの決意を表明した。

5.大統領と総理大臣は,国際連合が国際平和の維持及び国際協力の促進に果たしてきた重要な役割に注目し,両国政府が国際連合及びその他の国際的な場において引き続き協力を行うことが重要であることを再確認した。

6.大統領と総理大臣は,南北関係における諸問題の解決を見出すことが国際社会にとつて極めて重要であることを確認した。

  両首脳は,建設的な南北間の対話を促進するためにあらゆる努力を行うとの両政府の決意を表明した。総理大臣は,国連貿易開発会議及びその他の国際的な場においてフィリピンが果たしている重要な役割を評価し,また,これとの関連で大統領は共通基金の設立に対する支持を得るためにフィリピンが払つている努力を説明した。総理大臣は,更に日本は他の諸国と密接に協力しつつ,貿易,一次産品等の分野における効果的かつ実際的措置を真剣に追求し,国際的合意が得られたものについて着実に実施に移すよう努力するとの意向を表明した。

  両首脳は,特に開発途上国が関心を有する一次産品の国際貿易の安定的条件を,過度の価格変動の防止を含め,生産者にとつては採算がとれかつ正当で,消費者にとつては公平なレベルにおいて実現させ,かつそれにより開発途上国の輸出収入の安定化を助けるための国際的な協力を増進することが必要であることを確認した。

  総理大臣は,日本政府が開発途上国に対する政府開発援助の拡大と改善のため引き続き努力を行う旨述べた。大統領はこれらの措置について感謝の意を表明した。

7.両首脳はガット東京閣僚宣言を想起しつつ,貿易障害の除去及び世界貿易のための国際的枠組の改善を含む各種の方法により,世界貿易の継続的な拡大及び自由化を達成する必要があることで合意した。

8.総理大臣は,大統領に対して,日本の外交政策の柱の1つは,ASEAN諸国との関係の強化であることを確言した。この関連において,総理大臣は,日本政府がASEAN諸国の自主性ならびに国としてまた地域としての強靱性を高めようとする努力を支持するための協力を行う用意がある旨を再確認した。大統領と総理大臣は,ASEANと日本の関係を双方にとつて有益な形で強化するために,ASEAN・日本フォーラムが設立されたことに満足の意を表明した。大統領は,ASEANの一加盟国としてのフィリピンを代表して,総理大臣に対して,ASEANの域内産業協力に対する日本の積極的態度につき謝意を表明した。

  総理大臣は,ASEAN諸国が東南アジアの他の諸国の間に実りある関係と互恵的な協力を発展させる用意があることを歓迎し,このことは東南アジア全体の平和,安定及び発展に貢献するであろうと述べた。

9.大統領と総理大臣は両国が地理的に近接していることならびに両国経済の補完的性格からして,平等と互恵に基づく両国の間の一層緊密な関係が必要である旨を認識した。

10.両国政府首脳は,特に過去5年の間フィリピンの諸産業プロジェクトに対する日本の民間直接投資の流れが明らかに増大していることに示されているように両国間で進展している企業間の協調と協力に対し満足の意を表した。両首脳は,フィリピン政府によつて示された優先分野に配慮しつつ,相互協力を通じて,かかる傾向が継続されるようにとの希望を表明した。

  大統領は,また,これら投資が,公正な諸条件の下で原材料の加工度及び適切な技術の流れを増大させる方法で行われるよう希望した。

11.両首脳は,両国間に存在する友好・協力関係を一層発展させるためには,両国の経済関係を安定した基礎の上において維持し強化することが不可欠であるとの共通の認識に至つた。よつて,大統領と総理大臣は両国政府が友好通商航海条約の交渉を再開することを合意した。両首脳は,また,両国政府が次回交渉を1977年6月に行うことに合意した。

  大統領と総理大臣は,さらに,両国間の経済関係を増進するために租税条約の交渉を再開することに合意した。

12.大統領と総理大臣は,両国間の貿易の着実かつ大幅な拡大に満足の意をもつて留意した。

  両国間の貿易の最近の傾向に鑑み,両首脳は相互の努力により,日本の輸入需要に見合つたフィリピン産品の輸入を促進することの重要性を認識した。

13.総理大臣は,フィリピンの「新社会」における政治,経済及び社会の安定の確立の進展に大きな感銘を受けた。

14.大統領と総理大臣は,両国が友好関係を拡大しつつある事実に満足の意を表し,フィリピンと日本の間の緊密な結びつきを一層強化することに合意した。

  大統領は,日本がフィリピンに対し供与して来た大量の経済・技術援助,特に日比友好道路の建設を通じる協力を評価した。

  両首脳は,両国間の経済協力を一層拡大するための方途を話し合つた。総理大臣は,日本政府がフィリピンの発展と繁栄のため引き続き協力する用意があることを表明した。

  両首脳は日本のフィリピンに対する賠償の支払いが1976年7月に完了したことに満足の意をもつて留意した。

15.大統領と総理大臣は,フィリピンの農業及び漁業の一層の発展と近代化並びにフィリピンの森林の保護の面で可能な協力の方途について話し合つた。

16.大統領は,総理大臣に対しフィリピンの将来の産業発展の基礎を築くために建設される予定のいくつかの大型産業プロジェクトについて説明し,これらプロジェクトの実現のため日本からの技術的及び資金的協力を求めた。総理大臣は,日本は大統領のかかる要請に対し慎重に検討する旨述べた。

17.両首脳は,観光分野での協力は両国の観光産業の振興に役立つものであることに留意した,両首脳は,またフィリピンの観光産業の可能性を十分開発するための共同の努力を促進することに合意した。

18.大統領と総理大臣は,両国が共通に関心を有する国際的,地域的及び二国間の政治,経済問題について,しかるべきレベルで非公式な意見の交換を行うことが望ましいことで意見の一致をみた。

19.両首脳は,文化交流がフィリピン及び日本の両国民間の相互理解を促進する上で重要な役割を果していることに満足の意をもつて留意した。両首脳は,今後ともあらゆる分野における両国民間の接触を増大し交流を拡大すべく努力する旨を再確認した。

20.大統領と総理大臣は,大統領の日本訪問がフィリピン及び日本の両国間の相互理解と友好関係の促進に大きく寄与したことに深い満足の意を表明した。

21.大統領は,日本国政府及び日本国民より,大統領と大統領夫人,そして大統領一行とに対して示された暖かいもてなしと惜しみない歓迎とを多とし,深甚なる感謝の意を表明した。

  大統領は,総理大臣が都合の良い時期にフィリピンを訪問するよう招待した。総理大臣は,深い感謝の意をもつて招待を受諾した。