[文書名] タイのターニン首相主催の晩餐会における福田内閣総理大臣のスピーチ
ターニン総理大臣閣下、令夫人並びにご列席の皆様
本日、私ども一行のために、かくも盛大な晩餐会を催していただき、また、ただ今は、ターニン総理大臣閣下より暖かいお言葉をいただき、心からお礼申し上げます。
貴国とわが国の間には十六世紀後半以来の長い交流の歴史があります。古くはアユタヤー王朝時代から両国間には人の往来と物の交易が進められ、アユタヤーには日本人町も形成されたことは良く知られており、私も子供の頃から絵本で読んで知っていたところです。また、十九世紀後半のチュラロンコーン大帝及び明治天皇の治世には、両国が共に伝統と進歩の調和を計りつつ近代化を進め、相互の関係は更に緊密になり、その後も両国は、アジアにおける数少ない古くからの独立国として、また、ともに皇室を戴く国家として、親密な交流を重ねてきました。
最近における両国間の歴史を振り返って見ても、一九六三年にはプーミポン国王及びシリキット王妃両陛下が国賓としてわが国を訪問され、翌一九六四年にはわが国の皇太子、同妃両殿下が天皇皇后両陛下のご名代として国賓として貴国を訪問されたのをはじめ、わが国歴代首相の多くが貴国を訪れており、私も昨年末の総理大臣就任以来、早く貴国を訪問したいと考えておりました。このたびタイ王国政府のご招待により念願の貴国訪問が実現しましたことは、私及び私の妻の深く喜びとするところであります。
昨日、私及び私の妻は、貴国民から深く敬愛されておられる国王及び王妃両陛下の拝謁を賜わり、引き続き宮中における晩餐にお招きを受ける光栄に浴しました。両陛下からは、その際、暖かいお言葉をいただき感激している次第であります。
総理大臣閣下
東南アジア地域における現下の国際情勢は、新しい段階を迎えております。この地域の諸国を長らくおおっていた戦争の影も消えて、政治的安定の確保と経済的発展の実現のための新たな真剣な努力が必要とされていると同時に、それらの達成が一層現実味を帯びた課題となってきております。かかる国際情勢の下で、ASEAN各国が、その連帯に新たな息吹きを与え、それぞれの国と地域としての強靭性を強化するため、域内協力を一層促進されていることは、私どもとしても最も注目しているところであります。私は、今回第二回ASEAN首脳会議が開かれ、かかる目的達成のための具体的成果を挙げられたことを高く評価するものであります。
総理大臣閣下
翻って、わが国と貴国との関係を見ますと、日・タイ両国関係の強化、増進は単に両国にとって重要であるばかりでなく、広くアジアの平和と繁栄に寄与するところ大なるものがあると確信しております。かかる観点からも私は日・タイ関係の一層の発展のためにいかなる努力も惜しむものではないことをここで明らかに致したいと存じますが、私は正直に申して、日・タイ両国の協力関係の将来は極めて明るいと考えております。その理由は、例えば貿易・経済面について見ても、両国間には、政府及び民間レベルにおいて、一九六八年以来、各々年一回貿易に関する合同委員会が開催されており、密接な協議が行われております。このようなメカニズムは、わが国と他のアジアの諸国との間には例を見ません。更に、両国の有識者の間では、日・タイセミナーが行われており、学識経験者による広い交流の場が設けられています。このように両国間の交流・協力については枚挙にいとまがありません。かかる意味でも両国の協力関係は明るく、私はかかる関係が一層拡大されることを願うものです。
総理大臣閣下
貴総理は十か月前、総理大臣の要職に就かれて以来、精力的に貴国の国力の充実、一層の発展のために尽しておられます。私は貴総理が社会正義の実現、国民福祉の向上及び農村開発を目指して努力されていることに深い感銘を覚えるものであり、貴国がこの目的を達成されることを心から期待するものであります。今回の私の貴国訪問は甚だ短期間ではありますが、私は貴総理をはじめ、貴国の皆様方と有意義な意見交換の機会を持ち得たことを喜びとするものであります。私は、本日の貴総理との会談の際貴総理を日本にご招待申上げ、来月、貴総理はわが国を訪問されることになりましたが、このような対話が東京において継続されることを大きな喜びとするものであります。
総理大臣閣下
私は、私共の貴国滞在中国王陛下、貴総理ををはじめタイの官民各位より寄せられたご厚遇に対し、一行を代表して、深く感謝の意を表するものであります。
このご挨拶を終えるに当たり、ご列席の皆様とともに杯を上げ、国王、王妃両陛下のために、また、ターニン総理大臣閣下ご夫妻のご健康、貴国のご繁栄、そして日・タイ両国の友好のために乾杯したいと存じます。