データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ダトゥク・フセイン・オン首相の訪日に際しての日本とマレイシアの共同コミュニケ

[場所] 東京
[年月日] 1977年9月21日
[出典] 外交青書22号,379−383頁.
[備考] 仮訳
[全文]

1.マレイシア首相ダトゥク・フセイン・オン閣下及びダティン・スハイラ夫人は,日本国総理大臣福田赳夫閣下の招待により,1977年9月18日から23日まで,日本国を公式訪問した。フセイン・オン首相夫妻には,外務大臣トゥンク・アハマド・リタウディン閣下及びトゥンク・ノール・アイニ夫人及びマレイシア政府の高官が随行した。

2.フセイン・オン首相夫妻は,9月19日皇居において,天皇・皇后両陛下に拝謁を賜つた。

3.両首相は,9月19日及び20日の2回にわたり会談を行い,両国関係の様々な分野につき話し合いを行うとともに,共通の関心を有する地域的・国際的な諸問題について,幅広く意見交換を行つた。この会談には,マレイシア側より外務大臣トゥンク・アハマド・リタウディン閣下が同席し,日本側より外務大臣鳩山威一郎閣下及び国務大臣・内閣官房長官園田直閣下が同席した。会談は,両国間の伝統的に緊密な関係を反映して,極めて友好的な雰囲気の中で行われた。

4.福田総理大臣は,本年8月,同総理大臣及びその一行がマレイシアを訪問した際に,マレイシアの政府及び国民から受けた暖かいもてなしについて,改めて感謝の意を表明した。両首相は,クアラ・ルンプールにおける両首相の会談が両国間の相互理解を促進し,また,両国間の緊密かつ友好的な関係を,一層強化することに貢献したことを認めた。

5.福田総理大臣は,ASEAN首脳会議,ASEAN5カ国と豪州・日本及びニュー・ジーランドの首脳の非公式会議及び日本・ASEAN首脳会議等の各会議を成功裡に主催したマレイシアの功績を賞賛した。

6.両首相は,上記の日本・ASEAN首脳会議が日本とASEANとの間の友好的協力関係を大きく前進させた歴史的なできごとであつたことを再確認した。

7.マレイシア首相は,日本が,その経済面,技術面における能力にもかかわらず,軍事大国となることを否定し,また,相互の尊敬及び平等とパートナーシップの精神に立つて,平和政策を追求するという崇高な理想に徹しているとの日本国総理大臣の確信を心から歓迎した。

8.両首相は,両国間の関係を概観して,両国間の接触と協議が益々緊密なものになりつつあり,このことは日本とマレイシアとの間に真の協力の精神が存在することを示すものであるとして,満足の意を表明した。両首相は特に,1977年6月に両国外務省の高級事務当局者間の協議が行われたことを歓迎し,このような対話が,両国間の協力と相互理解を,より一層確固たるものにするものであることを認めた。

  両首相は更に近く両国民間実業界の代表者間において,意志疎通のためのチャンネルが創設される予定であることを歓迎した。

9.両首相は,特に経済・技術協力の分野において,両国間の現在の緊密な関係を増進する諸方途について話し合つた。

  マレイシア首相は,第1次及び第2次マレイシア計画を通じ,日本からの経済・技術協力が,マレイシアの経済開発に大きく寄与したことに謝意を表明するとともに,マレイシアの開発努力におけるパートナーとして,日本が,第3次マレイシア計画に対し,引き続き協力することを要請した。

  日本国総理大臣は,第1次及び第2次マレイシア計画を通ずる開発努力により,マレイシアが,社会・経済開発において顕著な進歩を遂げつつあることを高く評価するとともに,わが国としても,第3次マレイシア計画の諸目的に沿つて,合意されたインフラストラクチャー・プロジェクトに対する円借款及び技術協力の如き方法により,引き続き応分の協力を行う用意がある旨述べた。

10.日本国総理大臣は,マレイシアの開発計画において,同国内外の民間部門の果す役割に重点がおかれていることを歓迎した。この関連において,日本国総理大臣は,マレイシア政府が,マレイシアにおける投資環境を一層良好なものとするための措置をとることを希望した。マレイシア首相は,同国政府がそのためにすでに取つている措置について,詳細に日本国総理大臣に説明するとともに,日本の実業家が,マレイシアの良好な投資環境を十分に利用することを希望する旨述べた。マレイシア首相は,更に,日本の対マレイシア民間投資が,今後とも資本の移動のみならず,近代的な技術及び経営能力の移転をももたらすことを希望した。

11.両国経済の補完性にかんがみ,マレイシア首相は,産業構造の変化に関することがらにつき,日本とマレイシアの間で,連絡と情報交換が行われることが望ましいとの意見を述べた。マレイシア首相は,また海外への移転が適当な日本の産業,特にマレイシアにおいて産出される一次産品及び天然産品を利用するような産業のマレイシアへの誘致を歓迎する旨述べた。

12.両首相は,両国間の貿易が発展的に拡大し,現在では,日本がマレイシアの最大の貿易相手国となるまでに至つていることに満足の意をもつて留意した。

  マレイシア首相は,しかしながら一次産品がマレイシアの日本に対する輸出の約85%を占めている旨を述べ,マレイシアの社会・経済開発計画の実施のために,安定した輸出所得を確保することが重要であるとの見地から,マレイシアの産品,特に付加価値のある製品の,日本市場へのアクセスの改善について日本の協力を要請した。

  これに対し日本国総理大臣は,関税及び非関税障壁の撤廃ないし緩和に関するマレイシアの要望について多国間貿易交渉(MTN)の枠内で更に検討すること,及び一般特恵制度の改善を含む種々の方法により,マレイシアの対日輸出増大努力に対する便宜をはかる用意のあることを明らかにした。

13.両首相は,両国国民間の相互理解を促進し,関係を強化する上で,日本とマレイシアとの間の文化交流が,極めて重要な役割を果すことに留意し,今後両国が,両国民間の文化交流を,あらゆるレベルにおいて更に活発なものにするよう,引き続き努力して行くことに合意した。

  両首相は,日本・ASEAN首脳会議の機会に発表された共同声明において述べられているASEAN内の文化協力に言及し,この望ましい目的に対する支持を再確認した。

  マレイシア首相は更に,マレイシアとしては既に,この問題について真剣な検討を始めており,また,かかる協力を実現するために,マレイシアは他のASEAN加盟国とともに,行動を開始する旨を述べた。日本国総理大臣は,このようなマレイシアの行動を評価するとともに,日本としても,かかる協力に寄与する用意がある旨を再確認した。

14.国際関係に関し,両首相は,南北関係における諸問題について早急かつ満足のゆく解決を見出すことの必要性を再確認し,また永続的な世界の平和と安定を確保するために,国際社会が新しい経済秩序の確立への動きを促進するための努力を強化するよう呼びかけた。かかる目的のために,両首相は,国際社会が,建設的な南北対話促進のためあらゆる努力を行うこと,特に,共通基金の設立を含む諸産品のための総合プログラムの早期実現に向かつて努力を行うように希望する旨を表明した。これに関し,マレイシア首相は,国際スズ協定の緩衝在庫に対する任意拠出を行うことに関する日本の積極的な立場を歓迎した。

15.両首相は,国際貿易における保護主義的傾向の抬頭について,懸念をもつてこれを見守るとともに,国際社会全体に不利益を及ぼし,かつ開発途上国の経済に悪影響を与えて来た国際貿易における保護主義を排除するために,早急に措置が執られる必要がある旨を力説した。

16.両首相は,東南アジアの情勢を概観し,ASEAN諸国とインドシナ諸国の間に,協力的関係が発展することが,同地域の平和と安定に積極的に寄与するであろうとの点で,意見が一致した。

  両首相は更に,今日の東南アジアにおける情勢が,互恵と平和共存の原則の遵守に基づいて,政治・経済・社会制度の相違に左右されない地域協力の有意義な枠組みを推し進めるという目的のために同地域諸国の相互の友好と協力を高める真の機会を提供していることについて,意見が一致した。両首相は,東南アジアにおける永続的な平和,繁栄及び安定は,このような基盤の上にのみ,うち立てられるものであることを確信した。

17.両首相は,ASEANがこの地域の協力とコンセンサスのための自然発生的なものであることを確認した。1967年の創設以来,経済・社会的な協力をその活動の基本とし,自助と連帯の原則の推進をその主要目的として来たASEANの発展は,この地域の建設的かつ平和的な発展と,全面的に軌を一にするものである。両首相は,ASEANが有意義な相互依存関係を達成するために,新たな原動力と広がりを加えようとしており,また,ASEANが地域的及び国際的な平和と進歩に貢献していることを認めた。

18.日本国総理大臣は,日本が東南アジア地域における平和と安定の促進と維持に向けて建設的な努力を行う旨確言し,またこれに関連して,ASEANとの協力を,更に促進するための措置をとる用意がある旨を再確認した。

  マレイシア首相は,この発言に対し深い感謝の意を表明し,日本国総理大臣が,東京において同首相と会談した際及び8月にASEAN諸国とビルマを訪問した際に表明された日本の東南アジアに対する政策を歓迎した。

19.両首相は,国際連合が,世界平和の維持,及び諸国民の福祉の向上のために果している役割を高く評価するとともに,両国政府が国際連合及びその他の国際的な場において,引き続き協力を行うことが重要であることを再確認した。

20.東南アジア地域及び世界における平和と安定を促進するという基本的な信念と変わることなき希望に従い,両首相は,個別に,また共同で,軍縮の推進及び核兵器の拡散防止の促進に対し貢献するよう,引き続き努力するとの意向を再確認した。マレイシア首相は,外部からのいかなる形態ないし方法による干渉も受けることのない東南アジア平和・自由及び中立地帯構想を実現するためのマレイシアの努力について説明した。日本国総理大臣は,同構想を評価し,かつ同構想についての理解を表明した。

21.両首相は,マラッカ・シンガポール海峡における安全通航及び汚染防止のため,引き続きできる限りのあらゆる措置を行うことが重要であることを再確認した。この関連において,日本国総理大臣は,海峡沿岸3カ国が新たに通航分離制度を導入するに際して主要な利用国との間で,IMCOその他の場を通じて,緊密な協議を開始したことを評価した。総理大臣は,日本が,同制度の設立を援助する用意があることを表明した。

22.マレイシア首相は,日本政府及び国民に対し同首相夫妻及びその一行が日本滞在中に受けた暖かい歓迎と手厚いもてなしについて,深い感謝の意を表明した。