[文書名] クリアンサック・チョマナン・タイ国首相の訪日に際しての日本とタイの共同コミュニケ
1.タイ国首相クリアンサック・チョマナン閣下および同夫人は,日本国政府の招待により1979年1月16日から19日まで日本を公式訪問した。
2.クリアンサック首相夫妻は,1月17日,宮中において天皇・皇后両陛下に拝謁を賜わつた。
3.クリアンサック首相及び大平総理大臣は,1月17日及び18日,2回にわたり両国が共通の関心を有する国際問題及び両国間の諸問題について討議を行つた。
この討議には,タイ側よりスントン副首相,ウパディット外務大臣,スパット大蔵大臣,ナム商務大臣,ソンポン総理府付大臣,カセム工業大臣が,また日本側より園田外務大臣,田中官房長官が出席した。会談は,親密かつ友好的な雰囲気の中で行われ,両首相は討議の実りある成果に満足の意を表明した。
4.会談において,両首相は現下の東南アジア情勢につき意見交換を行つた。
両首相は,カンボディアにおける現下の情勢につき深い懸念を表明するとともに,民族自決及び相互内政不干渉の原則に基づき,かつ国連憲章にそつた平和的方法によつてこの地域における平和と安定が可及的すみやかに回復されることを強く希望した。
これとの関連で,大平総理大臣は1979年1月12日,バンコクにおいて開催されたASEAN外相会議で発出された共同声明を強く支持した。
両首相は,東南アジアにおける平和と安定の確保という共通の目的を達成するため関係諸国及び適切な国際機関とともに双方が一層の建設的努力を行うことにつき意見の一致をみた。
5.クリアンサック首相は,大平総理大臣に対し最近のインドシナ難民のタイへの流入の激増により,タイにおける経済的,社会的負担が増大している旨説明した。
これに対し大平総理大臣は,タイに課された厳しい負担を理解するとともに,日本としてはUNHCR及び関係諸国とともにタイにおける負担の軽減及び同国におけるインドシナ難民問題の有効な解決に貢献するため今後とも協力していく旨述べた。
6.両首相は,近年あらゆる分野における二国間の交流が拡大しつつある事実を満足の意をもつて留意するとともに,現在の両国間における緊密かつ友好的な関係を一層ゆるぎないものとするため相互信頼及び相互理解の関係が強化されるよう希望を表明した。
7.両首相は両国間の経済協力につき話し合つた。
クリアンサック首相は,日本の経済及び技術協力がタイ国における経済及び社会の開発にとつて大いに寄与してきたことを高く評価するとともに,外国からの追加的経済,技術協力を必要とするタイ国の第4次5カ年計画につき説明した。
大平総理大臣は,日本としては,既に両国政府間で討議が行われているバンナー港高速道路の建設,ドーン・ムアン空港の拡張,農村電化計画及びその他の優先度の高いプロジェクトの実施のために320億円を限度とする円借款を供与する用意がある旨述べた。
また大平総理大臣は,タイ国の新農村開発計画の実施のため,日本政府はタイ政府に対し,2年度(1979/80−1980/81)にわたつて140億円を限度とする円借款を供与するための必要な措置をとる意向である旨述べた。
クリアンサック首相は,日本政府に対しタイ国における経済及び社会の開発とタイ国民の福祉の向上を一層支援していく日本政府の親密な協力につき謝意を表明した。
8.両首相は両国間の経済関係全般の着実な発展について満足の意を表明した。
9.両首相は,両国間の貿易の安定的な拡大と多様化が両国各々の利益に適うものであることを認識しつつ,両国間の貿易を一層促進することの重要性を再確認した。両首相は,最近の増加しつつある両国間貿易インバランスに留意しつつ,より均衡的な経済関係を達成するよう双方が両国間貿易インバランスの縮少のため引き続き一層の努力を行う必要につき意見の一致をみた。
10.両首相は,文化交流及び特に青少年をはじめとする両国国民間の接触を通じて両国国民間の相互理解を一層促進していく意向を再確認した。
11.両首相は,クリアンサック首相の日本訪問が日・タイ両国間の相互理解と友好関係の一層の増進に大きく寄与したことに意見の一致を見た。
12.クリアンサック首相は,大平総理大臣に対し,タイ国公式訪問の招待を行い,大平総理大臣は,この招待を深甚なる感謝の念をもつて受諾した。
13.クリアンサック首相は,日本国政府及び日本国民より,同首相夫妻及びその一行に対して示された心からの歓迎と暖かいもてなしに対して深甚な謝意を表明した。