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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日本国とフィリピン共和国との間の友好通商航海条約

[場所] 
[年月日] 1979年5月10日
[出典] 日本外交主要文書・年表(3),1053−1057頁.官報,55.7.l2.
[備考] 
[全文]

 日本国及びフィリピン共和国は、

 両国間に存在する友好の関係を維持し、及び強化することを希望し、並びに

 経済の発展のために両国それぞれが必要とし、及び目的とするところに従つて、相互に有利な基礎の上に両国間の貿易及び通商の発展を促進することを希望して、

 友好通商航海条約を締結することに決定し、このための全権を有する、内閣総理大臣大平正芳及び外務大臣園田直と大統領フェルディナンド・E・マルコス及び外務大臣カルロス・P・ロムロは、それぞれ日本国及びフィリピン共和国のために、次の諸条を協定した。

第一条

 いずれの一方の締約国の国民も、他方の締約国の領域への入国並びに当該領域内における滞在、旅行及び居住に関するすべての事項について、第三国の国民に与えられる待遇よりも不利でない待遇を与えられる。

第二条

1 いずれの一方の締約国の国民も、他方の締約国の領域内において、いかなる場合にも国際法の要求する保護及び保障よりも少なくない身体の不断の保護及び保障を享受する。

2 いずれか一方の締約国の領域内で他方の締約国の国民が抑留された場合には、その者の要求に基づき、最寄りの地にある当該他方の締約国の権限のある領事官に直ちにその旨が通報されるものとし、また、領事官は、当該一方の締約国の法令に従つてその者を訪問し及びその者と通信することが許される。その者は、当該一方の締約国の法令に従い、(a)相当でかつ人道的な待遇を受け、(b)自己に対する被疑事実を正式にかつ直ちに告げられ、(c)自己の弁護のための適当な準備に支障のない限り速やかに裁判に付され、及び(d)自己の弁護に当然必要なすべての手段(自己が選任する資格のある弁護人の役務を含む。)を与えられる。

第三条

1 いずれの一方の締約国の国民及び会社も、他方の締約国の領域内において、税金の賦課、すべての審級にわたり裁判所の裁判を受ける権利及び行政機関に対して申立てをする権利、契約の締結及び履行、財産権、法人への参加並びにあらゆる種類の一般の事業活動及び職業活動の遂行に関するすべての事項について、第三国の国民及び会社に与えられる待遇よりも不利でない待遇を与えられる。

2 1の規定にかかわらず、各締約国は、相互主義に基づき又は二重課税の回避若しくは歳入の相互的保護のための協定により、租税に関する特別の利益を与える椎利を留保する。

第四条

 いずれの一方の締約国の国民及び会社の財産も、他方の締約国の領域内において、不断の保護及び保障を受ける。

第五条

1 いずれの一方の締約国の国民及び会社も、両締約国の領域の間における支払、送金及び資金又は金銭証券の移転に関して、並びに他方の締約国の領域と第三国の領域との間における支払、送金及び資金又は金銭証券の移転に関して、第三国の国民及び社会に与えられる待遇よりも不利でない待遇を与えられる。

2 1の規定は、いずれか一方の締約国が、国際通貨基金協定の締約国として有しており又は有することがある権利及び義務に合致するような為替制限を課することを妨げるものではない。

第六条

1 いずれの一方の締約国も、他方の締約国の産品の輸入に対し、又は当該他方の締約国の領域に仕向けられる産品の輸出に対し、いかなる制限又は禁止もしてはならない。ただし、すべての第三国からの同様の産品の輸入又はすべての第三国への同様の産品の輸出に対し同様に制限又は禁止がされる場合は、この限りでない。

2 いずれの一方の締約国も、他方の締約国が特別の関心を有する品目の産品の輸入又は輸出に対し量的な制限又は禁止をする場合には、事前に、可能なときはその制限又は禁止の効力発生の一箇月前までに、当該他方の締約国にその旨を通報する。

3  の規定により許容される輸入の制限又は禁止は、関係国際協定の規定に定める原則及び条件に従い、対外資金状況及び国際収支を擁護するため並びに国内の製造工業を確立し及びその発展を促進するために実施されるものを含む。

4 いずれの一方の締約国も、詐欺的な又は不公正な慣行が行われることを防止するため、制限又は禁止をすることができる。ただし、その制限又は禁止は、他方の締約国の通商に対して恣{しとルビ}意的な差別をするものであつてはならない。

5 1の規定にかかわらず、いずれの一方の締約国も、産品の輸入又は輸出に対し、当該締約国が前条2の規定により当該輸入又は輸出の時に課することができる為替制限と同等の効果を有する制限又は禁止をすることができる。

第七条

 輸入若しくは輸出に対し若しくはこれらに関連して課され又は輸入若しくは輸出のための支払手段の国際的移転に対して課されるすべての種類の関税及び課徴金に関し、これらの関税及び課徴金の徴収の方法に関し、輸入及び輸出に関連するすべての規則及び手続に関し、輸出貨物に対する内国税の適用に関し、輸入貨物に対し又はこれに関連して課されるすべての内国税その他すべての種類の内国課徴金に関し、並びに輸入貨物の国内における販売、販売のための提供、購入、分配又は使用に影響を及ぼすすべての法令及び要件に関し、いずれか一方の締約国が第三国を原産地とする産品又は第三国に仕向けられる産品に対して与えており又は将来与えることがあるすべての利益、特典、特権又は免除は、他方の締約国の領域を原産地とする同様の産品又は他方の締約国の領域に仕向けられる同様の産品に対し、即時に、かつ、無条件に与えられる。

第八条

 両締約国は、競争を制限し、市場への参加を制限し、又は独占的支配を助長する事業上の慣行であつて、商業を行う一若しくは二以上の公私の企業又はそれらの企業の間における結合、協定その他の取極により行われるものが、それぞれの領域の間における通商に有害な影響を与えることがあることについて、一致した意見を有する。したがつて、各締約国は、他方の締約国の要請がある場合には、それらの事業上の慣行に関して協議し、及びその有害な影響を除去するため適当と認める措置をとることに同意する。

第九条

 両締約国は、公正でかつ安定した基礎の上に両国間の貿易を一層拡大し及び強化するため努力することについて、相互に協力する。

第十条

 両締約国は、両国間の経済関係を強化すること並びに、特にそれぞれの領域内における経済の発展及び生活水準の向上に資するため、科学及び技術に関する知識の交換及び利用を促進することを目的として、相互の利益のため、両締約国のそれぞれの法令に従つて協力することを約束する。いずれの一方の締約国も、自立を基礎とする自国経済の健全でかつ均衡のとれた発展に役立つような他方の締約国の資本又は技術を自国の領域内に導入することを妨げてはならない。

第十一条

1 いずれか一方の締約国の国旗を掲げる船舶で、国籍の証明のため当該一方の締約国の法令により要求される書類を備えているものは、公海並びに他方の締約国の港、場所及び水域において、当該一方の締約国の船舶と認められる。

2 いずれの一方の締約国の商船も、第三国の商船と均等の条件で、外国との通商及び航海のために開放されている他方の締約国のすべての港、場所及び水域にその旅客及び積荷とともに入ることができる。これらの船舶は、当該他方の締約国の港、場所及び水域において、すべての事項(係留場所の割当て、積卸しの施設の使用、水先人の役務の提供並びに燃料、潤滑油、水及び食糧の補給その他すべての種類の技術上の便益の利用を含む。)に関し、第三国の同様の船舶に与えられる待遇よりも不利でない待遇を与えられる。

3 いずれの一方の締約国の商船も、他方の締約国の領域に又はその領域から商船で輸送することができるすべての貨物及び人を輪送する権利に関し、第三国の同様の船舶に与えられる待遇よりも不利でない待遇を与えられる。これらの貨物及び人は、税関手続その他の手続に関し、第三国の商船で輸送される同様の貨物及び人に与えられる待遇よりも不利でない待遇を与えられる。

4 各締約国は、内水貿易、沿岸貿易及び島嶼{前1文字しょとルビ}間貿易に従事する権利を自国の船舶にのみ留保することができる。もつとも、いずれの一方の締約国の商船も、常に他方の締約国の法令に従い、外国で積載した旅客若しくは積荷の全部若しくは一部を陸揚げし、又は外国向けの旅客若しくは積荷の全部若しくは一部を積載する目的をもつて、当該他方の締約国の領域内の一の港から他の港に向けて航海を続けることができる。

5(1)いずれの一方の締約国も、難破、海上損害又は不可抗力による寄航の場合には、他方の締約国の船舶に対し、同様の場合に自国の船舶に与えると同様の援助、保護及び免除を与える。その船舶から引き揚げられた物品は、それが国内における販売、処分又は消費のために搬入された場合を除くほか、すべての関税を免除される。もつとも、国内における販売、処分又は消費以外の目的のため搬入された物品については、それが当該一方の締約国から搬出されるまでは、歳入の保護のための措置をとることができる。

(2)いずれか一方の締約国の船舶が他方の締約国の沿岸で座礁し又は難破した場合には、当該他方の締約国の関係当局は、最寄りの地にある船舶所属国の権限のある領事官に対しその旨を通報する。

6 両締約国は、両国間の国際海運活動が両締約国間の経済、貿易及び通商関係の発展に重要な役割を果たすものであることを認識し、公正でかつ相互に有利な基礎の上に両国間の海運を発達させるため、相互の協力を促進する。

7 いずれか一方の締約国の権限のある当局が発給した船舶の積量測度に関する証書は、他方の締約国の権限のある当局により、その発給した証書と同等のものと認められる。

8 この条において「商船」には、漁船、工船、娯楽用ヨット及び運動競技用舟艇を含まない。

第十二条

 両締約国は、油その他の汚染物質の排出により実際に生じた損害又はその排出により生ずるおそれがある損害から海洋資源及びこれと関連を有するその他の資源を保護することの必要性を認識し、その排出の影響を押さえ、統御し又は最小にするために協力する。

第十三条

 第五条から第七条までの規定は、次のものには、適用しない。

 (a)フィリピン共和国が、関係国際協定に従い、東南アジア諸国連合の他の構成国に対し又は開発途上国の間の貿易拡大計画若しくは経済協力計画の下で他の開発途上国に対し与えることがある関税上の特恵その他の利益

 (b)国境貿易を容易にするため隣接国に一般的に与えられる利益と同様の利益でフィリピン共和国がその隣接国に対して与えるもの

 (c)いずれか一方の締約国が、関税同盟、自由貿易地域又はこれらを形成するための中間協定への加入の結果与える利益

第十四条

 この条約の規定は、いずれか一方の締約国が、

 (a)公共の安全若しくは国防又は国際の乎和及び安全の維持

 (b)核分裂性物質又はその原料となる物質

 (c)武器、弾薬及び軍需品の取引並びに軍事施設に供給するため直接又は間接に行われるこれら以外の貨物及び資材の取引

(d)公衆道徳の保護及び人、動物又は植物の生命又は健康の保護

(e)金又は銀の貿易

(f)美術的、歴史的又は考古学的価値のある国宝の保護

(g)漁業資源その他の水産資源について最大の持続的生産量を維持するために行う保存及び絶滅のおそれのある水生種に属するものについて行う保護並びに

(h)多数国間の商品協定に基づく義務の履行

に関する措置を採用し又は実施することを妨げるものと解してはならない。

第十五条

1 各締約国は、この条約の運用に影響を及ぼす問題に関し他方の締約国が行う申入れに対して好意的考慮を払うものとし、また、協議のための適当な機会を与える。

2 この条約の解釈又は適用に関する両締約国間の紛争で外交交渉により満足に調整されないものは、両締約国が他の平和的手段による解決について合意しない場合には、国際司法裁判所に付託する。

第十六条

 千九百六十年十二月九日に東京で署名された日本国とフィリピン共和国との間の友好通商航海条約は、この条約の効力発生の時に効力を失う。

第十七条

1 この条約は、批准されなければならない。批准書は、できる限り速やかに東京で交換されるものとする。

2 この条約は、批准書の交換の日の後一箇月で効力を生ずる。この条約は、三年間効力を有するものとし、その後は、3に定めるところにより終了する時まで効力を存続する。

3 いずれの一方の締約国も、六箇月前に他方の締約国に対して文書による予告を与えることにより、最初の三年の期間の終わりに又はその後いつでもこの条約を終了させることができる。

4 この条約が有効である間はいつでも、いずれか一方の締約国がこの条約の改正を他方の締約国に対して提案する場合には、両締約国は、直ちに協議を行う。

 以上の証拠として、下名は、この条約に署名調印した。

 千九百七十九年五月十日にマニラで、日本語、フィリピン語及び英語により本書二通を作成した。解釈に相違がある場合には、英語の本文による。

日本国のために

大平正芳

園田直

フィリピン共和国のために

フェルディナンド・E・マルコス

カルロス・P・ロムロ