データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] スハルト・インドネシア共和国大統領訪日に際しての共同新聞発表

[場所] 東京
[年月日] 1979年6月9日
[出典] 外交青書24号,400−403頁.
[備考] 仮訳
[全文]

1.大平正芳日本国総理大臣とスハルト・インドネシア共和国大統領は、1979年6月7日及び8日に東京において会談し、両国にとつて共通の利益及び関心事である広範囲な事項について建設的な意見交換と討議を行つた。

  討議は極めて親密かつ友好的な雰囲気のうちに行われ、両国間の相互理解を深めるために大きく貢献した。総理大臣と大統領は、2回の会談が両首脳間のより親密な関係を築く上で大いに貢献したことを満足の意をもつて留意した。

2.総理大臣と大統領は、アセアンが東南アジア地域における平和、安定、発展及び繁栄を促進するうえで重要な役割をはたしてきていると確信する旨表明した。双方は、アセアンの発展に満足の意を表明した。双方は、東南アジアにおける平和・自由・中立地帯設立の提案を歓迎し支持した。双方は、日本とアセアン間の協力関係が広汎な分野において、一層強化され、堅固なものとなつてきていることに満足をもつて留意した。この関連で、双方は、日本アセアン・フォーラム第3回会合が成功裏に終つたことに満足するとともに間もなくパリで開かれる日本・アセアン外相会議が具体的成果をあげるよう希望する旨述べた。大統領は、アセアン産品の日本市場へのアクセスに関するアセアンの提案並びにアセアン輸出所得安定化制度の設立に関する提案の重要性を強調した。総理大臣は、日本は日本とアセアンの相互協力においてこれらの事項を考慮に入れる旨述べた。

  総理大臣は福田赳夫前総理によつて1977年8月にマニラにおいて表明された東南アジアに対する日本の基本政策を再確認し、一層アセアン諸国との関係強化をはかりたい旨述べた。

  更に総理大臣は、1977年8月にクラアルンプールにおいて表明されたアセアン工業プロジェクトに対し、種々の形での資金援助を行うという日本の意図を確認した。この関連で、総理大臣と大統領は、アセアン諸国民の最大限の利益のためインドネシアのアセアン尿素プロジェクトに関し、相互に満足のいく財政的措置が出来る限り早急に講じられるべきであることに合意した。

3.総理大臣と大統領は、とくにインドネシア情勢に焦点をあてつつ東南アジア情勢につき意見交換を行つた。双方は、インドシナにおける武力紛争及び緊張の継続が東南アジア全体に及ぼす影響につき懸念を表明した。双方は、関係当事者が相互尊重の精神に基づき満足しうる解決を見出し、平和的に諸懸案を解決するよう心からの希望を表明した。総理大臣は、インドシナの平和確保を目指したアセアン諸国のイニシアティヴを高く賞讃し、これを支持した。総理大臣と大統領は、すべての国の主権、領土保全及び独立の尊重の原則に基づく、恒久的平和を探究するため全力を傾注し続けることで意見の一致を見た。

4.総理大臣と大統領は、インドシナ難民問題は、その重要性にかんがみ、緊急に対処されるべきであることで意見の一致を見た。この関連で総理大臣は、日本政府のインドシナ難民問題に関する総合的対策を説明し、日本は積極的に本問題の解決に寄与していく旨述べた。大統領は、インドシナ難民問題の解決のため日本の果してきた役割を評価するとともに、インドネシアの提唱した同国における難民一時収容センター設立の構想の進展状況につき総理大臣に説明した。総理大臣は本プロジェクトについてのインドネシアのイニシアティヴを歓迎し、日本はインドネシア政府の援助のもとに国連難民高等弁務官が行う本プロジェクトの技術的見地からの調査に協力するため近い将来専門家を派遣する旨述べた。総理大臣は、大統領に対し日本の積極的協力を保証し、日本は他の諸国とともに、その実効性が確認された後難民一時収容センターに対し実質的な貢献を行うことを再確認した。

5.総理大臣と大統領は、国際経済情勢に関する諸問題につき意見交換を行つた。大統領は、新国際経済秩序の実現は開発途上国及び先進国双方にとり極めて重要な目標である旨述べた。総理大臣と大統領は、一次産品総合計画の枠内で共通基金が早期に設立されることが重要であることを強調した。大統領は、また、開発途上国間の経済及び技術協力の促進の必要性及び右協力をより効果的にするための先進国からの援助の必要性を強調した。

  総理大臣は、東京における先進国首脳会議において開発途上国との協力関係につき実りある討議が行われるよう希望を表明した。大統領は、これを歓迎し、日本が開発途上国の利益に留意することを希望した。

  総理大臣と大統領は、両国が南北問題に関する諸問題の解決のため協力を一層促進することで意見の一致を見た。

6.総理大臣は、日本国政府は、第3次国際連合海洋法会議の非公式交渉草案の関係部分に発展的に採り入れられるに至つた群島国家原則がインドネシアの国家統一、政治的安定、経済開発及び国家の強靱性にとつて有する意義を理解し、よつて、その原則をインドネシアに適用しようとするインドネシアの政策を支持する旨述べた。大統領は、これに関連して、インドネシア政府が、その群島原則を実施するに当たり、インドネシアの群島水域内における日本の利益及び同水域の通過に関する日本の利益を考慮に入れる旨保証した。

7.総理大臣と大統領は、懸案たるバンダ海域におけるまぐろ漁業協力に関する交渉をできる限り早期に再開することで意見の一致を見た。双方は、また、日本漁船のインドネシアの群島水域内の通航問題を討議することで意見の一致を見た。

8.総理大臣と大統領は両国が経済、通商及び投資の分野における協力を促進してゆくことを再確認した。双方はまた、両国の友好関係を更に強化するため人物交流を含む社会・文化交流を促進させることにつき意見の一致を見た。

9.大統領は、日本の経済技術協力がインドネシアの経済及び社会の開発に貢献してきたことを評価した。大統領は更に、インドネシアの第3次開発5カ年計画の重要性を強調した。総理大臣は、インドネシアは従来から日本の経済協力政策において最も高い優先度を付している国の1つであり、日本としては、同開発計画の実施に積極的な貢献と協力を継続してゆく旨表明した。

  この関連で総理大臣は、人造り及び農業開発の重要性を強調した。大統領は、これらはインドネシアの開発戦略とも合致するものであり、総理大臣の見解に合意する旨述べた。

10.総理大臣と大統領は、インドネシアの経済開発を促進するにあたつての投資の果す役割の重要性につき意見の交換を行つた。これとの関連で、大統領は更に、インドネシアの技術的能力を強化するため技術移転が重要である旨述べた。総理大臣は、これに積極的な姿勢を示し、日本がこれを十分理解し、これらの点につきインドネシアとの協力を継続してゆく用意がある旨答えた。

  総理大臣と大統領は両国の利益となる協力をさらに促進するため二重課税防止の問題につき交渉をしかるべき時期に再開することで意見の一致を見た。

11.総理大臣と大統領は、インドネシアに対する日本の米の延払い輸出が実現されることに満足の意をもつて留意した。

  大統領は、極く近い将来に増量が必要である旨述べた。この関連において、双方は関係当局が両国間の協力の精神に立つて本件を討議してゆくことで意見の一致を見た。

12.総理大臣と大統領は、デュマイにおける水素添加重質油分解装置の建設及び東カリマンタンのバダック及びアチェのアルンの液化天然ガスプラントの増設といつたエネルギー関連プロジェクトを含め、インドネシアの開発に大いに貢献しうる様々のプロジェクトにつき建設的な意見の交換を行つた。大統領は、バダム島開発プロジェクト及びアルミナプロジェクトについても説明を行つた。総理大臣は、それらのプロジェクトの実効性に関して両国間で討議が続けられる旨述べた。

13.総理大臣は、インドネシアが日本に対するエネルギー供給の安定に果している役割を評価した。総理大臣と大統領は、エネルギー分野において両国間に存在するその協力関係をより一層強化していくことが重要である旨強調した。

  双方は、石油、ガス、石炭、地熱、水力資源を含むインドネシアのエネルギー開発の分野における協力を一層促進することで意見の一致を見た。

  この関連において双方は、両国間のエネルギー分野における協力全般を討議するため両政府間において合同エネルギー委員会を設立すること、また、上記の委員会の構成等については両国政府間で更に協議してゆくことで意見の一致を見た。

  双方は、プルタミナと石油公団の間で石油の探査・開発に関する合意が成立したことに満足をもつて留意した。

14.大統領は、日本国政府及び日本国民より、大統領夫妻及びその一行に対して示された心からの歓迎と暖かいもてなしに対して深甚な謝意を表明した。

  大統領は、総理大臣夫妻に対し、双方にとつて都合のよい時期にインドネシアを訪問するよう招待した。総理大臣は、この招待を深甚なる感謝の念をもつて受諾した。