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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] インドシナ難民問題国際会議における園田外務大臣の演説

[場所] ジュネーブ
[年月日] 1979年7月21日
[出典] 外交青書24号,362‐365頁.
[備考] 
[全文]

議長

 私は、国際社会が当面している最も重要かつ困難な問題であるインドシナ難民問題を討議する国際会議が開催されるはこびとなつたことを高く評価したいと思います。また、かかる重要なる会議において、最初に発言する機会が私に与えられたことは、誠に光栄の至りであります。私はまず、この会議の開催の実現のため多大の努力を払われたワルトハイム国連事務総長閣下及びハートリング国連難民高等弁務官閣下並びに各国の関係者の方々に対して心から敬意を表したいと思います。

議長

 この難民問題は今や国際社会全体にとつてのチャレンジであります。6月28、29の両日わが国で開催された東京サミットにおいてもこの問題が参加首脳の多大の関心を呼び、その結果、サミットとしての特別声明が発出されたことを議長国としてここに御報告いたします。6月28日から30日までインドネシアのバリ島において開催された第12回ASEAN閣僚会議、及びそれに引き続き行われた豪州・ニュージーランド・米国・EC及び日本とASEANとの間の外相会議においても、この問題が中心課題として取り上げられ、その解決のため早急に効果的な措置がとられるべきことにつき合意を見ました。

議長

 私は、ここでとくに、我々が、インドシナ難民の流出により直接大きな影響を受けているASEAN諸国の窮状を理解し、その声に十分耳を傾けるべきであると強調したいと考えます。

議長

 この問題は今や人道問題の域を越えてこの地域の平和と安定に影響を及ぼす重大な政治問題となつております。しかしながら、今回の会議では過去の経験を巡る政治的な議論、行き過ぎた非難の応酬を繰返す余裕はありません。何としてもこの会議で具体的、建設的成果をあげる必要があります。この問題の解決のためにはまず難民流出の抑制が行われるべきであり、他方、一時滞留国における十分の受入体制、各国の定住受入れ促進及び資金協力の増大が重要であります。

議長

 以上のような見地に立つて私は、これら諸問題についてわが国の立場を申し述べたいと思います。

 第1は難民流出抑制の問題であります。

 先般ヴィエトナムとUNHCRとの間でヴィエトナム人の合法的出国につき7項目の合意が成立したことは問題の解決への第一歩として評価しうるものであります。しかし問題の核心はなおも増加の傾向を見せている大量かつ無秩序な出国の抑制についてインドシナの難民流出国、特にヴィエトナムが早急に具体的かつ効果的な措置をとることであります。ヴィエトナムはかかる措置をとり近隣諸国の理解を得るように努力すべきであります。

 私は、ワルトハイム国連事務総長閣下及びハートリング国連難民高等弁務官閣下が、従来からヴィエトナム難民の秩序ある出国につき種々努力を払われて来たことに深甚なる敬意を表するものであり、今後とも一層の役割を果たされんことを強く期待するものであります。

 さらに私はこの機会にカンボディア難民についても各位の注意を喚起したいと思います。カンボディアにおける戦禍と飢饉のため同国からタイへの難民の流出が続いており、タイにとつて極めて深刻な負担となつております。この問題の解決のためには、食糧・医療等の面における緊急な対策に加えて、より恒久的な措置としてカンボディア国内における平和回復が必須の条件であります。このため我々は、カンボディア紛争ひいてはインドシナ問題全般の政治的解決に向けての国際的な努力を積極的に推進すべきものと考えており、関係国会議開催についての先般のバリ島での私の呼びかけもこの趣旨に出ずるものであります。

 第2は、流出した難民に対する救済措置であります。これについては、私は、流出難民が最終的に安住の地を見出しうるよう、各国が最大限可能な協力を行つてゆくべきであると考えます。このような協力は、あるいは自国への安住の促進、あるいは資金協力の拡大といつた方法で、それぞれの国の事情に応じて行われるべきものと考えます。

 私はこのために各国がこれまでにとられてきた措置を高く評価するものであります。

 私は、今回の会議が契機となつて、現在までにインドシナ難民の救済のための国際的努力に参加していない国々においても事情が許すならばこれに参加することを希望するものであります。

 わが国は、事態の深刻さを認識し、かかる国際社会の要請に応えるため、また、最近の米国の月間定住枠倍増の決定と呼応して、このたび、UNHCRのインドシナ難民救済計画への本年のわが国の拠出率を、最近の25パーセント程度の実績から一挙に50パーセントに引上げるとの決定を行つた次第であります。すなわち同計画全体の必要資金額の半分を日本一国で負担するというものであります。わが国のかかる決断は周辺諸国の滞留難民数が30万人にも上るという深刻な事態にかんがみて、高度の政治的決断をもつて行つたものであります。この機会に私は、今後、これ以上滞留難民数が増加しないよう全ての関係国が最大限の努力を払うべきであることをあらためて強調致したいと思います。なお、ただ今、ハートリング国連難民高等弁務官閣下から、UNHCR資金が枯渇の状況にある旨指摘がありましたが、UNHCRの難民救済活動が資金不足により阻害されることは是非とも避けねばなりません。わが国としても、UNHCRと協議の上、わが国負担分の一部なりとも早急に拠出すべく検討することをお約束いたします。

 また、わが国はASEAN諸国がかねて提唱しているインドシナ難民一時収容センター構想を支持しております。現在進行中のインドシナのガラン島への建設計画についてはその総経費の半分を特別拠出としてUNHCRに提供することを決定いたしました。

 わが国は多大の国内的困難にもかかわらず、定住促進面でも国際的努力に参加しております。わが国は本年に入り定住枠の設定、定住条件の緩和、国内体制の整備等の決定を行い、定住の促進に努力を払つております。また、今後、定住の増加状況に応じこの定住枠の拡大を図つてゆく方針であります。

 第3は、海難救助及び一時上陸許可の問題であります。まず一時上陸許可については人道的な見地からこれを認めるべきでありますが、そのためには安んじて一時上陸を受け入れられるよう各国が十分配慮を行う必要があることを特に強調したいと思います。わが国としては一時上陸許可については、今般、わが国が第一寄港地ではなく、第二、第三の寄港地である場合でも原則として船籍国による引取保証なしにこれを受入れるとの決定を行いました。また、海難救助の重要性については、あらためて申すまでもありません。わが国も、海難救助に関する国内法の規定の趣旨を累次周知徹底し、日本船舶がこれら規定を遵守するよう最善の努力を払つております。

 このほか、わが国は、タイにおけるカンボディア難民対策を含め難民の主要一時滞在国に対する二国間援助の可能性につき検討して参りたいと考えております。

議長

 以上、私は、我々が当面する重要な問題についての日本政府の考えとこれらの問題について日本政府がとつている措置について申し上げました。

 我々は今回の会議で事足れりとしてはなりません。各国は今回の会議において述べたところを誠実に履行し、もつてこの会議を難民問題の解決、ひいては東南アジアの平和と安定のすみやかな達成のための新しい国際協力の出発点とすべきであります。私は国際社会の一致した共同行動こそがこの困難な問題を解決に導く唯一の手段であると信ずるものであります。

 ありがとうございました。