データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日本・ASEAN経済閣僚会議共同発表

[場所] 東京
[年月日] 1979年11月27日
[出典] 外交青書24号,418−421頁.
[備考] 仮訳
[全文]

1.日本側経済閣僚及びASEAN側経済閣僚は、1979年11月26日及び27日の両日、東京において会合した。

2.日本側では、大来佐武郎外務大臣、竹下登大蔵大臣、武藤嘉文農林水産大臣、佐々木義武通商産業大臣、正示啓次郎経済企画庁長官が代表を務めた。

3.ASEAN側では、インドネシアのラディウス・プロウィロ商業協同組合大臣、マレイシアのマハディール・モハマド副首相兼貿易産業大臣及びポール・レオン第一次産業大臣、フィリピンのヘラルド・シカット国家経済開発大臣、ヴィセンテ・バルデペニアス貿易省次官、シンガポールのゴー・チョク・トン商工大臣並びにタイのウパディット・パチャリャンクン外務大臣、ウィモン・ウィリャウィット工業副大臣、プロック・アマラナン商務副大臣、アーポン・シーピパット農業協同組合副大臣が代表を務めた。さらにASEAN中央事務局のアリ・アブドゥラ中央事務総長が会議に出席した。

4.会議は、大平正芳日本国総理大臣により開会された。大平総理大臣は、開会の挨拶の中で、日本・ASEANの交流と協力があらゆる方面で拡大しつつあることを歓迎するとともに、今後ともアジア全域の安定と発展にむけて、日本・ASEANの協力関係を一層拡充強化していくとの決意を表明した。

  また大平総理大臣は、近々中国を訪問する旨述べるとともに、日中関係の増大は日本のASEANに対する姿勢と政策に対するなんらの変更も意味しない旨強調した。

5.日本側経済閣僚とASEAN側経済閣僚は、日本・ASEAN間の経済関係に係わる諸問題及び世界経済の情勢全般について意見交換を行つた。双方の経済閣僚は、各国間の経済的相互依存は増々重要になつていること、並びに世界経済の秩序及び安定を維持する必要があることに留意した。

(中略)

9.(日・ASEAN協力の現状と展望)

  日本側閣僚とASEAN側閣僚は、(1)経済協力、(2)科学技術協力、(3)一次産品、(4)貿易、(5)投資等の各分野に亘る日・ASEAN間の協力関係につき討議を行つた。

 (1)経済協力

  (a)日本側経済閣僚は、開発途上国の経済開発を積極的に支援する見地から、政府開発援助の3年間倍増をはじめ、援助条件の緩和等の政策に基づき対外経済協力を質量ともに一層充実させていく決意を表明するとともに、今後ともASEANを最重点地域としていく方針である旨述べた。更に日本側閣僚はその際「国造り」の基礎となる人材を育成するための「人造り」協力、農業開発、エネルギー及びインフラストラクチャー建設の分野における協力を重視していきたい旨明らかにした。

  (b)ASEAN側経済閣僚はかかる政策に留意すると共に日本が政府開発援助(ODA)の規模及び柔軟性を増加させ、農村農業開発、所得再配分及びその他の開発計画を含むASEAN諸国の80年代の開発目標に政府開発援助の優先度を付してほしい旨の希望を表明し、日本側経済閣僚は、日本の経済協力政策策定の過程でかかるASEANの希望を考慮に入れる旨答えた。

     更に、ASEAN側経済閣僚は、政府資金の流れに加えて、日本における及び日本を通ずるその他の資金に対し、今後ともアクセスが得られることを要請した。

  (c)日本側経済閣僚及びASEAN側経済閣僚は、ASEAN尿素肥料プロジェクト(インドネシア)がASEAN工業プロジェクトの第1号として実施されることについて満足の意を表明した。

     ASEAN側経済閣僚は、ASEAN工業プロジェクトの実施のため日本から資金援助が供与されたことに対し謝意を表した。この点に関し、ASEAN側経済閣僚は、日本国政府がASEAN工業プロジェクトの実施を促進するためにこれらプロジェクトに対する借款供与にともなう手続を簡素化することを希望した。更に、ASEAN側経済閣僚は、ASEAN工業プロジェクトとして承認された全てのプロジェクトに対し、これらプロジェクトがASEANの域内プロジェクトとみなされていることにかんがみ、最初のASEAN工業プロジェクトに対し供与された借款条件と同一の条件が適用されることを要請した。

     日本側経済閣僚は、これらプロジェクトの地域的性格を認めつつも、1977年8月7日の日本国総理大臣とASEAN首脳との会議の共同声明に述べられた通り、種々の形での資金援助がプロジェクトの性格と要請に応じ出来る限りコンセッショナルな条件で供与されることになる旨応えた。従つて資金援助のコンセッショナルな条件はケース・バイ・ケースで決定されることとなる。

 (2)科学技術協力

  (a)日本側経済閣僚及びASEAN側経済閣僚は、科学技術の分野において、特にASEAN諸国の内生的な科学技術能力の開発を目的とするものにつき促進したいという希望を再確認した。日本がASEANに対する主要な投資国でありかつ技術供給国であるという事実にかんがみ、ASEANは、この分野において日本が主要なパートナーであると認めた。

     会議は、科学技術協力の必要性を強調した。このような協力には次の事項が含まれ得る。(i)科学技術支援サービスを含め、ASEAN域内の既存の研究機関及びインフラストラクチャーを強化し、育成すること。(ii)特に高等及び中等の訓練に重点を置きつつ、戦略的及び優先度の高い技術分野におけるASEANの技術能力を高度化させること。(iii)特に、ASEANのそれぞれの国に既存の機関を利用しつつ適切な技術のためのASEANセンターを創設することを通じて、適切な技術の転移を促進すること。(iv)科学面及び技術面の諸機関の間に実効的なリンケージを設けること。(v)科学技術に関する情報の体系的な普及を促進すること。

 (3)一次産品

  (a)ASEAN側経済閣僚は、ASEANの経済にとつての一次産品の重要性を強調し、共通基金を含め一次産品総合計画に盛られた各種の内容の交渉及び実施に関するASEANの立場につき日本の引き続いての支援を期待する旨表明した。

  (b)日本側経済閣僚は、ASEANの経済にとつての一次産品の重要性を認識し、国際商品協定、共通基金などの一次産品問題を扱う各種国際会議においてASEANと緊密に連絡をとりつつ作業を続ける用意がある旨表明した。

  (c)共通基金の「第2の窓」に対する任意拠出の発表に関するASEAN側経済閣僚の要請に応え、日本側経済閣僚は、本件問題につき日本政府は検討作業を行つている旨述べた。

  (d)ASEAN側経済閣僚はまた、近い将来日本との間に輸出所得安定化制度を設けることの必要性を強調した。日本側経済閣僚はASEANが日本との間に輸出所得安定化制度を設立したいと望んでいることに理解を示し、なお多くの解決されるべき問題が残されていることから専門家レベルによる討議が促進されるべきである旨示唆した。

  (e)日本側経済閣僚はクアラルンプールに国際天然ゴム機関の本部を設置することに対する支持を再度表明した。ASEAN側経済閣僚は日本の支持に対し謝意を表明した。

 (4)貿易

  (a)主要な貿易パートナーである日本及びASEANは相互間の貿易拡大、特にASEANの製品及び半製品の対日輸出の増大に努力することとなろう。日本側経済閣僚はASEANの非石油産品の対日輸出が漸次増大しつつあるという事実に言及し、この傾向が継続することを期待する旨表明した。

  (b)日本側経済閣僚は、日本・ASEAN間の貿易の急速な拡大は、特に製品輸入を始めとする日本の対ASEAN輸入の増加により達成されていることを指摘しつつ、かかる貿易動向は、ASEAN諸国の国内産業開発が軌道に乗つたことを示すとともに、日本による市場アクセス改善のための種々の措置が効果を挙げつつあることを示すものである旨述べた。

  (c)ASEAN側経済閣僚は、日本・ASEAN間の貿易を一層拡大するために、ASEAN関心品目に関する関税・非関税措置を軽減し、日本の特恵制度及び累積原産地規則を改善し、ASEAN諸国に対し輸入促進ミッションなどその他の方途をとり、また、種々の政府輸入金融をASEAN産品に適用し、かつ輸入手続きを改善することを要請した。

  (d)日本側経済閣僚及びASEAN側経済閣僚は、多角的貿易交渉の下での関税及び非関税障壁の削減を速かに実施することは、ASEANの対日輸出のアクセス改善に寄与する旨意見の一致をみた。

  (e)日本側経済閣僚は、また、日本としては1981年以降も特恵制度を維持するよう努力したい旨述べた。累積原産地規制については、本制度の周知徹底がはかられるべきであると述べた。

  (f)日本側経済閣僚は、更に、ASEANの日本への輸出拡大の努力を支持するため、日本としては、市場調査の実施、様々な貿易セミナーの開催、輸入促進ミッションの派遣、ASEAN貿易・投資・観光促進暫定センターの設立等の様々な措置をとつている旨、及び日本としては日本市場開発についてのASEANのイニシアティヴにできる限り協力を継続していく旨述べた。

 (5)投資

  (a)ASEAN側経済閣僚は、産業開発の面で日本がASEANに与えた貴重な援助につき満足の意をもつて留意した。

  (b)また、ASEAN側経済閣僚は、天然資源をASEANに依存している日本産業はASEANに再配置される必要性がある旨を強調した。更にASEAN側経済閣僚は、80年代においては、日本の産業は高度の技術を要する製品の製造に集中すべき旨、左程高度でない産業はASEANに再配置されるべき旨及び日本はこれら産業の製品に対する市場アクセスを与えるよう要請される旨を強調した。

     日本側経済閣僚は、日本の産業部門で現在進行中の構造的変化は、個々の産業の競争力にもよるが、前記の現象をもたらし得る旨説明した。

(中略)

  (d)日本側経済閣僚は、日本の対外民間投資は基本的には自由化されている旨述べ、また、日本の対外民間投資がASEANの社会と調和しつつ、順調に拡大し続けるよう投資環境を更に改善するためASEAN側が努力を継続するよう希望を表明した。ASEAN側経済閣僚は、ASEANに対する日本のより多くの投資を促進するため、ASEANが魅力ある投資環境を維持するとのコミットメントを再確認した。

  (e)日本側経済閣僚は投資を保護し、二重課税を避けるため協定を締結することが重要である旨強調した。