データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ASEAN拡大外相会議における大来佐武郎外相の発言

[場所] 
[年月日] 1980年6月27日
[出典] 日本外交主要文書・年表(3),1164−1166頁.外務省公表集,昭和55年,88−92頁.
[備考] 
[全文]

議長閣下、ASEAN外相各位ならびに御列席のみな様

1 今回の御招待に対し心から感謝するとともに、ここにマレーシア政府及び国民に対し、わが方代表団に与えられたあたたかいかん迎と行きとどいた接遇に日本側を代表し心からの謝意を表するものである。

  ASEAN外相の方々とは、五月のジュネーブでのカンボジア民衆救援国際会議の際お目にかかる機会を得たばかりであるが、その後間もない今日、再びみな様と一どうに会し、会談する機会を得たことは、私の大きなよろこびとするところである。

2 去年のバリ島における会談から早くも一年の月日が経過した。その間生じたイランにおける米大使館人質事件、ソ連のアフガニスタンに対する軍事かい入等の出来事をはい景に自由主義諸国が連帯と協調を強める必要性は一層高まりをみせている。

 過去一年間のアジア情勢の流れをみるに、一方では、ASEANの協力の一層の進展とASEANと域外諸国との連帯の強化に示されるとおりの安定を目指す極めてエンカレッジングな動きが見られたが、他方では、ソ連の軍事的プレゼンスの増大、インドシナ難民問題の継続、越軍によるカンボジアにおける戦闘の継続とタイに対する軍事的侵犯の如きゆるさるまじき極めて危険な情況が展開されている。

3 東南アジアの平和と安定を目指すASEANの努力は、昨年十二月のカンボジア問題に関する国連総会決議の採択、昨年七月及び本年五月のジュネーブにおけるインドシナ難民問題に関する国際会議の成功等すでに多くの具体的成果をあげており、今やASEANは、アジアの安定勢力としての地ばん固めを完了したといえよう。

 今回ここに昨年に引続き域外六ヵ国の外相が参加し、ASEANと外相レベル対話が持たれることも、ASEANの重要性に対する各国の認識の定着を意味するものである。また、今回ASEANが新たにカナダの外相を招き対話の機会を持ったことは、本年三月のASEAN・EC閣僚会議の開催とならんで、ASEANの積極的な外交し勢の表われとしてわが国としてもこれを評価するものである。

4 このようなはい景の下にアジアの安定にバイタルな利益を共有するわが国とASEANの連帯と協調の意義と必要はとみに高まっている。

 幸い、現在、日・ASEAN間では経済、貿易、文化等あらゆる分野での協力が進んでおり、文化等あらゆる分野での協力が進んでおり、その関係はかつてない程良好かつ緊密である。これに関連して故大平総理が提しょうしたASEANせい年しょう学金につきこのほど日本政府が初年度分を拠出したことをここに御報告出来ることは私のよろこびとするところである。

 また、国際経済面における日・ASEAN協力も進みつつある。先のベネチア・サミットにおいて、わが国はASEANの要望をも充分にふまえ、南北問題の重要性及び保護主義防あつの必要性等につき積極的に発言を行っており、同サミット共同宣言にもASEANの利益が反えいされているものと確信している。また、わが国は、南北問題解決にこうけんするとの立場から共通基金の設立に積極的に協力してきたことは御承知の通りであるが、かねてからの懸案であったCF「第二のまど」に対し先の共通基金交渉会議において、共通基金の早期発足とその財政的基ばんの確立に寄与するため、関係各国中最大の拠出額をブレジしたことをここで御ひろうしたい。

5 このような日・ASEAN間の協力関係のめざましい進展の下に、わが国とASEANとの関係は、今や相互間の友好関係の強化に専念する段階から平和とはん栄のパートナーとしてアジア全体の平和と安定をともにきずいていく関係にまで進みつつある。この意味で、日・ASEAN双方の外相が一どうに会し、かく意のない意見交換を行う今回の機会は誠に時ぎにかなったものといえよう。

 以下かかる観点に立って日・ASEAN双方にとって当面の緊急課題である東南

アジアの諸問題に関するわが国の考え方を申し述べたい。

 第一にカンボジア問題に関しては、カンボジアにおける戦闘はどろぬま化の様相を程しており、国土のこう廃はいやされることなく、カンボジア民衆は食りょう、衣りょうの不足にくるしんでいる。また数十万の難民、ひさい民が戦火をのがれ、あるいは食りょうを求めてタイ・カンボジア国境しゅうへんにさっ到していることはタイにとって深刻な負担となっている。

 更にカンボジアにおける戦火がタイに波及し、ベトナム軍がタイを越境攻撃したことは東南アジアの平和に対する重大なちょう戦であり、許されるものではない。

 わが国はベトナムが直ちにタイ領から撤兵し、二度とタイの領土を侵犯したり、攻撃したりすることのないよう強く要求するものである。わが国は二十五日発表されたASEAN外相会議共同声明に象ちょうされるASEANの結束を強く支持し、安全がおびやかされているタイ政府及び国民に対し全面的な支援を送るものである。

 カンボジアのひさんな状況及びりん接国の負担を根本的に救済するには、カンボジアにこうきゅう的な平和を回復する以外に途はない。われわれとしては、外国軍隊の撤退及び民族自決という原則に基づいてカンボジア問題が最終的に解決されるべきであるとの共通の立場を再確認したい。

 他方、当面のもう一つの課題は、ひさい民にじん速かつ確実に援助物資を配布することであるが、それには現在いく多の障害がある。タイに戦火が波及し、タイ・カンボジア国境を通じる援助が一層困難になっている現在、特に緊要なことは、越軍が一日も早く撤退し、タイ・カンボジア国境地帯に平和をもたらすことである。われわれとしては早急にかかる障害を取除き援助を必要としている人々に確実に物資を送りとどけるための努力を払わなければならない。かかる観点から全ての関係当事者がその政治的主張を離れ、じゅんすいに人道的な見地から、タイ・カンボジア国境ならびにカンボジア領内において、国際機関による援助物資配布が安全かつ確実に行われ得るよう「非武装、平和地帯」の設定に合意するよう訴えたい。

 第二は、インドシナ難民問題である。先に行われたベネチア・サミットの宣言でものべられているとおり、わが国を含みサミット参加国首のうはASEAN諸国等影響を受けた地域の諸国が難民受け入れに際して示したかん容とにんたいに対し賛辞を呈しており、わが国としてはASEAN諸国が今後とも人道的見地に立って難民の受入れを継続するよう期待している。わが国としてもそのための環境づくりに力の限り協力する所存であり、先のカンボジア民衆救援国際会議で表明したとおりインドシナ難民に対する一億ドルの援助の早期実施を図る等積極的な協力を今後とも続けたい。

 最後に、わが国は、東南アジアの平和と安定のためにASEAN諸国が払っている活発なイニシアチブに対し今後共引続き全面的に支持していくこととしたい。

6 今回の会議が率直な意見交換を通じ、今後の日・ASEAN協力の促進に有意義な成果を生み出すことを期待する。