データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日本とフィリピン共和国との共同新聞発表

[場所] マニラ
[年月日] 1981年1月10日
[出典] 外交青書25号,469−472頁.
[備考] 仮訳
[全文]

1.鈴木善幸日本国総理大臣は、フエルデイナンド・E・マルコス・フィリピン共和国大統領の招待により、夫人とともに1981年1月8日から10日までフィリピン共和国を公式訪問した。

  総理大臣夫妻には、伊藤正義外務大臣、亀岡高夫農林水産大臣、瓦力官房副長官他日本国政府高官が随行した。

  マルコス大統領夫妻及びフィリピンの閣僚は、鈴木総理大臣夫妻及び総理大臣随員一行をマニラ国際空港において歓迎した。

2.総理大臣と大統領は、1月8日会談を行い、両友好国が共通の関心を有する国際的、地域的な広範な問題及び2国間に存在する諸問題について有意義かつ建設的な意見交換を行った。この首脳会議には、日本側より伊東正義外務大臣、亀岡高夫農林水産大臣、瓦力官房副長官、フィリピン側よりマヌエル・コリアンテス臨時外務大臣代理、セザール・ヴィラタ大蔵大臣、ルイス・ヴィリャフェルテ貿易大臣、ヘラルド・シカット国家経済開発庁長官、ロベルト・オンピン工業大臣、アルトゥーロ・タンコ農業大臣、ヘロニモ・ヴエラスコ・エネルギー大臣、ホセ・レイド天然資源大臣が出席した。

3.総理大臣と大統領は1980年7月に日比友好通商航海条約が発効して以来初めて行われた首脳会議が親密かつ友好的な雰囲気の中で行われ、両国間に互恵的かつ衡平な協力の新時代を開いたことを高く評価した。

4.総理大臣と大統領は、今回の訪問によって日本とフィリピンとの間に存在する友誼と相互信頼との関係を改めて確認し得たことを喜ぶとともに、両国間の友好関係を更に強固な基礎の上に置くべく両国政府は、政治、経済、文化及びその他の分野で引続き緊密に協力し、人的交流を一層活発にして行く用意がある旨表明した。

5.総理大臣と大統領は、日本とASEAN諸国との間の緊密な関係が益々強化されつつあることを歓迎し、このことがアジアの平和と安定の維持に実質的に貢献するであろうとの確信を表明した。

  鈴木総理大臣は、日本国政府は、ASEAN諸国がより大きな国家的及び地域的強靱性と発展を追求することに対し、引続き協力を行う旨述べた。更に総理大臣は、ASEAN常任委員会の議長国としてフィリピンが、ASEAN諸国間の協力強化に果している積極的役割を高く評価した。

  この関連で総理大臣と大統領は、ASEAN貿易・投資・観光促進センターを設立する協定が1980年12月に東京において締結されたことを喜び、この協定が日本とASEANとの経済関係の一層の発展、特にASEAN諸国からの輸出の促進、この地域における日本の投資の奨励及び観光の促進に貢献することを期待する旨述べた。

  総理大臣と大統領は、フィリピンにおけるASEAN工業プロジェクトが早期に実現することにつき希望を表明した。

  更に総理大臣と大統領は、日本のこの地域に対する投資を促進するために日本とASEAN諸国の民間経済部門が各種のイニシアティブを取っていることを歓迎した。

6.総理大臣と大統領は、国連憲章の諸原則、特に国家主権及び領土保全の尊重、武力行使または武力行使による威嚇を行わないこと、並びに内政不干渉の原則に対する支持を再確認した。両国首脳は、国際社会の構成国が、これらの原則を遵守することは、政治的紛争を軍事的手段により解決しようとする今日の傾向に鑑み、より一層肝要となっていることに合意した。

7.総理大臣と大統領は、カンボディアの現状、特にその東南アジア地域の安全に対する不安定効果についての憂慮を共有し、国連総会決議34−22及び35−6に従って、できるだけ早期にカンボディアの平和が回復されるべきであるとの共通の信念を確認した。

  この関連で、総理大臣は、カンボディア問題についてASEANが採っている正当な立場に対する日本の全面的な支持を改めて表明した。

  両国首脳は、東南アジアに平和と安定をもたらすために更に協力していくとの決意を新たにした。

8.鈴木総理大臣は、日本がその国力に相応しい積極的な政治的、経済的役割を果たすことにより世界の平和と安定に積極的に貢献すべき立場にあることを認識し、日本はアジアにおける安定勢力として地域の平和と繁栄のため今後共貢献していく決意である旨表明した。

  鈴木総理大臣は、日本は平和に徹し軍事大国とはならないと決意していると述べた。更に総理大臣は、そのための日本の基本的安全保障政策は、積極的な外交的役割を果たす努力を行い、現行憲法の枠の内で自衛力の着実な整備とともに、日米安保条約の一層円滑で効果的な運用を図ることに置かれている旨述べた。

9.総理大臣と大統領は、国際経済協力のための環境の改善につき関心を有している旨を表明した。両国首脳は、南北問題の解決につき有意義な成果をもたらすべき国際的相互依存、理解及び協力に基づく建設的対話を希望した。両国首脳は、このような対話の場として、グローバル・ネゴシエーションズを開始することに関し合意が達成されることを希望した。この関連で両国首脳は、一次産品共通基金設立協定を歓迎した。マルコス大統領は、フィリピンが共通基金本部設置場所として立候補したことに対する日本の支持に感謝の意を表明した。

10.大統領は、総理大臣に対し、エネルギー開発計画及び11大工業プロジェクトを含むフィリピンの経済開発計画について説明した。総理大臣は、マルコス大統領の卓越した指導の下にフィリピンが達成した国家開発の進展を高く称賛した。

  総理大臣と大統領は、日本国政府よりフィリピンに供与された政府開発援助(ODA)の重要性に留意した。大統領は、1978年より1980年の期間にODAを倍増するという日本が公表した目標を想起しつつ、大規模工業開発プロジェクト及びエネルギー開発プロジェクト就中、高圧送電線プロジェクトに対し、緩和された条件の資金融資を含む資金協力が増加していく必要性を強調した。この関連において大統領は、一貫製鉄所についても言及した。総理大臣は、日本国政府は、フィリピンのエネルギー開発及び工業開発計画における優先プロジェクトを含め、フィリピンの経済開発促進のための努力に対し、種々の形の協力を行うことを確認した。

11.更に総理大臣は、日本国政府はASEAN諸国に対するその経済開発援助政策に沿って、ASEAN諸国の工業化及び経済・社会インフラストラクチャーの発展に向けての努力に対する協力に加え、農村、農業開発、代替エネルギー開発を含むエネルギー開発並びに人造りに対し協力する旨述べた。この目的のために総理大臣は、420億円の第9次円借款をフィリピン政府に対し供与する旨を約した。

  総理大臣は、日本国政府が東南アジア文相機構の下部機関である教育革新センター、鉱物分析センター及びフィリピン社会科学センターの施設の建設のため無償援助を供与するとの意向を表明した。

12.総理大臣と大統領は、トウモロコシ、その他の飼料用穀物及び米穀等の食料作物の生産に関して、日本国政府がフィリピンに対して協力する旨合意した。

  更に両国首脳は、日本及びフィリピン両国政府が右協力の態様について協議する旨合意した。

13.総理大臣は、フィリピンにおける人造りに貢献するために日本国政府が技術協力を行うとの意図を表明した。これに関連し、総理大臣は、ASEAN各国にセンターを設立するとの人造りのためのASEANプロジェクトを提案した。総理大臣は、この目的のため日本国政府が1億米ドルの無償資金協力及び技術協力を行う旨述べた。更に総理大臣は、このプロジェクトに関連し、日本国政府としては、沖縄にセンターを設立する旨述べた。

  マルコス大統領は、総理大臣の建設的な提案を評価し、フィリピン政府は、このプロジェクトについて他のASEAN諸国と直ちに協議する旨述べた。

14.両国首脳は、新日比友好通商航海条約が発効したことを歓迎し、この条約を実施するための実際上の措置につき討議する旨合意した。

15.総理大臣と大統領は、フィリピンにおける日本の民間直接投資の果す役割の重要性に注目し、投資保証協定の締結のための交渉を早期に開始することに合意した。

  両国首脳は、日本の産業構造の変化により、日本における高度化されていない産業は、開発途上国に移転する必要に迫られることに留意した。大統領は、フィリピンが比較的優位を有する労働集約的な分野の日本の産業がフィリピンの新しい輸出加工区に再配置されることにつき希望を表明した。

  総理大臣と大統領は、あらゆるレベルにおけるフィリピン人の経営上及び技術上の経験を実際に一層活用することによって、日本からフィリピンに対する技術移転が一層有効に行われる必要があることに意見の一致をみた。

16.総理大臣と大統領は、日本とフィリピンとの間の貿易が拡大し、かつ多角化しつつあることは両国の利益に適うものであることに就いて意見の一致を見た。大統領はフィリピンの輸出関心産品、特にバナナ、木材及びその他の木材製品、パイナップル、ソロパパイア、並びに家具及び什器に関する市場アクセスの改善及び現行関税率を次回関税率審査において軽減するよう要請した。総理大臣はこの要請に留意し、国内果樹生産者に対し深刻な影響を与えるという事情はあるも、日本政府は輸入バナナの関税率の改正を前向きに検討する旨答えた。

17.総理大臣と大統領は、双方が日本の資本市場へのアクセスを含む両国間の金融協力拡大の可能性を探求することに合意した。

18.総理大臣と大統領は、両国の商業関係を見直し、日比間の航空業務に関する協定に言及した。両国首脳は両国の航空当局間で現行協定の見直しが2月に行われることを確認し、この協議の結果が双方にとり利益をもたらすものとなることを希望した。

19.総理大臣と大統領は、両国関係をより広範な基礎のもとに置くことの重要性を認識し、各種レベルにおける活発な文化交流及び文化協力を通じ、両国民の相互理解と友好を更に促進させる意向であることを再確認した。

  この関連で総理大臣はフィリピン国立博物館に対する文化無償援助に言及した上、ASEAN地域研究振興を援助するための特別計画及びアジア及び太平洋地域の若手外交官のための日本語研修計画等の特定のプロジェクトを提案した。

20.総理大臣と大統領は、今回の鈴木総理大臣夫妻のフィリピン共和国訪問は両国間の相互理解と、既に存在する友好関係の一層の強化に大いに貢献したことに深い満足の意を表明し、この訪問において両国首脳間に成功裡に確立された個人的な信頼と尊敬の関係を更に深めて行くことに意見の一致をみた。

21.鈴木総理大臣はフィリピン滞在中、同総理大臣夫妻及び随員一行がフィリピン側から受けた温かい歓迎と厚遇に就いてフィリピン政府及び国民に対し深甚なる感謝の意を表明した。