データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日本とシンガポール共和国との共同新聞発表

[場所] シンガポール
[年月日] 1981年1月15日
[出典] 外交青書25号,476−479頁.
[備考] 仮訳
[全文]

1.鈴木善幸日本国総理大臣は、リー・クァン・シンガポール共和国首相の招待により、夫人とともに、1981年1月13日から15日までシンガポール共和国を公式訪問した。

  総理大臣夫妻には、伊東正義外務大臣、亀岡高夫農林水産大臣、瓦力官房副長官及びその他の政府高官が随行した。

2.鈴木総理大臣夫妻は、1月14日、ベンジャミン・ヘンリー・シアーズ・シンガポール共和国大統領夫妻を表敬訪問した。

3.鈴木総理大臣とリー首相は、1月13日、共通の関心を有する国際的、地域的な広範な問題及び2国間に存在する諸問題について意見交換を行った。この会談には、日本側より伊東正義外務大臣、亀岡高夫農林水産大臣、瓦力官房副長官、シンガポール側より、テー・チャン・ワン国家開発相、ゴー・チョク・トン商工相兼保健相、ダナバラン外相兼文化相、トニー・タン・ケン・ヤム教育相、リム・チー・オン無任所相が出席した。

4.総理大臣と首相は、この首脳会談が親密かつ友好的な雰囲気の中で行われ、両国首脳が諸問題につき極めて率直かつ有意義な意見交換を行うことができ相互の理解を深めることができたことを高く評価した。

5.総理大臣と首相は、鈴木総理大臣の訪問によって、両国側に存在する友好と相互信頼関係が再確認できたことを喜び、両国政府は政治、経済、文化及びその他全ての分野で更に緊密に協力し、特にこのような友好関係を一層強固な基礎の上に置くために、両国政府及び国民間の接触と交流を増進する用意がある旨述べた。

6.鈴木総理大臣とリー首相は、日本とASEANとの間の緊密な関係が益々強化されつつあることを歓迎し、これは両国が共に民主主義的諸価値及び自由市場経済を守るとの立場に基づき、政治分野はもとより、経済分野をも含むあらゆる分野において、緊密な協力関係を増進するとの希望と必要性を反映しており、このことが、アジアの平和と安定の維持に実質的に貢献するであろうとの確信を表明した。

  鈴木総理大臣は、日本政府は、ASEAN諸国がより大きな地域協力と発展を追求することに対し、引き続き協力を行う旨述べた。

7.両国首脳は、国連憲章の諸原則、特に国家主権及び領土保全の尊重、武力行使または武力行使による威嚇を行わないこと、ならびに内政不干渉の原則に対する支持を再確認した。両国首脳は、国際社会の構成国が、これらの原則を遵守することは、政治的紛争を軍事的手段により解決しようとする今日の傾向に鑑み、より一層肝要となっていることに合意した。

8.総理大臣と首相は、カンボディアの現状、特にその東南アジア地域の安全に対する不安定効果について憂慮を共有し、カンボディアにおける永続的な平和を回復する唯一の方法は、すべての外国軍隊が、カンボディアの領土から撤退することにより、カンボディア人民が、国連総会決議34/22及び35/6に従って、外国からのいかなる介入及び強制を受けることなく、自らの政治的将来を決定することであるとの共通の確信を再確認した。

  この関連で、鈴木総理大臣は、カンボディア問題についてASEANがとっている正当な立場に対する全面的な支持を改めて表明した。

  両国首脳は、東南アジアに平和と安定をもたらすために、更に協力していくとの決意をあらたにした。

9.鈴木総理大臣は、日本がその国力に相応しい積極的な政治的、経済的役割を果すことにより世界の平和と安定に積極的に貢献すべき立場にあることを認識し、日本はアジアにおける安定勢力としてこの地域の平和と繁栄のため、今後共貢献していく決意である旨表明した。

  鈴木総理大臣は、日本は平和に徹し、軍事大国とはならないと決意していると述べた。更に、総理大臣は、そのための日本の基本的安全保障政策は、積極的な外交的役割を果す努力を行い、現行憲法の枠内で自衛力の着実な整備とともに、日米安保条約の一層円かつで効果的な運用を図ることにおかれている旨述べた。

10.総理大臣と首相は、国際経済協力のための環境の改善に引き続き関心を有する旨表明した。

  両国首脳は、グローバル・ネゴシエーションズ等の場において、南北問題について相互の理解と協調の下に、現実的かつ建設的な対話が行われ、有意義な成果が得られることを希望した。

11.鈴木総理大臣は、日本とシンガポールとの間の貿易の安定的な拡大が、両国各々の利益に適うものであることを認識し、日本国政府としてシンガポールとの互恵的な貿易関係の発展のためにできる限りの努力を払うとともに、この目的のための企業側における各種の努力を支持する旨表明した。

  シンガポール及び他のASEAN諸国を含む開発途上国に対する日本の一般特恵間税制度に言及しつつ、鈴木総理大臣は、日本政府は、この様な制度を更に10年間延長し、このための所要の国内手続きを進めるとの方針を決定した旨述べた。総理大臣は、日本の一般特恵関税制度が、シンガポールにおいて生産された産品の日本市場へのアクセスの増大に寄与することを期待する旨表明した。

12.総理大臣と首相は、シンガポールの経済発展のために日本の民間直接投資の果す貢献に注目し、シンガポールに対する日本の投資の流れをより一層拡大することを奨励するために、投資保証協定締結のための交渉を早期に開始すべきであることに合意した。

13.両国首脳は、「日本国政府とシンガポール共和国政府との間の租税条約改正議定書」が伊東正義外務大臣とダナバラン外務大臣の間で署名されたことに満足の意を表明するとともに、同議定書が両国間の経済関係の強化に貢献するよう期待する旨表明した。

14.総理大臣と首相は、ASEAN貿易・投資・観光促進センターを設立する協定が1980年12月に東京において締結されたことに満足の意をもって留意し、このセンターが日本とASEANとの経済関係の一層の進展、特にASEAN諸国からの輸出の促進、この地域における日本の投資の奨励、及び、観光の促進に貢献することを期待する旨述べた。

15.リー首相は、鈴木総理大臣に対し、シンガポールにおける経済・社会開発と同国の新産業政策について説明を行った。

  鈴木総理大臣は、日本政府としては、シンガポールの経済開発のために引続き協力して行くと共に日本の技術協力の枠組の中において、シンガポールにおける教育及び経済管理技術等の分野で協力を行なっていく用意がある旨表明した。

16.この関連において、鈴木総理大臣とリー首相は、シンガポール大学工学部増強計画及び日本・シンガポール・ソフトウエア技術研修センターの設立等の分野における日本の技術協力が順調に進展しつつあることに満足の意をもって留意した。

17.鈴木総理大臣は、シンガポール及びその他のASEAN諸国における人造りに貢献するために、ASEAN各国にセンターを設立するとの人造りのためのASEANプロジェクトを提案した。

  総理大臣は、この目的のため、日本国政府が1億米ドルの無償資金協力及び技術協力を行なう旨述べた。更に鈴木総理大臣は、このプロジェクトに関連し、日本国政府は、沖縄にセンターを設立する旨述べた。

  リー首相は、鈴木総理大臣の提案を歓迎すると共に、シンガポール政府は、このプロジェクトについて他のASEAN諸国と協議する用意がある旨述べた。

18.総理大臣と首相は、両国関係をより広範な基礎のもとに置くことの重要性を認識し、あらゆるレベルにおける活発な文化交流及び文化協力を通じ、両国民の相互理解と友好を更に促進させる意向であることを再確認した。

  この関連において、両国首脳は、国立シンガポール大学日本研究講座を1981年8月開講するための準備が順調に進展しつつあることに満足の意を表明した。

  鈴木総理大臣は、更に、1月14日シンガポールにおいて、伊東正義外務大臣とダナバラン外務大臣との間で交換公文が署名された国立シンガポール大学に対する文化無償援助、及び東南アジア文相機構の地域語学センターに対する日本の貢献に言及した。

  鈴木総理大臣は、ASEAN地域研究の振興を援助するための特別計画、及びアジア及び太平洋地域の若手外交官のための日本語研修計画等の特定のプロジェクトを提案した。

19.両国首脳は、今回の鈴木総理大臣夫妻のシンガポール共和国訪問は、両国間の相互理解と、既に存在する友好関係の一層の強化に大いに貢献したことに深い満足の意を表明し、この訪問において両国首脳の間に成功裡に確立された個人的な信頼と尊敬の関係を更に深めて行くことに意見の一致をみた。

20.鈴木総理大臣は、シンガポール滞在中、同総理大臣夫妻及び随員一行がシンガポール側から受けた暖かい歓迎と厚遇について、シンガポール政府及び国民に対し深甚なる感謝の意を表明した。