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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] フセイン・オン首相夫妻主催晩餐会における鈴木内閣総理大臣の挨拶

[場所] クアラルンプール
[年月日] 1981年1月15日
[出典] 鈴木演説集,185−186頁.
[備考] 
[全文]

 フセイン首相閣下、令夫人、並びに御列席の皆様

 今夕、私共一行のために、かくも盛大な晩餐会を催して戴き、また、ただ今は、フセイン首相閣下より暖かい歓迎のお言葉を賜わり、心から感謝の意を表明いたします。

 一九七七年、フセイン首相閣下は、首相に御就任後初めての公式外国訪問として、わが国を訪問されたと伺っております。この度、フセイン首相閣下の御親切な御招待にあずかり、私にとりましても総理就任後初めての外遊において、わが国にとって重要な貴国への訪問が実現できましたことは、嬉しい偶然であり、喜びに堪えません。

 私共は、シンガポールよりこの緑多きクアラ・ルンプールに到着しましたが、私はクアラ・ルンプールの町の美しい緑と立ち並ぶ高層建築の見事な対比、また、立派な高速道路と町のそこここに見られる回教寺院の見事な調和に強く印象付けられました。今朝私が目にしたこれらの景観こそ美しく豊かな自然にはぐくまれ、貴首相閣下の英邁な指導の下に、固有の伝統的価値観を生かしつつ、精力的に経済開発を推し進める今日のマレイシアを象徴するものでありましょう。

 首相閣下

 わが国と貴国との友好協力関係は、これまで政治・経済の分野を中心として順調に進んでまいりました。この良好な両国関係を、更にゆるぎなきものとし、かつ奥行きの深い関係とするためには、これまでにも増して文化、教育、学術等の分野を含めた、両国国民のレベルにおける交流を促進してゆく必要があるものと考えます。私は、このような目的のために、貴首相閣下とともに、いかなる協力も惜しむのものでないことをここで御約束したいと存じます。

 東南アジア地域における現下の国際情勢は、インドシナ情勢をめぐり、不安定な様相を示しております。かかる情勢の下で、アセアンは、その創設以来、貴国の積極的かつ建設的な貢献を得て、地域の安定勢力として重要な役割を果たしてこられました。更にアセアン構成国はその強靭性を強化するため、域内協力をますます促進されております。この事はアセアン諸国との友好協力関係を対外政策の主要な柱の一つとしているわが国としても歓迎するところであります。

 首相閣下

 従来から私は、わが国古来の伝統であり、調和と相互理解を意味する「和の精神」を自分の政治理念としてまいりました。私は、フセイン首相閣下が貴国国民の間で「バパ・プルパドアン」、即ち、「ミスター・ハーモニー」と親しく呼ばれておられることを想起致します。閣下は多民族国家たる貴国における「和の精神」の象徴であると申せましょう。本日はまた、奇しくもフセイン首相閣下御在任満五年の記念すべき日であると伺っておりますが、私は首相閣下がこの五年間、マレイシアの安定と繁栄のために貢献して来られたその業績に対し、また、政治理念を共有する盟友として、心より敬意を表する次第であります。私もまた、貴国をはじめとするアセアン諸国との連帯を一層強化し、協力関係を充実したものとして行くために、更に一層の努力を行ってまいる決意であります。

 フセイン首相閣下、令夫人、並びに御列席の皆様

 この御挨拶を終えるに当たり、私は皆様と共に杯を挙げ、国王陛下、フセイン首相閣下、令夫人の御健康とマレイシアの一層の繁栄及び日本とマレイシア両国の友好関係の一層の強化をお祈りして乾杯致したいと思います。

 乾杯!