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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] プレム首相主催晩餐会における鈴木内閣総理大臣の挨拶

[場所] バンコク
[年月日] 1981年1月18日
[出典] 鈴木演説集,187−188頁.
[備考] 
[全文]

 プレム総理大臣閣下並びに御列席の皆様

 本日私共一行の為に、かくも盛大な晩餐会を催して頂き、また只今は、プレム総理大臣閣下より暖かい御言葉を賜り心から御礼申し上げます。

 昨日、私共がタイ国の上空に達し、緑の大地が眼前に大きく広がりました時、私は深い感動を覚えました。私の飛び立ってきた日本は、厳しい冬の季節に入っています。とりわけ私の生まれた東北日本はいま全面雪に覆われております。このような地域に育ったひとびとにとって、タイ国のような恵まれた自然環境は、夢と理想であります。私はいつの日か、このような豊かな自然環境と仏教の慈悲の精神にはぐくまれた豊かな伝統的文化を有する風土に触れてみたいと思っておりました。その念願が貴総理の御招待によりこの度実現できましたことは、私及び私の妻の深く喜びとするところであります。

 総理大臣閣下

 東南アジア地域においては、現在なお試練の時が続いております。私の今回のアセアン諸国訪問は、この試練と勇敢に戦っておられる各国の指導者や国民の皆様、就中、貴総理を始めとするタイ国民の皆様に私自身及び日本国民の心からの支援を伝えることにあります。この試練は、この地域に恒久的平和を確立するために、我々が共同の努力で乗り越えなければならないハードルであり、我々に多大の忍耐と苦しみを強いるものでありましょう。

 しかし、私は、我々の共同の努力によって、就中、タイ国民の勇気と英知によって、必ずや困難を克服して、東南アジア地域の平和が現実のものとなるであろうと信じております。

 総理大臣閣下

 閣下は、国内政策の実施にあたって、つねに国民のコンセンサスを重んずるとともに、何事にも誠意をもって対処することが大切だと言われております。国家間の関係においても、誠意こそが基礎でありましょう。

 十七世紀はじめ、わが国の将軍は、アユタヤ王朝ソングタム王にあてた親書の中で「日・タイ両国間の親善関係は誠意を基礎としているから絶対に阻害されることはない。両国の間に海があることもなんら障害ではない」と述べています。誠意は海を越えて通ずる−この原則は不変であり、両国の関係は、長い誠意と友情の歴史にささえられ、いまやあらゆる分野にわたって滔々と流れる大河となっております。この流れは将来においても一層深く広く流れていくことでありましょう。

 私は今回のアセアン諸国訪問を豊かな自然に恵まれた微笑の国タイでしめくくることにしました。タイの太陽の暖かい友情と微笑を、厳しい冬を迎えている日本国民へのお土産として大切に持ち帰りたいと思います。

 総理大臣閣下

 私は、私共の貴国滞在中、国王陛下、貴総理を始め、タイの官民各位より寄せられた御厚遇に対し深く感謝の意を表するものであります。

 今次訪問に当たり貴総理は私の訪日招請を快くお受け頂きましたが、私及び私の妻はできるだけ早い機会に再び貴総理と日本でお会いできるのを心待ちにしております。

 最後にこの御挨拶を終えるに当たり、御列席の皆様とともに杯を挙げ、国王、王妃両陛下のために、また、プレム総理大臣閣下の御健康、貴国の御繁栄、そして日・タイ両国の友好のために乾杯したいと存じます。