[文書名] 日本とタイ国との共同新聞発表
1.鈴木善幸総理大臣はプレム・テインスラノン=タイ国首相の招待により夫人とともに1981年1月17日から20日までタイ国を公式訪問した。鈴木総理大臣夫妻には、伊東正義外務大臣、亀岡高夫農林水産大臣、瓦力内閣官房副長官及びその他の日本国政府高官が随行した。
2.1月17日、鈴木総理大臣夫妻は、チュンマイのプーピン・パレスにおいてタイ国国王、王妃両陛下に拝謁を賜わった。
3.鈴木総理大臣とプレム首相は1月19日共通の関心を有する国際的、地域的広範囲な問題及び2国間の諸問題について意見交換を行った。この会談には、日本側より伊東正義外務大臣、亀岡高夫農林水産大臣、瓦力内閣官房副長官、小木曽本雄駐タイ大使、タイ側よりサーム・ナ・ナコーン副首相、プンチュー・ローチャナサテイアン副首相、シテイ・サウエートシラー外務大臣、チャチャイ・チュンハワン工業大臣、アムヌイ・ウイーラワン大蔵大臣、タムチャイ・カムパトー商務大臣、バンハーン・シラバアーチャー農業・協同組合大臣、ソムサック・チュートー総理府付大臣、アルン・パーヌボン外務副大臣、ウイチアン・ワタナクン駐日大使がそれぞれ出席した。
4.総理大臣と首相は、この会談が親密かつ友好的な雰囲気の中で行われ、両国間の互恵的かつ公平な協力のための更なる前進を築いたことに深い満足の意を表明した。
5.総理大臣と首相は、東南アジアの平和、安全及び安定に脅威を与えているカンボディア内の武力紛争の継続及び外国軍隊によるカンボディア支配の継続に対し、深い憂慮を表明した。
両国首脳は、カンボディアからのすべての外国軍隊の完全撤退、カンボディアの内政不干渉及びカンボディアの主権、領土保全及びカンボディア人民の自決権の尊重を求めた国連総会決議34/22及び35/6を基礎とした政治解決によってカンボディア紛争の永続的解決を探究することの緊急的必要性を再確認した。
この関連で、鈴木総理大臣は、日本がカンボディアに関する国際会議を開催するという国連総会決定の早期実施に向けて引続きASEANと緊密に協力し、この地域の平和と安定の回復のためのASEANの一層の努力に対し全面的な支持を与える旨改めて述べた。
鈴木総理大臣は、東南アジアの平和と安定の維持のために、タイ国の主権と領土保全が完全に尊重されなければならない旨強調した。
総理大臣と首相は、東南アジアの平和と安定の推進と擁護のために相互に、また志を同じくするその他の諸国と協力する共通の決意を再確認した。
6.鈴木総理大臣は、日本がその国力にふさわしい積極的な政治的、経済的な役割を果たすことにより、世界の平和と安定に積極的に貢献すべき立場にあることを認識し、日本は、アジアの安定勢力として、この地域の平和と繁栄のために、今後とも貢献していく決意である旨表明した。
鈴木総理大臣は、日本は平和に徹し、軍事大国とはならないと決意している旨述べた。更に、鈴木総理大臣はそのための日本の基本的安全保障政策は、積極的な外交的役割を果す努力を行い、現在憲法の枠内で自衛力の着実な整備とともに、日米安保条約の一層円滑で効果的な運用を図ることにおかれている旨述べた。
7.総理大臣と首相はカンボディア人民、就中既にタイの収容所及びタイ・カンボディア国境にいる者の苦難に対する重大な憂慮の念を表明した。両国首脳は、母国に安全に帰還するのはカンボディア人の固有の権利であるとの強い信念を再確認した。
両国首脳は、またカンボディア紛争の正当かつ永続的政治解決なしには、この人道上の問題の効果的解決は達成し得ないことを強調した。
鈴木総理大臣は、深刻な経済困難、社会的及び治安上の問題にもかかわらず、生活の基盤を失ったこれらの人々に対し人道的配慮から一時的な避難の場を提供するとのタイの決定を深く感謝した。プレム首相はカンボディア流民を含むインドシナ難民定住のために第三国側における努力の強化が必要である旨強調した。同首相は、また、この面における日本国政府の継続的努力に謝意を表明した。
この関連において、鈴木総理大臣は、日本国政府が1980年度にはタイ国政府、国際連合難民高等弁務官及びその他の国際機関を通じて総額約1億ドルをインドシナ難民のために拠出し、日本国政府はタイ被災民救済計画の重要性を認識し、新村建設計画等の各種計画に使用するために27億円を供与することにした旨述べた。
鈴木総理大臣は、更に、一時的にタイに避難したカンボディア人及び国境地域のタイ被災民向けのタイ国政府及び関係国際機関の救済計画に対し、日本は引続き協力していくこと、また日本国政府は将来の協力のあり方を調査するための調査団を派遣する用意がある旨述べた。
プレム首相は、難民問題に取組む上でタイが負った負担の軽減のためにこれまで支援を行なって来た日本の積極的な貢献に対し、深甚なる感謝の念を表明した。
総理大臣と首相は、カンボディア人民に対する人道的援助には定期的見直しが行われ、また、より効果的な監視機能が導入されるべきであること、またこの様な援助はこれを必要とするカンボディア人に対し供与されるべきであり、特にすでにタイ領内及びカンボディア国境にいるカンボディア人に対し供与されるべきである旨強調した。
8.総理大臣と首相は、日本とASEAN諸国との間に緊密な関係が発展していることを歓迎し、これがアジアの平和と安定の維持に実質的に貢献するであろうとの確信を表明した。
鈴木総理大臣は、ASEAN諸国間の協力強化にタイが果している建設的な役割、及びASEANが東南アジア地域情勢における積極的な安定要因となっている事実を高く評価した。
鈴木総理大臣は、日本国政府は、ASEANがより大きな国家的及び地域的強靱性と発展及び東南アジア平和・自由・中立地帯構想を追求することに対し、引き続き協力を行う旨述べた。
総理大臣と首相は、ASEAN貿易、投資、観光促進センターを設立する協定が1980年12月に東京において締結されたことに満足の意をもって留意し、このセンターが日本とASEANとの経済関係の一層の発展、特にASEAN諸国からの輸出の促進、この地域における日本の投資の奨励及び観光の促進に貢献することを期待する旨述べた。
この点に関連し、鈴木総理大臣はASEAN各国にセンターを設立するとの人造りのためのASEANプロジェクトを提案した。鈴木総理大臣は日本国政府がこの目的のために1億米ドルにのぼる無償資金協力及び技術協力を行う旨述べた。更に鈴木総理大臣は、このプロジェクトに関連し、日本国政府は、沖縄にセンターを設立する旨述べた。
プレム首相はこの鈴木総理大臣の建設的な提案を評価し、タイ国政府はこのプロジェクトについて他のASEAN諸国と直ちに協議する旨述べた。
鈴木総理大臣は、更に、ASEAN地域研究の振興を援助する為の特別計画及びアジア・太平洋地域の若手外交官のための日本語研修等の特定のプロジェクトを提案した。
9.総理大臣と首相は、両国間で増進されつつある緊密かつ友好的な関係に満足を以って留意し、両国間の関係をより堅固な基礎の上に置くため、両国政府が政治、経済、技術、文化及びその他の分野において、更に緊密に協力する用意がある旨表明した。
10.プレム首相は、鈴木総理大臣に対しタイ国の経済開発計画を説明し、タイ国の経済、社会開発における日本の積極的な貢献に対し、深甚なる謝意を表明した。
鈴木総理大臣は、プレム首相の卓抜した指導の下にタイ国政府が達成した経済及び社会開発の進展を称賛し、この様な努力に対し今後とも種々の形の協力を行なうとの日本国政府の意向を改めて明らかにした。更に日本国総理大臣は、タイ国の工業化及び経済及び社会インフラストラクチャーの一層の改善の為のタイ国の努力に対し今後とも協力を続けると共に、農村及び農村開発、代替エネルギー資源開発を含むエネルギー開発ならびに人造りに特に重点を置くことにしたい旨述べた。
この目的の為に、鈴木総理大臣は、日本国政府はタイ国政府に対し総額550億円までの第8次円借款を供与するであろうと述べた。
プレム首相は鈴木総理大臣の声明を歓迎し、協同組合を含む農村及び農業開発ならびに天然資源の開発の重要性を強調した。両国首脳は、このような開発目標達成の為の相互協力を促進する為に、合同の長期的計画の遂行を目的として一層の協議が事務レベルで行われることに合意した。
鈴木総理大臣は更に、日本国政府はマハーサラカム看護学校、マハラート病院(第2期)及びバン・センのシーナカリンウイロート大学海洋科学センターの建設の為に、無償資金協力を行なうであろうと述べ、更に日本国政府はタイ国政府に対し、今後とも各種技術援助を行なう意向である旨明らかにした。
プレム首相は、この日本国総理大臣の発言に改めて感謝の意を表した。両国首脳は、人造り及び青少年の接触を通じての両国間の理解増進が双方の利益であることを認識し、タイ国に対する青年海外協力隊派遣に関する取決めが合意されたことを深いよろびを以って歓迎した。
11.総理大臣と首相は、両国間の貿易が着実に拡大し、かつ多角化することは、相互の利益に適うものであると認識し、両国間に存在する貿易不均衡を縮小する為により一層努力を払う必要があることに意見の一致をみた。
これに関連し、鈴木総理大臣は、日本国政府は1981年3月末に終了する予定の一般特恵関税制度を更に10年間延長することを決定した旨説明した。
プレム首相は、タイの輸出関心産品、特にパイナップル缶詰、タピオカ澱粉、ヒマシ油及び鶏肉に関する市場アクセスの改善、及び非関税障壁除去、関税率の軽減を要請した。
プレム首相は、また、タイ国政府が関心を有するタイ農産品の日本への輸入を促進することの重要性を強調した。この点に関し、またこの目的の為に、総理大臣と首相は、タイ国における植物検疫制度の確立の為に、日本国政府の援助を通じて協力が継続されるべきであるとの点に意見の一致をみた。
総理大臣と首相は、双方が日本の資本市場へのアクセスを含む両国間の金融協力の拡大の可能性を探究することに同意した。
12.総理大臣と首相は、タイ国の国家開発努力に対する日本の民間部門からの投資の重要性に留意しつつ、両国政府は、この様な投資を円滑にする為に引続き最善の努力を払うべきことに合意した。
この関連で、総理大臣と首相は、両国間の投資保証協定早期締結の為に、速かに交渉を開始すべきことに合意した。
総理大臣と首相は、日本の産業構造の変化により、日本における高度化されていない産業は、開発途上国に移転する必要に迫られることに留意した。
プレム首相は、タイ国が比較優位を有する労働集約的な日本の産業は、タイ国に移転することを希望表明した。
総理大臣と首相は、あらゆるレベルにおけるタイ人の経営上及び技術上の経験を実際に一層活用することにより、日本からタイ国に対する技術移転が一層有効に行なわれる必要があることに意見の一致をみた。
13.総理大臣と首相は、両国関係をより広範な基礎の上に置くことの重要性を認識し、あらゆるレベルにおける文化交流及び文化協力を通じ、両国民の相互理解と友好を更に増進させる意向であることを再確認した。
14.総理大臣と首相は、新国際経済秩序の樹立に向けて、種々の場において、今日まで行なわれた交渉の進展を検討した。両国首脳は、国際経済協力の為のより良い環境造りの促進に向けての努力を一層強化する必要性を強調した。
両国首脳は、南北対話において、有意義な成果を達成する為に、積極的かつ建設的努力がなされるべきことを期待した。両国首脳は、この様な対話の場としてのグローバル・ネゴシエーションズを開始することについて合意が成立することを希望した。
15.総理大臣と首相は、鈴木総理大臣の訪問は日本とタイ両国間の相互理解及び既に存在する友好関係の一層の増進に大いに貢献したことに深い満足の意を表明した。
16.鈴木総理大臣は、双方にとって都合の良い時期にプレム首相が日本を公式に訪問するよう招請し、この招請はプレム首相より深い感謝の意を以って受諾された。
17.鈴木総理大臣は、同総理夫妻及び随員一行がタイ国政府及び国民から受けた温かい歓迎と厚遇に対し深甚なる感謝の意を表明した。