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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] カンボディア国際会議におけるカンボディアに関する宣言及び決議

[場所] ニューヨーク
[年月日] 1981年7月17日
[出典] 外交青書26号,482−485頁.
[備考] 仮訳
[全文]

「カンボディアに関する宣言」

1.国際連合憲章第1条及び第2条並びに総会決議35/6に基づいて、国際連合は、1981年7月13日から17日までニューヨークの国際連合本部において、カンボディア問題の包括的政治解決を見出すことを目的として、カンボディアに関する国際会議を開催した。

2.会議は、すべての国の主権、独立及び領土保全の不可侵に対する権利を再確認するとともに、すべての国の隣接諸国が有するこれらの権利を尊重する義務を強調する。会議は、また、すべての民族が自己の運命を外国の干渉、転覆及び強制を受けることなく決定する権利を有することを再確認する。

3.会議は、カンボディアにおける情勢が国家の主権、独立及び領土保全の尊重、内政不干渉並びに国際関係における武力による威嚇又は武力の行使の不承認の諸原則の侵害から生じていることに対し、懸念を表明する。

4.会議は、カンボディアにおける情勢から生じている重大な国際的結果に留意する。会議は、特に、当該情勢の結果としての東南アジアにおける緊張の激化及び大国の介在に重大な懸念をもって留意する。

5.会議は、また、カンボディアにおける情勢から生じている重大な難民問題に留意するとともに、難民問題の長期的解決のためには紛争の政治的解決が必要であろうことを確信する。

6.会議は、すべての外国軍隊のカンボディアからの撤退、カンボディアの独立、主権及び領土保全の回復及び維持、並びにすべての国によるカンボディアの国内問題への不干渉、不介入の約束がカンボディア問題のすべての公正で永続的な解決の主要な要素であるとの確信を強調する。

7.会議は、外国による武力介入が継続し、外国軍隊がカンボディアから撤退しないため、カンボディア国民の自由選挙による意思表示が不可能となっていることを遺憾とする。

8.会議は、更に、カンボディア紛争の包括的政治解決が東南アジアにおける平和・自由・中立地帯の設立にとって不可欠であることを確信する。

9.会議は、カンボディアが、他の全ての国家と同様に、独立し、主権を有し、外部からの脅威又は武力による侵略から解放され、平和、安定及び完全な人権尊重の環境の下で自国の発展と国民の民生向上を自由に追求する権利を有することを強調する。

10.カンボディアにおける包括的政治解決を達成するために、会議は、特に次の諸点に関する交渉を要請する。

(a)カンボディアにおける紛争の全当事者による停戦の合意並びに国連平和維持軍/監視団の監督及び検証の下ですべての外国軍隊のカンボディアからのできる限り速やかな撤退。

(b)カンボディアの武装勢力が自由選挙の実施を妨害若しくは破壊し、又は選挙の過程において民衆を脅迫若しくは強制することができないことを確保するための適当な措置。かかる措置は、また、カンボディアの武装勢力が自由選挙の結果を尊重することを確保するものでなければならない。

(c)すべての外国軍隊のカンボディアからの撤退後、自由選挙による新政府の樹立までの間の、カンボディアにおける法と秩序の維持及び自由選挙の実施のための適当な措置。

(d)カンボディア人民が自決権を行使し、自己の選択に基づく政府を選出することを可能とする自由選挙の国連監視下での実施。すべてのカンボディア人は、当該選挙に参加する権利を有する。

11.会議は、域内のすべての国が有する正当な安全保障上の関心を理解し、よって、カンボディアが非同盟・中立にとどまること、並びに将来、選挙により選出されたカンボディア政府がカンボディアは他の国々、特にカンボディアと国境を接する諸国の安全保障、主権及び領土保全に対する脅威となることはなく、また、それらを侵害するために利用されることもないことを宣言することが不可欠であると考える。

12.会議は、また、国連安全保障理事会の5常任理事国、東南アジアのすべての国及び他の関係諸国が、本宣言第11項との関連において、次の宣言を行うことが不可欠であると考える。

(a)カンボディアの独立、主権領土保全及び非同盟・中立の地位をいかなる意味でも尊重し、遵守し、かつ、カンボディア国境が不可侵であることを承認すること

(b)カンボディアに対するあらゆる形態の内政干渉(直接であると間接であるとを問わない)を差し控えること

(c)カンボディアを軍事同盟又は本宣言第11項に基づくカンボディアの宣言と両立しないその他の協定(軍事的なものであるか否かを問わない)に引き込まないこと、更に、当該同盟への加入又は当該協定の締結についてカンボディアを勧誘し又は奨励しないこと

(d)カンボディアへの外国軍隊又は軍事要員の導入を差し控えるとともに、カンボディアにおいていかなる軍事基地も建設しないこと

(e)いかなる国の領土(自国の領土も含む)も、カンボディアの内政干渉のために使用しないこと

(f)カンボディアの安全保障に脅威を与えず、その主権国家としての存続を危くしないこと

13.会議は、カンボディア紛争の平和的解決の後、カンボディア経済の再建及び域内のすべての国の経済、社会開発のための対カンボディア援助計画を検討するための政府間委員会が設立されることを希望する。

14.会議は、ヴェトナム及びその他の諸国の会議への欠席に留意するとともに、それら諸国が会議の将来の会期に参加するよう要請する。この関連において、会議は、域内諸国の間で行われている二国間協議に留意するとともに、これらの協議が域内のすべての国及びその他の諸国の会議の将来の会期への参加を説得する上で役立つことを希望する。

15.会議は、カンボディア問題の平和的解決及び東南アジア地域の平和と安定の回復に至る交渉過程にヴェトナムが参加することを希望する。このことは、域内のすべての国をして経済、社会開発の任務に専念し、自信の確立に努め、努力を要するすべての分野において域内協力を促進することを可能とし、よって、東南アジアにおける平和、協調及び有効の新たな時代の到来を告げることになるであろう。

「決議」

 カンボディアに関する国際会議は、

1981年7月17日のカンボディアに関する宣言を想起しつつ、

1.日本、マレイシア、ナイジェリア、セネガル、スリ・ランカ、スーダン及びタイを構成国とするカンボディアに関する国際会議アド・ホック委員会を設立することを決定するとともに、会議議長に対し、会議参加国と協議の上、委員会の構成国を追加する権限を与え、

2.委員会に次の任務を委託し、

(a)会議が、1980年10月22日の総会決議35/6に従い、カンボディア問題の包括的政治解決を探究することを援助すること

(b)会議の会期と会期の間、事務総長に対する諮問機関として行動すること

(c)適当な場合には、事務総長と協議しかつ事務総長の勧告を考慮した上でカンボディアにおける紛争の包括的政治解決を追求するための施設を派遣すること

(d)事務総長との協議の上、次回会議の開催時期について会議議長に助言すること

3.委員会が会議に報告書を提出することを要請し、

4.国連総会が事務総長に対し、委員会と協議し、委員会を援助し、かつ、委員会がその機能を果たすうえで必要な便宜を提供するよう要請すべきことを勧告し、

5.国連総会が事務総長に対し、委員会の任務及びカンボディアに関する宣言第10項に定められている交渉のための諸要素を考慮しつつ、国連の将来果たし得る役割につき予備的検討を行うよう要請すべきことを勧告し、

6.事務総長に対し、会議の報告書を第36回国連総会に送付するよう要請し、

7.国連総会が、適当な時期に、会議議長の勧告に基づいて、会議の再開を承認すべきことを勧告する。