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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] マハディール首相夫妻主催晩餐会における竹下内閣総理大臣のスピーチ

[場所] クアラルンプール
[年月日] 1989年5月2日
[出典] 竹下演説集,208−211頁.
[備考] 
[全文]

 マハディール首相閣下、令夫人並びにご列席の皆様

今夕は、私ども一行のために、かくも盛大な晩餐会をご開催いただき、ただいまは首相閣下より心暖まる歓迎のお言葉を賜りました。心からお礼申し上げます。

 まず最初に、閣下がすっかり元気になられたことをお祝い申し上げます。ご回復後、外国からの最初の公式訪問客として、また断食期間中にもかかわらず、私ども一行を快くお迎えいただきましたことは、私の最も光栄とするところであり、深く感謝申し上げます。今夕はご列席の皆様とともに閣下のご回復をお喜び申し上げたいと存じます。

 また、去る二月の昭和天皇の大喪の礼には、現国王ご夫妻及び外務大臣ご夫妻が貴国を代表してご参列くださいました。ここに日本国政府と国民を代表して厚く御礼申し上げます。

 首相閣下

 私は、昨年十月、首相閣下と東京でお目にかかった折、マレイシアの国づくり及び日本・マレイシア関係の緊密化に対する首相の並々ならぬ情熱に強い感銘を受け、それ以来、なるべく早い機会に、改めて閣下と膝を交え有益な意見交換を行いたいと願っておりました。今回首相閣下のお招きにより、大蔵大臣当時の訪問に次いで、再度マレイシアの地を踏むことができましたことは、私にとって望外の幸せであります。

 近年、激変する世界経済の中で、マレイシアもその影響を受け、一時は苦しい経済運営を強いられていると聞いたことを記憶いたしております。その後貴国経済が上昇傾向に転じているとは承知いたしておりましたが、当地到着以来目の当たりにしたクアラ・ルンプールの活力に満ちた姿は、私の想像をはるかに超えるものがありました。すなわち近代的道路網、行き交う車の列、林立する高層ビル、活気あふれる商店街等は、貴国の発展ぶりの一端を示すものでありましょう。その中でもとりわけ私が感銘を受けましたのは、クアラ・ルンプールが首都として各種の近代的施設を完備しながらも、伝統的なたたずまいや豊かな緑を十分に保存し、町全体が美しい公園都市の観を呈していることであります。我々は都市計画の面で、カアラ・ルンプール{前9文字ママ}から学ぶことが多いのではないかと感じた次第であります。

 今日、マレイシアの国際社会における活躍には目覚ましいものがあります。それはASEAN、国連平和維持活動、イスラム会議機構、難民問題、麻薬問題等、広範な分野にわたっております。首相閣下の指導の下での地道な平和への努力が実を結び、昨年末、貴国が、国際連合の安全保障理事会における非常任理事国に選出されたことは、まだ記憶に新しいところであります。また、貴国は今年後半、多数の外国首脳を招いて英連邦首脳会議を主催される予定と伺っておりますが、これも関係各国が首相閣下の指導力とマレイシアの安定性に高い信頼感を寄せている証左であると信じます。

 私は「世界に貢献する日本」の建設をめざし、「国際協力構想」を提唱し、平和のための協力、政府開発援助の充実、国際文化交流の強化を推進してまいりました。我が国としては今後とも世界の平和と繁栄のため、国際社会の主要な一員として、その増大した国力にふさわしい役割を果たすべく努力してゆく所存であります。

 首相閣下

 我が国と貴国との友好協力関係は、閣下の首相就任以来一段と緊密化し、近年、その関係は幅広く定着してきております。従来から両国は貿易・投資や経済技術協力面で緊密な関係にありますが、特にマレイシアに現在派遣されている青年海外協力隊員の数は世界で最も多く、また、閣下の「東方政策」のプログラムの中で、我が国は留学生・産業技術研修生として毎年数百名のマレイシア青年の受け入れを行っております。我が国は、このような人と人との触れ合いと交流を通じての協力関係を重視するものであり、今後とも貴国の要請に応え、貴国の人づくり計画にできる限りの協力を継続する方針であります。

 さらに、我が国は、これらの面の交流に加え、文化面の交流促進に努力したいと考えておりますが、その一環として、近く国際交流基金の事務所をクアラ・ルンプールに設立することを決定いたしました。また、日本からマレイシアへの観光客数は年々増加しておりますが、明年貴国が計画しておられる「マレイシア観光年」を契機として日本人旅行者が一層増加し、日本人のマレイシア理解が進むことを願っております。

 私は政権担当以来、精神的にも物質的にもバランスのとれた豊かな国土の創造をめざす「ふるさと創生」を政策の中心課題として掲げ、努力してまいりました。日本語の「ふるさと」という言葉には、単に生まれた土地という意味だけでなく、人間と自然を含めた共通のぬくもりを感じられるところ、という意味があります。マレイシア語の「カンポン(ふるさと)」にも同じような感じがこもっているのではないでしょうか。最近貴国で流行した歌に次のような一節があると聞きました。

 「バリック・カンポン、

  ハティ・ギラン」

 (「ふるさとへ帰るんだ、心が踊る」)

 私は、このような共通の感情を持つ両国民の絆をより一層深め、幅広いものとしていくため、今後ともさらに努力してまいる決意であります。

マハディール首相閣下、令夫人並びにご列席の皆様

 私は皆様とともに杯を上げ、マハディール首相閣下、令夫人のご健康とマレイシアの一層の繁栄、並びに日本とマレイシア両国民の友情の絆が一層強化されんことをお祈りして乾杯したいと思います。

 乾杯!