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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] スハルト大統領夫妻主催晩餐会における竹下内閣総理大臣のスピーチ

[場所] ジャカルタ
[年月日] 1989年5月4日
[出典] 竹下演説集,212−214頁.
[備考] 
[全文]

 スハルト大統領閣下、令夫人並びにご列席の皆様

 今夕は、私ども一行のため、かくも盛大なる晩餐会をご開催いただき、ただいまは、大統領より暖かい歓迎のお言葉を賜りました。一行を代表して厚く御礼申し上げます。

 大統領閣下には、昭和天皇の大喪の礼へのご参列を早々に表明され、令夫人とともにご訪日いただきました。また、インドネシアの多くの方々から、昭和天皇に心温まるお見舞いや心からの弔意が寄せられました。日本国政府および国民を代表し、改めて深く感謝申し上げたいと存じます。

 私は、日頃から大統領閣下の温厚なお人柄と卓越したリーダーシップに深い尊敬の念を覚えておりましたが、閣下の指導の下で目覚ましい開発を達成しつつあるインドネシアをかねてから一度訪れたいと念願いたしておりました。この度、大統領閣下のお招きにより、年来の希望を実現することができましたことは、私にとりまして何よりの喜びであります。ただ、この訪問がちょうど貴国の断食期間にあたり、また、本日はキリスト数の祝日でもあると聞いて大変恐縮いたしております。スハルト大統領閣下始めインドネシアの皆様が、このような時期にもかかわらず、私の訪問を快く受け入れてくださいましたことは、まさに感激の極みであります。

 大統領閣下

 「パパ・プンバングナン(開発の父)」として知られる閣下の多年にわたるご指導の下で貴国が払われた国家開発への努力は、今や国際社会から高く評価され、称賛されております。一九八四年以来の米自給の達成、最近の非石油・ガス製品の輸出増、本年六月に予定される大統領閣下の国連人口賞受賞等は、そうした目覚ましい成果を象徴するモニュメントであり、アジアの友邦として誠に力強いものを覚えます。そうした貴国の発展に対し、これまでの我が国と貴国の協力関係が多少なりとも貢献しているとすれば、我が国にとってこれに勝る喜びはありません。

 我が国は、貴国が石油収入の低下、対外債務累積等なお多くの困難な問題に直面しておられることを十分認識しております。私は、貴国が、貿易、財政・金融、投資等の幅広い分野におけるダイナミックな経済措置を通じて産業構造の転換を図ることにより、これらの問題への対処に成功しつつあることを高く評価し、我が国としても貴国の経済開発に引き続き可能な限りの協力を行っていくことを、改めて表明いたしたいと存じます。貴国が益々その国際的地位を高められることは、ひとりインドネシアのみならず、我が国を含むアジア・太平洋諸国の平和と繁栄にとっても極めて重要であると信ずるからであります。 私たちは同じアジア・太平洋に位置する国家として、この地域の平和と安定につき、共に深い関心を有しております。私は、大統領閣下がカンボディア問題の包括的政治解決に向けて忍耐強く努力されていることに敬意を表するとともに、今後とも一層のイニシアティブを発揮されますよう期待いたします。この問題については、我が国としても、「世界に貢献する日本」との立場から、貴国をはじめとするASEAN諸国との緊密な対話を通じ、早期に真の包括的政治解決に達するよう努力してまいりたいと思っております。

 我が国と貴国との間では、これまで長年にわたって友好協力関係が培われてまいりました。これを支える上で重要な役割を果たしてきたのは、官民各層の幅広い活発な交流であります。両国の友好・協力関係を揺るぎないものにしていくためには、この交流を未来にわたって尽きることのない、滔々たる流れにしていかなければなりません。

 両国は、共にアジアの伝統を守りつつ経済・社会・文化の発展に努力してきたという共通の歴史を有しております。このような共通点に支えられた両国の信頼と友情を明日の世界へ継承するには、次の世代を担う青年の活発な交流が極めて重要であり、今後とも、我が国は、一昨年マニラにおいて表明した「日・ASEAN総合交流計画」の一層の拡大、充実を図ってまいりたいと考えております。

 大統領閣下

 私は、最近、閣下の「自叙伝」が出版されたとお聞きしましたが、その中で日本料理をひそかに勉強されたことがあると記されていることを知り、改めて閣下が如何に日本に関心をお持ちになっておられるかに強い感銘を受けました。私はこのような閣下とともに、日本・インドネシア両国の友好協力関係の発展に尽力できることを、大変うれしく思うものであります。それでは、ご列席の皆様、

 大統領閣下ご夫妻のご健康並びにインドネシアの一層の発展、そして、日本とインドネシア両国の永遠の友情をお祈りして、皆様と共に高く杯を上げ、乾杯したいと存じます。

 乾杯