[文書名] ハサナル・ボルキア国王主催晩餐会における海部内閣総理大臣の挨拶
ボルキア国王陛下、サレハ王妃陛下、マリアム王妃殿下並びにご列席の皆さま
本夕は、我々一行のためにかくも盛大な晩餐会を催して頂き、また只今は国王陛下より暖かい歓迎のお言葉を賜り、心からお礼申し上げます。
ハサナル・ボルキア国王陛下におかれましては、一昨年二月の昭和天皇大喪の礼に、また、昨年十一月の天皇即位の礼にご参列を賜りました。この席をお借りして、そのご好意に対し、日本国民並びに日本国政府を代表して深く感謝申し上げます。
私はかねてから「平和の郷」、ダルサラームと呼ばれる貴国を是非とも訪問したいと思っておりました。このたび、その希望が叶い、貴国を訪問することができましたことは、私にとって大きな喜びであります。
特に、私は、日本の総理としては貴国の独立後初めて貴国を訪問し、国王陛下にお目にかかり、親しくお話を伺うことができたことをこの上なく光栄に存じます。貴国に到着してから、清潔で、美しく整備された街並みや豊かな緑と水とに恵まれた国土などを拝見し、貴国の国造りのすばらしい成果に深い印象を受けました。
国王陛下
貴国と我が国は、既に貴国の独立以前より経済面、特に石油・天然ガスの分野で密接な協力関係を維持してきました。独立後においては、技術協力に加え、青年交流や各種文化交流など幅広い分野で人物の往来が推進され、日本・ブルネイ両国関係は日増しに緊密の度を深めつつあります。
現在、貴国にとって、日本は最大の貿易パートナーであります。貴国で産出される石油の約四分の一、天然ガスの殆ど全てを日本が輸入しており、貴国の総輸出量の約六割を日本が輸入しています。他方、貴国において日本製品は最も多く輸入されています。かかる緊密な関係を今後とも維持・発展させていきたいと思います。
貴国は、国造りに向けて、人造りや経済の多様化に努力を傾注しておられると承っています。新しい分野の開拓には新しい困難が伴うのが常でありますが、ハサナル・ボルキア国王陛下の卓越した指導力の下に、国民が一致団結して努力されれば必ずや成果を挙げられることと確信いたします。我が国としては、これまでに築かれてきた成果を踏まえ、幅広い両国関係を発展させるため、一層の努力を行うとともに、国家近代化の過程で蓄積してきた諸経験を生かし、貴国の国造りに少しでもお役に立つようにしていきたいと考えております。
国王陛下
貴国は、独立とともにアセアンに加盟し、対アセアン外交を外交政策の基調として、アセアン諸国との協調・協力に意を用いて来ておられます。一昨年七月には、アセアン拡大外相会議の主催国として会議を成功に導くなど、アセアン諸国間の協調・協力の進展のために益々大きな役割を果たされており、心強いかぎりです。アセアン諸国との関係発展を国の対外政策の基本的な柱の一つとしている我が国としては、今後、貴国と相協力しあって地域の安定と一層の発展に向かって努力していきたい考えであります。この意味で、私は貴国が昨年、我が国とアセアンの協力機構である「アセアン貿易投資観光促進センター」に加入されたことを心から喜ぶものであります。
更に、近年貴国は、広く世界情勢に関心を持ち、先般のイラクのクゥエート侵攻という事態に際しては、一貫して国連の諸決議を支持する立場を明らかにされ、また避難民救済に協力されました。これは、国際社会の平和と繁栄を希求し、そのため応分の貢献をしたいと努めている日本の志向にも合致するところであり、世界の平和と繁栄に対する貴国のご関心に共感を覚えます。
国王陛下
貴国は、日本と同じく、古い歴史と伝統を持つ国家であります。貴国は、古来主として交易に従事する国家として発展し、特に十六世紀初め頃には、丁度国王陛下と同じ名前であらせられる第五代ボルキア国王の御治世において広く海洋交易を行い、大いに栄えたことも伺っております。我が国も古来より狭い国土にとらわれず海洋交易に積極的に従事してきたという点で、貴国の歴史と共通点があり、親しみを感じます。私自身の名前「海部」も私の祖先が海と関係が深かったことを示しています。我が国の記録によれば、既に十七世紀初頭に日本の御朱印船が南シナ海の荒波を越えてこのあたりに立ち寄ったという形跡があり、もしこれが事実だとすれば、日本とブルネイの間には、四百年に及ぶ交流が行われてきたということになります。
今回宿泊させて頂く迎賓館の裏庭からは、その南シナ海を一望のもとに望むことができます。日本、ブルネイ両国を結び付けてきたこの海を更に多くの両国民が往来して、両国の関係が益々強固になるよう念じて止みません。
国王陛下
今回の私共のブルネイ訪問は、極めて短いものではありますが、国王陛下を始め関係者の方々の暖かいご配慮により誠に有意義なものとなりました。自ら訪問してみて、私の新生ブルネイに対する理解は深まりました。帰国の後は、この目で見、この耳で聞いた貴国のことを、広く日本各界、各層の人々に報告し、我が国において、一人でも多くのブルネイの理解者が増えるよう力を尽くしたいと思います。
明年は、国王陛下御在位二十五周年をお祝いされると伺っております。国王陛下の益々のご健勝、ブルネイ・ダルサラーム国の一層の繁栄と発展を祈念して私の挨拶とさせて頂きます。