データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ゴー・チョク・トン首相主催晩餐会における海部内閣総理大臣の挨拶

[場所] 
[年月日] 1991年5月2日
[出典] 海部演説集,260−262頁.
[備考] 
[全文]

 ゴー・チョク・トン首相閣下、令夫人、リー・クァン・ユー上級大臣閣下、令夫人並びにご列席の皆さま

 今宵は私たちのためにこのように盛大な宴を催していただき、また只今は、ゴー首相より温かい歓迎のお言葉を賜わりました。心からお礼申し上げます。

 貴国では昨年十一月、三十一年間にわたって国政の指導に当たってこられたリー首相からゴー首相に国政のバトンが引き継がれ、新進気鋭の指導陣が新たな船出をされました。この度、日本国の首相として貴国を公式に訪問し、ゴー首相率いる新たな指導者の方々との出会いをこのように実現できたことは私にとって大きな喜びであります。

 ご列席の皆さま

 シンガポールは昨年、独立二十五周年を迎えられましたが、この間リー前首相の卓越した指導により、幾多の困難を乗り越えて、いち早く先進国に肩を並べるまでに発展しました。いまやシンガポールは世界で最も成功した開発モデルの一つとして開発途上世界の範となるに至りました。そして今日、貴国は、アセアン全体のため、さらにはアジア・太平洋地域の発展、協力に向けて力強いイニシアティヴをとっておられます。私は、この機会に改めて、リー前首相の政治家としての先見の明及び永年のご努力に敬意を表したいと思います。

 ご列席の皆さま

 ゴー首相におかれては、政権の発足以来、湾岸戦争への対応や教育の機会均等の確保、芸術振興、より開かれた潤いのある社会の実現といった外交・内政上の重要課題に着実に実績を上げておられます。

 私は、本日の会談で日本・シンガポール関係並びに両国が関心を有する国際問題について、ゴー首相と忌憚のない意見交換を行いました。この会談を通じ、私は、ゴー首相が二十五年間の国造りの成果を踏まえつつ、二十一世紀に向けてシンガポールの更なる発展のために、国民と共に着実に歩んでいかれることを強く確信致した次第であります。

 首相閣下

 今日の世界は、大きな地殻変動の時期を迎えております。このような時代に、我が国は、その世界における立場と役割に鑑み、単に経済面における貢献にとどまらず、国際社会の平和と安定の維持のために一層の努力を傾注することが、我が国の国際責任を全うする道であると考えます。貴国は、この面でも、ナミビア選挙監視、カンボディア和平問題、湾岸危機等において積極的な貢献を果たされております。私はこれに深い敬意を表すると共に、我が国としても、貴国から多くのものを学ぶことができると考えます。

 首相閣下

 シンガポールと日本は、共に自由市場経済と民主主義の理念に立脚し、アジアの中でも世界の耳目を集める発展を遂げて来ました。このような我々両国の発展は、アジア・太平洋地域の現在のダイナミズムを生み出す原動力となったと言って過言ではないでしょう。両国は、今や投資、貿易の網の目で密接に結ばれ、お互いになくてはならない間柄になっております。このような関係を基礎に、先進的な分野での技術協力、文化交流、観光等の多様な分野で実りある成果が花開いております。我々は、この流れをさらに広く太いものとしなければなりません。我が国と、今や援助供与国としての一歩を踏み出した貴国との関係は、今後例えば、既に実施中の近隣諸国を対象とした、貴国における技術研修のための協力、即ちいわゆる第三国技術研修を最初の足掛かりに、今や、二国間関係の枠組みを越えて、この地域、ひいては世界全体の平和と繁栄のために力を合わせ、協力を行っていく段階にまで達したものと考えます。

 ゴー首相閣下、令夫人並びにご列席の皆さま

 最後に、私は皆さまと共に杯を上げ、ウィー大統領閣下ご夫妻および貴首相閣下ご夫妻、リー上級大臣閣下ご夫妻のご健勝並びにシンガポール共和国の一層の繁栄、シンガポール・日本両国間のますますの友好と協力関係の発展、並びにアジアと世界の平和と安定のために乾杯したいと存じます。

 乾杯!