データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] アキノ大統領主催晩餐会における海部内閣総理大臣の挨拶

[場所] 
[年月日] 1991年5月4日
[出典] 海部演説集,263−265頁.
[備考] 
[全文]

 大統領閣下、マカパガル元大統領、サロンガ上院議長、ミトラ下院議長、フェルナン最高裁長官並びにご列席の皆さま

 本夕は、私ども一行のためかくも盛大な晩餐会を催して頂き、また、ただ今は大統領閣下から暖かい歓迎のお言葉を賜わりました。心から感謝致します。

 大統領閣下には、内外の公務多端の折にもかかわらず、一昨年二月の大喪の礼に続き、昨年十一月には我が国天皇陛下の即位の礼にご参列いただきました。日本国政府及び国民を代表して、ここに改めて厚くお礼申し上げます。

 大統領閣下

 明日、私は貴国の国民的英雄ホセ・リサール博士の記念碑に献花いたします。博士は、一八八八年に一か月半東京に滞在し、「私は、自分で考えていたよりも永くここに滞在した。何故なら、この国は私にとって大変興味があったからであり、また将来、我々は日本と多くの接触や深い関係を持つことになるだろうからである」と書き残されました。果たしてリサール博士の百年以上も前の予言どおり、今日両国は、双方の関係者の方々の努力によって、相互になくてはならない国となったのあります。

 大統領閣下

 我が国は、アキノ政権誕生以来、自由と民主主義の精神に立脚する貴国の政治及び社会の改革と経済再建の努力を一貫して支持、支援してまいりました。私は、貴国の安定と繁栄はアジア・太平洋地域の安定と繁栄にとっても重要であるとの認識の下、貴国に対する我が国のこれまでの支援・協力政策は今後とも不変であることをこの機会に改めて明らかにしたいと存じます。私はかかる我が国の協力が、議会や経済界更には国民各層の理解を得た貴国の一層の自助努力と相俟って貴国の経済再建に重要な役割を果たすものと期待しております。

 大統領閣下

 私は、閣下が経済開発計画の中でも、特に貧困層の大きな部分を抱える地方の開発に力を注いでおられることに、強い関心を抱いております。と申しますのも、私が青年代議士の頃からその創設と発展のために情熱と努力を傾けてきた青年海外協力隊は、まさに地方の草の根レベルでの人と人の触れ合いを通じた協力を目指すものだからです。貴国はこの協力隊の最も初期の派遣国であり、かつ、累計八百五十名以上という世界最大の派遣実績を有する国であります。実は、私は二十一年前、貴国を訪れ、マニラ及びダバオにおいて軌道に乗り始めたばかりの協力隊の活動振りを視察しました。私は、その時、いささかの誇りと共に、「日本の平和部隊」の創設に努力して本当に良かったとの思いを新たにし、また、その将来に大いに期待をはせたものです。私は明日、貴国で活動中の隊員達と懇談する機会を持つ予定ですが、彼らの口から、貴国の国民と手に手を携えて国造りに励んでいる話を聞けるものと大いに期待しております。

 大統領閣下

 フィリピンがその先駆となった民主化の波は大きなうねりとなり、戦後の冷戦構造に大きな変化が起きました。今や新たな国際秩序が求められております。私は、このような時、アキノ大統領閣下とアジア・太平洋地域の将来につき忌憚のない意見交換ができますことは、極めて有意義であると考えており、明日の会談を楽しみにしております。

 十年後に始まる二十一世紀に、「我々は豊かで自由に満ちた世界を創り上げた」と子供達に自信と誇りをもって申し伝えられるよう、この地域、ひいては世界の繁栄のために、共に手を取りあって努力していこうではありませんか。

 それでは、本日到着以降フィリピン国民の皆さまから私ども一行に心のこもった歓迎とおもてなしをいただいておりますことに厚くお礼を申し上げ、ここに大統領閣下のご健康、ご列席の皆さまのご繁栄、並びに日本・フィリピン両国の友好関係がますます発展することを祈念して、杯を上げたいと存じます。マブーハイ。