データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] カンボディア復興閣僚会議における柿澤外務政務次官ステートメント

[場所] 
[年月日] 1992年6月22日
[出典] 外交青書36号,395−396頁.
[備考] 
[全文]

1.本日ここに、カンボディアの平和と繁栄のために貢献しようという意思を有する多くの国々及び国際機関の代表が一堂に会し、カンボデイアの和平プロセスへの国際社会のコミットメントを一層強化する機会を有するに至りましたことは、会議主催国として、また、これまで和平プロセスに深く関与して参りましたアジアの友人として、喜びとするところであります。

また、この機会に、和平の原動力として国民和解に向けた不断の努力を行われているシハヌーク殿下、そして国連史上未曾有の事業に取り組まれている明石特別代表に、深甚なる敬意を表したいと思います。

2.今次閣僚会議の主要テーマであります復旧・復興に関しましては、1989年のパリ会議以来、将来の和平達成を念頭に置きつつ、関係国・国際機関の間で真摯な議論、努力が積み重ねられて参りました。昨年10月のパリ会議におきましては、今後カンボディアにおける復旧・復興を取り進めて行く上での基礎となる「カンボディアの復旧及び復興に関する宣言」が採択されました。また、本日の会議には、復旧・復興援助の優先分野を特定する上で有益な報告書がUNDP、世銀、IMF及びアジア開発銀行により準備されました。今般この閣僚会議を実現することができましたのも、このような関係者の真剣な努力の賜物であり、また、カンボディア支援に対するゆるぎないコミットメントの反映であると考えております。

3.我が国としましても、和平合意の達成直後より累次にわたり調査団を派遣し、カンボディアの経済社会状況、復旧・復興にかかわるニーズの把握に努めるとともに、我が国の協力の具体的方途につき、積極的に検討を進めて参りました。これらの調査結果を踏まえつつ、また、4月に発出された国連事務総長アピールにも留意し、カンボディアの復旧・復興に向けて今後数年の間に着手することが必要な案件については、協力を行うこととしております。このため、これまでに行った人道的観点からの支援の他、基礎的なインフラ整備、保健医療、農業、人造り等の分野において、国連事務総長アピールが所要額と位置づけている約6億ドルのうち、約1.5億から2億ドルを目途に協力を行うべく、努力していく所存であります。また、カンボディアに対する復旧・復興支援を取り進めるに際しましては、ASEAN諸国をはじめとする近隣諸国の知識・経験を活用することを念頭に置き、これら諸国との協力の可能性を探究していきたいと思います。

4.カンボディアの本格的な復興事業が効果的に進捗していくためには、関係国・国際機関の間の緊密な意見交換と、カンボディア側との十分な政策対話が不可欠であります。このような認識は、上記宣言にも、中長期的な復興支援の調整メカニズムとしての「カンボディア復興国際委員会」(ICORC)の設立という形で示されております。右設立の暁には、我が国としては同委員会の議長を関係国・国際機関との緊密な連携の下に務める用意があることを申し添えます。

5.カンボディアの復旧.復興に関し忘れてならないのは、NGOの役割であります。世界各国の民間ボランティアの方々は和平達成前より長年にわたり、カンボディア各地において医療、教育、職業訓練といった様々な分野で人道的な活動を行ってきておられます。これらNGOの方々は、今後の復旧.復興のプロセスにおきましても、重要な役割を果たされて行くでありましょう。今次会合にもNGOの方々の代表に御参加いただいておりますが、今後とも一層の連携を保ち、そして更に、NGOの活動を一層支援して行くことが望まれます。

6.「復旧・復興宣言」にもある通り、復旧・復興は、全てのカンボディア国民に遍く裨益すべき性格のものであり、同時に、全てのカンボディア国民が参加し、その知恵と汗を結集することが不可欠な大事業であります。このような全国民的事業を前にして、最近に至り、カンボディアの一派の協力が得られないことにより、和平プロセスの順調な進展が妨げられていることには重大な懸念を表明せざるをえません。我が国としてはカンボディア各派がパリ和平協定に則り、自由・公平な選挙の実施に向けて速やかにUNTACに対して全面的協力を行うことを強く呼びかけたいと思います。また、カンボディアに対する経済支援は国民の福祉・生活の向上を通じて社会の安定に寄与するものであり、自由かつ公正な選挙を実施していくために不可欠の課題であります。本件を政治問題化することだけは厳に避けなければなりません。

なお、UNTACの任務遂行のためには国際社会による必要な支援が確保されることも不可欠であります。我が国としても、UNTACに対し、応分の貢献を行っていく所存であり、先般決定された所要経費6億ドルに係る我が国分担金約7、500万ドルを今月中に支払えるよう手続を行っております。これと同時に、UNTACに対する人的貢献の実現に努力していく所存であります。

7.カンボディアは東南アジア、そしてアジア・太平洋地域の成長・発展の大きな流れから取り残されてきました。これは地域全体の政治的安定にも重苦しい影を投げかけると同時に、国内外のカンボディア人自身に大変な犠牲を強いてきました。しかし、今やカンボディアにおいて真に永続的な和平が確立することを祈念する国際社会の総意は、カンボディア国民に直接届いております。今後とも、全てのカンボディア国民が自ら努力を重ねて行かれることを強く期待すると共に我々はそのための支援の努力を怠ることは決してないことを明言しておきたいと思います。