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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] マハディール・マレイシア首相主催晩餐会における宮澤内閣総理大臣の挨拶

[場所] 
[年月日] 1993年1月14日
[出典] 宮沢演説集,117−118頁.
[備考] 
[全文]

 マハディール首相閣下、令夫人並びに御列席の皆様

 まずは、私共の到着以来頂いた暖かいおもてなしに対し、御礼申し上げます。また、本朝、国王陛下に謁見を賜りましたことは、私にとりこの上ない名誉であります。さらに、本日の貴首相との会談も、大変意義深いものでありました。私はこれまでと同様、国際情勢に対する閣下の率直かつ洞察に満ちた所見を、興味深く拝聴致しました。

 首相閣下

 私にとって、この美しい御国を訪問するのは、一九七六年以来であります。私は、その間の街並みの変化に、深い感銘を覚えました。実際、一七年前に私がマレイシアを訪れた時は、世界の情勢は現在とは大きく異なっておりました。即ち、その前年のサイゴン陥落によって、この地域全体が不安と不確実性に満ちた状態となっており、東南アジアの非共産圏の国々にとって、いわゆるドミノ理論を含め、あらゆる種類の恐ろしい予想が存在していました。幸いにも、それらの不吉な予想は的中しませんでした。その中で最も歓迎すべき展開は、マレイシアを含むASEAN諸国が安定性と強靭性を増して、大きな成功を収め、世界の他の国々が羨むほど力強く、繁栄した地域となったことです。

 マレイシアは、政治的安定を確固たるものとしながら、驚異的な経済発展を成し遂げました。それは容易なことではなかったはずです。現実的かつ聡明な政治的リーダーシップに導かれた、国民のたゆまぬ努力があったからこそ、成し遂げられたことであります。私は、多民族社会の活力を巧みに管理し、マレイシアが、いくつもの困難を乗り越えて国家開発という容易ならぬ海路を、順調に航海できるよう舵取りをされた貴首相に、特段の敬意を払うものであります。

 首相閣下

 二国間関係においてもまた、私たちは成功を収めてまいりました。貿易、投資及び開発援助の分野では、日本とマレイシアの関係は、相互互恵の二国間協力のモデルと言えましょう。貴首相が提唱し、推進されてきた東方政策は、最初の十年を成功裡に終えました。優に三千人以上のマレイシアの青年が、日本で学び、今や東方政策は、両国間の友情を象徴するものになっております。

 首相閣下

 貴首相が二年前に発表されたヴィジョン二〇二〇は、マレイシアの人々の希望を映した、貴国の将来設計図を示すものであります。日本とマレイシアの間の固い友情と信頼は、今日までとりわけ貴首相のリーダーシッブの下で育まれてきました。かかる友情と信頼は、この厳しくも有望な計画を実現する上で、大きな役割を果たすものと期待しています。私はさらに、両国の関係が、これまでの成功を礎に、さらに成熟したパートナーシップに成長し、より広範な経済的及び政治的協力を通じて、二十一世紀のアジア・太平洋地域全体と世界の平和と繁栄が得られるよう希望します。

 御列席の皆様

 ここに皆様と共に杯を挙げ、国王陛下のご健康、マハディール首相閣下の一層のご発展、そして両国の永遠の友情を祈念して乾杯したいと存じます。

 ありがとうございました。(英文スピーチ七二七ページ)