データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] チュアン・タイ首相主催晩餐会における宮澤内閣総理大臣の挨拶

[場所] 
[年月日] 1993年1月15日
[出典] 宮沢演説集,119−120頁.
[備考] 
[全文]

 チュアン首相閣下並びに御列席の皆様

 ただ今、チュアン首相閣下から丁重な歓迎のお言葉を賜わり、心から御礼申し上げます。今般、チュアン首相閣下の招待によりこうして貴国を訪問できましたことは、私の大きな喜びとするところであります。微笑みの国タイに到着して以来、「タイ・スマイル」に包まれた優しく心暖まるおもてなしに感銘を受けております。また、ダイナミックな発展を遂げつつある貴国の変貌振りに接し、誠に心強いものを感じております。

 首相閣下

 首相閣下の誠実なお人柄に支えられた御指導の下、貴国が昨年来の厳しい試練を乗り越え、民主化を推進され、国際社会における信頼を得てこられていることに深く敬意を表します。貴国には、十三世紀スコータイ王朝の建設以来の輝かしい歴史と伝統、そして仏教の教えに基づく「ダルマ」(仏法)の精神による慈悲、柔和などの美徳があります。私は、貴国がこのような古き伝統を基礎に、伝統と発展の調和を図りつつ、堅実な国造りに邁進されていることに深い敬意を表するものであります。今後とも貴国の最も親しい隣人の一人として決して支援を惜しむものではありません。

 首相閣下

 先ほど、私はプーミポン国王陛下に拝謁を賜わる光栄を得ましたが、その際、国の平和と繁栄、並びに国民の安寧を願う国王陛下の御心に接し、深く感銘した次第です。

 三十年前の一九六三年、国王陛下が我が国を公式訪問された際、国土陛下は地域の経済的安定と両国の相互理解を増進することの重要性を強調され、両国の関係強化がひいては世界平和に貢献するものであると述べられましたが、これまでに、日夕イ両国は真にこのような建設的な関係を着実に発展させてきていると確信致します。

 両国国民は、六百年以上にわたる交流の中で育まれた揺るぎない信頼と友情を基礎に、政治、経済、文化のあらゆる分野において緊密な交流を深めております。日タイ友好の象徴である皇室・王室間の親密な交流は、両国国民の相互理解の架け橋ともなっております。また、カンボディアの和平プロセスにおける日夕イ政治協力などに見られますように益々成熟したパートナーシップを築き上げております。私は様々な分野に亘る両国の交流が、滔々と流れる母なる川「メナム」の流れの如く一層大きな流れとなって引き継がれていくことを強く念願するとともに、両国関係の将来に大きな期待を抱くものであります。

 首相閣下

 今回の私の貴国訪問は極めて短時日ではありますが、両国の伝統的友好関係の強化に少しでも寄与することができれば幸と存じます。最後に私は御列席の皆様と共に杯をあげ、チュアン首相閣下のご健康、貴国のご繁栄、そして日・タイ両国の友好のために乾杯したいと存じます。

 「チャイヨー」(乾杯)。