[文書名] ラモス・フィリピン共和国大統領夫妻のための晩餐会における宮澤内閣総理大臣の挨拶
ラモス大統領閣下、令夫人並びに御列席の皆様
このたびラモス大統領閣下を我が国にお迎えし、ここに晩餐を共にする機会を得ましたことは、私にとって大きな喜びであります。
閣下が昨年六月大統領に就任されて以来、私は、閣下とお会いできる日を心待ちにしておりました。本日、閣下とお会いし、冷戦後におけるアジア・太平洋地域を中心とする世界の情勢及び日本・フィリピン両国関係につき実りある会談を行うことができましたことを心からうれしく思っております。
大統領閣下
本年は、所謂ピープル・パワーによって民主的なアキノ政権の誕生をもたらした、エドサ革命」より七年目に当たります。
我々日本国民が、世界の人々と共に、流血を伴わない平穏な革命に拍手と喝采を送ったことは記憶に新しいところです。当時、国軍参謀次長であった閣下は、この革命の指導者の一人であり、またアキノ政権発足後も、要職にあって、貴国の安定及び自由と民王主義の擁護に大きな役割を果たしてこられました。
一八九八年、フィリピン革命軍の最高指導者アギナルド将軍は、スペインからの独立を宣言して、初代の大統領に就任しました。自由と民主主義を求めるエドサ革命が、ラモス将軍の指導の下、このアギナルド将軍の名を冠した国軍本部基地を中心に起こったこと、その閣下が大統領ご在任中に独立革命百周年を迎えられることは、歴史の巡り合せを感じざるをえません。貴国では、このアギナルド将軍や、我が国にも馴染の深いホセ・リサール博士といった英傑達が「建国の父」として今なお国民に広く慕われています。
今日、閣下は大統領として、平和で繁栄し、且つ正義の通る新しい国家を創造するとの理想を掲げつつ、断固たる決意をもって、国造りの歩を進めておられます。閣下の取り組まれる国家再建の課題は建国の父達の偉業にも比肩すべき重大な歴史的意義を有しています。貴国が、閣下の卓越したご指導の下、貴国民の忍耐力、勤勉さ、そして団結力をもって、必ずや、平和と繋栄と正義を達成されるであろうことを私は確信しております。
貴国と我が国との間には隣国同士として、約四百年以上も前から交流がありますが、両国の関係は、今や経済分野のみならず、政治、文化などあらゆる分野において緊密化しつつあると申せましょう。我が国は、これまでも貴国の国造りの努力をできる限り支援してまいりました。私は、この支援政策が今後とも不変であることをこの機会に改めてお伝えしたいと存じます。
大統領閣下
私たちは、東西冷戦の終焉に伴い、人類が、より自由で、より平和で、より豊かな世界を創造し得るまたとない歴史的好機を迎えております。同時にこれは、いわば羅針盤のない激動の時代でもあります。このため世界の諸国は、世界の平和と安定のために夫々の国力と国情に応じた貢献を行うことを求められています。我が国は、過去の厳しい反省に立ち、戦後一貫して平和国家としての道を歩んでまいりました。今後も我が国は、歴史の教訓を日々の行動の中に活かし、決して軍事大国となることはありません。同時に、我が国は、より積極的に、世界の永続的平和と繁栄の構築に向けて国力に相応しい貢献を行っていく考えであります。そのため、今後とも資金面での協力を引き続き行うことに加え、政治的、さらには人的側面での国際貢献の強化を図っていく所存です。
この関連で、私は、カンボディアにおける平和維持活動に対する我が国の協力活動に対し、貴国が輸送機の中継地を提供する形で支援されていることを高く評価しています。こうした国際平和への貢献における日比両国の協力関係の進展を我が国は心から歓迎するものであります。
大統領閣下
世界は、数年後に二十一世紀の扉をたたかんとしています。アジア・太平洋地域は、その多様性と開放性を基に、近年ダイナミックな経済発展を遂げ、世界でも最も見通しの明るい地域となっています。二十一世紀はアジア・太平洋の時代と言われている所以です。
去る一月、私は、バンコクにおいて、こうした基本認識に立って、共に考え共に行動するという日本とASEAN諸国の協力の基本的考え方を表明致しました。この地域において枢要な地位を占めている貴国と我が国とは、まさに新しいアジア・太平洋時代の牽引役として協力しあっていくことができると思います。二十一世紀に向けて、この地域の平和と繁栄に貢献していくため日本とフィリピンの新しい協力関係を共に築いていこうではありませんか。
大統領閣下、令夫人並びに御列席の皆様
ここに、皆様と共に、杯をあげ、ラモス大統領閣下、令夫人のご健康とご多幸、フィリピン国民の皆様の一層のご発展とご繁栄、そして日比両国の友好・協力関係の発展を祈念して乾杯致したいと存じます。
乾杯。マブハイ。