データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ASEAN拡大外相会議全体会議(6+7)における河野副総理兼外務大臣ステートメント

[場所] バンコク
[年月日] 1994年7月26日
[出典] 外交青書38号,181−184頁.
[備考] 
[全文]

1.はじめに

 プラソン・スーンシリ外務大臣閣下、

 ASEAN各国及び各対話国外相の皆様、

 御列席の皆様、

  近年、ASEAN拡大外相会議は、アジア太平洋地域の包括的な対話の場としてますます国際社会から注目を集めております。今回の拡大外相会議に出席する機会を得ましたことは、私の大きな喜びとするところであり、この会議の成功のために多大な努力を積み重ねて来られたタイ政府をはじめ関係各位に対し、深甚なる敬意を表する次第であります。

  我が国では、およそ1ヵ月前に新内閣が成立しました。新内閣は、外交面では、我が国の従来の基本的な外交政策を継承し、引き続きアジアを重視しつつ、地域の平和と繁栄のために積極的な貢献を行っていくことをこの機会に改めて明確に表明いたします。

2.継続して行う努力

 議長及び御列席の皆様、

  国際社会は今、新たな平和と繁栄の枠組みに向けての変革期におかれており、アジア太平洋地域においても、様々な、新しい変化がおこっております。このような変化の中で、この地域の平和と繁栄を確保するために、私たちが、引き続き維持・確保していくべき重要な柱があると考えます。このような柱として、我が国としては、特に以下四つの点について引き続き積極的に貢献してまいります。

  まず第1に、多数の開発途上国を擁するアジア太平洋地域においては、経済発展が地域の繁栄と安定のための重要な基盤であるということは言を待たないところであります。経済的に安定した生活を人々に確保することによって社会の強靱性を高めることは、政治的な安定を確立し、平和を築くための重要な要素であります。そして、このような経済社会発展の重要な基礎条件は経済社会基盤の整備と人材の育成にあります。我が国としては、ODA等を通じ引き続き開発途上国の離陸に向けての自助努力を支援していく所存であり、また、ASEAN諸国に対する我が国からの投資・技術移転が今後さらに促進していくことが期待されます。

  第2に、この地域の経済発展を考える上で忘れてはならないことは、ASEANという地域協力が果たしてきた役割であります。ASEANは、地域協力のあり方として大きな成功を収めた一つの例であり、域内協力の先駆けとして、その後に続くアジア・太平洋における様々な協力の枠組みの一つのモデルであります。我が国として、このような地域協力を進めるに当たり、これまで以上にASEAN諸国との関係を深めていく所存であります。また、世界経済が種々の困難を抱える中、ASEAN諸国は飛躍的経済発展を遂げておりますが、それはこの地域の豊かな多様性と高い開放性を活かして得られた果実であります。今後、周辺諸国との連携を深めつつ、果実を一層実り豊かなものとしていくことがアジア太平洋地域経済全体の発展にとっても重要であると考えます。

 議長及び御列席の皆様、

  第3に、冷戦後も地域の発展のために重要なものとして、この地域における米国のプレゼンスがあります。米国の存在と関与は、この地域の平和と安全にとって不可欠の要因であり、我が国としても、米国のこの地域に対する関与の重要性を認識し、引き続き日米安保体制を堅持し、その円滑かつ効果的な運用を確保するため努力していく所存です。

  最後に、経済・政治の両面における多国間の枠組みの重要性も何ら変化するものではなく、その重要性をますます増大しております。我が国としても、この地域において、民間の活力を活かした持続的経済成長のために、多角的自由貿易体制の維持・強化をすべく、ウルグァイ・ラウンド合意の明年1月1日からの実施に向けてWTO設立協定の年内の受諾を図るとともに、ウルグァイ・ラウンド後の新たな問題に関する議論についても積極的に貢献してまいります。また、冷戦後の国際社会においては、世界の平和と安定のために、普遍的な国際機関である国連の果たす役割には非常に大きなものがあります。今後、我が国としても、国際社会の期待に応え、引き続き国連の改革の努力しつつ、アジアの平和国家としての我が国の経験を活かしつつ、国連においてより責任ある役割を分担することが必要と考えています。さらに、冷戦終結後地域紛争が各地において勃発している中、国連平和維持活動の役割も一層増大しており、我が国として、積極的にこれに貢献していく所存であります。

  軍備管理・軍縮の面では、国連軍備登録制度の完全な実施を呼び掛けるとともに、大量破壊兵器の拡散を防止するための国際的枠組みや体制の整備・強化を図るべく、核兵器不拡散条約の無期限延長を支持するとともに、全面核実験禁止条約交渉の早期妥結を希望するものであります。また、兵器及び関連物資の輸出管理体制を整備・強化することも重要であり、我が国はこの分野における協力を積極的に推進してまいります。この関連で、北朝鮮の核問題は、国際的な不拡散体制に対する重大な挑戦であるのみならず、北東アジアの安全保障にとって重大な懸念であります。我が国として、引き続き韓国、米国、中国その他の関係国と協力し、対話による本問題の解決に向けて努力していきたいと考えます。

3.新しい課題に対する取組

 議長及び御列席の皆様、

  現在の国際社会において見られる経済発展と相互依存関係の進展といった情勢変化に伴い、アジア太平洋地域全体、ひいては国際社会全体が新たに取り組んでいかなければならない課題もでてきております。

  まずはじめに、アジア太平洋地域において、政治・安全保障面の全域的な対話の場というものが志向されております。このASEAN拡大外相会議は、92年よりこの地域の全域的な政治・安全保障対話を開始しており、今後ともその重要性は一層高まっていくものと考えられます。また、昨日開催されたASEAN地域フォーラムは、この地域の各国の政策の透明性とお互いの安心感を高めるための本格的な対話の場であり、歴史的意義を有するフォーラムであります。このような重要なフォーラムにおいて良い第一歩が踏み出されたことは喜ばしいことであり、共通の問題意識に基づいたこの地域の安全保障の在り方が次第に明確になっていくことは、世界全体の平和と繁栄にとっても有意義であります。我が国としても、ARFを通して、諸国間の相互理解、相互信頼の増進のための協力を進め、長期的な視点に立って安全保障面の環境の整備・向上の推進に向けて積極的に参画してまいる所存であります。

  第2に、近年、この地域において、APEC、AFTA、NAFTAといった経済面での地域協力が現れており、これらは「世界に開かれた地域協力」として発展していくべきものであります。特に、APECについては、この地域の経済協力の中核として発展させていくとの機運が高まっており、ASEAN諸国と緊密に協力してまいりたいと考えております。

  第3に、インドシナ諸国における変化があります。カンボディア和平の達成と各国の市場経済化・開放化の着手により、インドシナ諸国はアジア太平洋地域の中で新たな発展の源となりつつあります。また、米越関係の進展もインドシナ地域における新たな好ましい動きであります。インドシナ諸国の発展は、当該諸国のみならず国際社会全体にとって重要であり、協力して取り組むべき問題であります。我が国は、ASEAN諸国をはじめ各国、国際機関と協力しつつ、インドシナ諸国全体の総合的な発展に貢献していく考えであり、かかる観点から、現在準備を進めているインドシナ総合開発フォーラムの開催も有益なものとなりましょう。また、カンボディア和平は、国際社会全体の努力の成果であり、これを前進させることは世界的観点からも重要であります。しかしカンボディアにおいては、ポル・ポト派の問題が以前として存在し、その解決のためのカンボディア王国政府の努力に対し、国際社会の適切な支援が必要とされています。

 議長及び御列席の皆様、

  国際社会に対する新たな挑戦、課題は、以上にとどまるものではありません。第4の新しい課題は、国際社会全体で取り組まなければならない人類共通の課題であります。

  人権問題は、国、地域の特殊性及び種々の歴史的、文化的、宗教的背景を踏まえつつ、最も効果的な方法で取り組むべきでありますが、人権は、人類共通の普遍的価値であり、政治、経済、社会状況如何に拘らず尊重されるべきであります。人権尊重は世界平和の基礎であり、我が国としても、人権分野でも各国と協調しつつ積極的な国際協力を推進してまいります。

  また、環境、麻薬や難民といった地球規模の問題は、人類全体にとり深刻な問題であり、先進国と開発途上国が一体となった取組の推進が急務であります。環境については、如何にして経済発展と同時にこれを保全していくか、という課題があります。このような観点から、我が国は、環境分野の途上国援助として92年からの5年間で9、000億円から1兆円をめどに大幅に拡充・強化する等国連環境開発会議のフォローアップを積極的に行っていくとともに、この地域の環境保全のためASEAN諸国とともに協力していく所存であります。

4.結び

 議長及び御列席の皆様、

  ASEANはその創立以来4半世紀余りを経て、質的に大きく変化してきており、我が国とASEANとの関係もその時代の変化につれ、変わってきております。しかしながら、最も重要なことは日本・ASEAN双方にとって、お互いの重要性が増大してきており、今後ますます大切なパートナーとなっていくであろうことであります。我が国としても、これまで以上にASEANをこの地域の核と認識とし、ともに歩き続ける友人としての関係を築いていきたいと考えております。

  ありがとうございました。