[文書名] チュアン・タイ王国首相歓迎晩餐会における村山内閣総理大臣の挨拶
チュアン首相閣下並びに御列席の皆様
このたびタイ王国チュアン首相閣下をお迎えし、ここに晩餐会を催すことを光栄に思います。
首相閣下
貴国と我が国は実に六百年以上にわたる長い交流の歴史を誇っております。時に十七世紀に至り両国間の交易は海のシルク・ロードを通じて活発に行われるようになり、我が国からは朱印船と呼ばれる貿易船が派遣されました。徳川の将軍が、貴国の国王への親書のなかで、「両国は相互に信頼しているので、両国の間に海があることは重要ではない」と記している通り、両国は大海原を越えて親密な交流を続けて参りました。
このような歴史的な交流を背景として、日本とタイ両国は、一八八七年に外交関係を樹立し、以来百年以上の長きにわたり、王室、皇室を始めとして様々な人々の触れ合いを通じて友好協力関係を築きあげてきております。私も、首相閣下並びに本日ここに御列席の皆様のご支援を得て、一層ゆるぎない協力関係を築きあげるために、先人に負けない努力を重ねて参りたいと思います。
首相閣下
近年、貴国と我が国は二国間の政治・経済関係の枠組みを越えた地域的な広がりの中で新たな関係を構築してきております。東南アジア地域の最大の不安定要因であったカンボディア問題の解決にあたり、日タイの建設的なパートナーシップは重要な役割を果たしました。ダイナミックな成長を続ける貴国と我が国の協力関係は、今後東南アジア地域、さらにはアジア・太平洋地域の繁栄と安定を確保していく上で、益々重要な意義を有するものと確信します。
首相閣下は、就任以来積極的な近隣外交を展開されていますが、本年はアセアン議長国として地域の発展と平和に尽力されました。特に、アセアン地域フォーラムの開始を実現されたことは、アジア・太平洋地域全体として政治や安全保障の問題に取り組むという画期的なものでした。今後とも貴国が益々国際社会への貢献を果たすべく尽力されることを希望するものであり、我が国としても引き続き可能な限りの協力を行って参りたいと思います。
首相閣下
首相閣下は、四半世紀にわたり政治家としての道を歩み、とりわけ教育、社会福祉、農業などを始めとして国民生活に密着した分野において尽力されてこられたと伺っております。首相閣下のこのようなご努力は、私が常々心に留めております「国民とともに国民に学ぶ」という言葉に合い通ずるものがあります。今回の訪問の機会に、このような首相閣下と個人的親交を深めることができましたのは、私の喜びとするところであります。首相閣下並びに御一行の皆様が我が国各界との交流を通じて相互理解を深められ、ひいては日本とタイの友好親善関係が益々強化されることを希望します。
御列席の皆様
それではチュアン首相閣下のますますの御壮健を祈念し、タイ王国の繁栄、そして日本とタイ両国の友好協力関係の一層の発展を願いつつ、ここに御列席の皆様と共に杯をあげたいと存じます。
乾杯!