データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ASEAN拡大外相会議個別会合(「7+1」会合)における池田外務大臣ステートメント

[場所] ジャカルタ
[年月日] 1996年7月24日
[出典] 外交青書40号,211−213頁.
[備考] 
[全文]

(はじめに)

 アムヌアイ副首相兼外務大臣閣下、

 ASEANの各国代表の皆様、

 御列席の皆様、

 本日、アムヌアイ大臣の議長の下、ASEAN各国代表の皆様との間で、わが国とASEANの協力関係のあり方につき意見交換できますことを大変嬉しく思います。

 改めて申し上げるまでもなく、ASEAN拡大外相会議は、これまでアジア太平洋地域の包括的な対話の場として重要な役割を果たしてきました。

 今回の会議の成功のために多大な努力を積み重ねられたインドネシア政府、わが国との調整の労を取られたタイ政府をはじめ、ASEAN関係者の方々に改めて謝意を表したいと思います。

(アジア太平洋地域におけるASEAN)

 前回このジャカルタの地でASEAN拡大外相会議が開催された1990年から、6年が経過しましたが、その間もアジア太平洋地域は、順調な経済発展を続けており、相互依存の関係が益々深化しております。

 ご承知のとおり、昨年のASEAN拡大外相会議に先立ち、わが国は、アジア太平洋地域が今後地域協力を推進するに当たって留意すべき点を3つ指摘いたしました。具体的には、第1に、地域全体の繁栄が自国の繁栄に繋がるとの明確な認識に基づき、全地域的な協力を一層深化させること、第2に、地域内の様々な対話や協力の枠組みを総合的、重層的に活用すること、第3に、域外国に対して開かれた協力関係を推進すること、であります。

 その後の1年間、アジア太平洋地域における協力は、ARF、APECにおける具体的協力の進展、アジア欧州会合の開催等、目覚ましい成果を上げてきました。私は、この様な諸成果の背後にある「多様性の中での協力」の精神の役割について触れてみたいと思います。

 言うまでもなく、アジア太平洋地域は、民族、宗教、言語、習慣、経済の発展段階等実に多様であります。この多様性は、時には相互の理解を妨げる要因にもなりうるものですが、反面、将来に向けての力強い推進力になるものでもあります。

 この点について、ASEANは大きな模範となる組織であると考えます。1967年に発足して以来、ASEANは幾多の試練に直面しつつ、同じ地域に存在する国家が多様性を事実として受け止め、どうすれば互いに協力し、互いの発展を図ることができるのかについてよき前例となる成果を積み重ねてきました。その中核となった精神は、67年の東南アジア友好協力条約に示されており、このASEANの経験と叡知は、今後のあらゆる地域協力を考える上で極めて有益な示唆に富むものであります。

昨年7月にヴィエトナムがASEANに正式加盟したのに続き、カンボディア、ラオスが明年の正式加盟に向け準備を進めており、ミャンマーも今般オブザーバーの資格を取得したと承知しております。わが国は、こうした動きを東南アジアの安定に資するものとして歓迎しております。

(「パートナー」としての日・ASEAN関係)

 現在我々は、これまでにない相互依存の世界の中に生きています。冷戦終了後の今日必要なことは、様々なレベルでの対話と協力を構築し、これらを国際社会全体の安定と発展に資する方向で取り進めて行くことであります。ASEANに見られる「多様性の中での協力」の経験・叡知を他の地域の模範として示すべく、ASEANにより、経済面、政治・安全保障面、地球的規模等の課題において国際社会全体に対し更なる貢献がなされていくことを期待します。わが国としても、ASEANとの間に十分な連携を維持し、真の「パートナー」として、今後のアジア太平洋地域や世界が直面する諸課題に対して力を合わせて取り組んでいきたいと考えております。

 21世紀を目前にして、我々は、様々な地球規模の問題に直面しておりますが、その多くはアジア太平洋の発展とも密接に関連しております。我々の取り組みはこの地域、ひいては地域全体の将来にとって重要な意味合いを有しております。繁栄を続けるアジアは、又、問題を造り出すアジアともなり得ます。

 例えば、この地域における経済発展は、世界全体に大きな利益をもたらしますが、同時に、エネルギーや食糧に対する需要の急速な増加、或いは温室効果ガスの排出等環境に対する負荷の増大といった問題の原因ともなり、その影響が懸念されております。これらは経済的問題であるのみならず、限られた資源へのアクセスを巡る競争の激化や周辺地域の環境破壊等を通じて政治・安全保障上の問題ともなりかねません。この様な認識に立って、わが国は、昨年のAPEC大阪会議においても、これらの問題に対する中長期的な取り組みの重要性を強調いたしましたが、この分野における日・ASEAN間の対話と協力の必要性は急速に高まりつつあります。

 また日本とASEANは、既に今後発展が期待される地域の開発に協力して取り組んでおりますが、わが国としては、この様な努力を更に進めていきたいと考えております。例えば、わが国は、一貫してメコン河流域開発といった課題について積極的に取り組んできたところですが、ASEANにおかれても、去る6月にマレイシアで流域国とともに閣僚会合を開催されました。わが国はこの分野で日・ASEANが緊密な連携を取ることは極めて有益な結果をもたらすものと考えております。また、わが国とASEANは、既にカンボディアにおいて難民再定住及び農村開発を目的としたプロジェクトを共同して実施してきているほか、幾つかのASEAN諸国と協力してアフリカに対する支援も行っております。わが国は、この様な日・ASEAN間の協力は、今後の開発支援の1つのモデルになるべきものと期待しております。

 以上述べました様に、21世紀を目前にして、わが国としてはASEAN諸国との間でアジア太平洋地域、ひいては全世界の未来のために、共に協力し、貢献を行っていく決意であることを、この場をお借りして改めて表明致します。