[文書名] キエット首相主催晩餐会における橋本内閣総理大臣の挨拶
ヴォー・ヴァン・キエット首相閣下、
並びにご列席の皆様、
本日、キエット首相閣下のお招きにより、もっとも新しいASEAN加盟国である貴国を訪問することができましたことは、私の大きな喜びとするところであります。また、先ほどは、キエット首相閣下との間で、二十一世紀に向けての幅広い日本ASEAN関係・日越関係につき極めて有意義な会談を行うことができました。ヴィエトナムには「初対面でもすぐに打ち解ける」という意味の「チュオック・ラ・サウ・クエン(Truoc la sau quen)」ということわざがあると伺っておりますが、キエット首相とは昨年春のバンコックでのASEM首脳会議の際に初めてお会いして以来、今回こうして貴国を訪問し、あらためて旧交を温めることができました。これだけでも今回の私の貴国訪問は大きな成功であったといっても過書ではありません。
キエット首相閣下、
思い起こせば、九三年に貴首相ご自身が初めての訪日を果たされて以来、我が国の村山総理、貴国のドー・ムオイ書記長及びマイン国会議長などの最高首脳間の相互往来により、ここ数年、日越両国関係はますます緊密の度合いを深めてきております。また、一昨年貴国はASEANへの正式加盟を果たされ、アジア太平洋地域においても、貴国の役割は一層大きなものとなってきております。
紀元八世紀には、中部ヴィエトナムより高僧が渡日し、我が国の奈良の東大寺大仏開眼供養の際、雅楽を奉納したとの記録が残っていることからも、貴国と我が国との間には長い友好の歴史があることがわかります。林邑学(りんゆうがく)と呼ばれるその雅楽は、いまでも我が皇室に受け継がれ、また、先日は我が国の協力により、貴国フエの芸術大学舞楽科が開設されたとも伺いました。私から紹介するまでもなく、箸・コメの文化、儒教や仏教などの宗教観、長い海岸線など、・文化風土、地勢上の共通点も両国には数多くあります。本日、空港からの道すがら、ヴィエトナムの農村風景に日本の原風景を重ねあわせ、何となく郷愁を感じ、とても初めての訪問という気がしなかったのは、日本側メンバー皆同じであろうと思います。ヴィエトナム国民と我々日本国民との間は、友情を分ちあう共通の基盤が既に存在していると確信します。私は、その友情の礎の下、二十一世紀に向けた新しい関係を両国国民の間に培っていくべく、貴首相とともに尽力してまいる所存です。
キエット首相閣下、
戦後我が国は廃虚の中から立ち上がり、国際社会の大きな支援を得て国土の再建に努め、自らの繁栄を築くことができました貴国も今また、祖国の統一を成し遂げ、平和な環境の下、市場経済化を通じ国家の工業化と近代化を図っていると伺っております。こうした貴国の国造りは、アジア太平洋地域全体の安定、繁栄、そして平和に大きく寄与するものであるとの認識の下、我が国としましても貴国の国造りに協力を惜しまない覚悟です。
キエット首相閣下、
本夕は、私そものためにも盛大なる晩餐会を催していただき、厚くお礼申し上げるとともに、今日本でもヘルシーメニューとして注目を浴びつつありますヴィエトナム料理が堪能できるということで楽しみにしております。
あと一か月ほどで、貴国はテト(旧正月)のお祝いを迎えると承知しています。テトに咲く桃の花のように、丁丑(ひのとうし)の新年が、ヴィエトナムにとり、香り高く、花開く年となりますようにお祈りし、更に日越関係の一層の発展を祈念し、私のご挨拶といたします。キエット首相閣下、更にはご列席の皆様のご健康を祝し、そして病床に伏しておられると伺っているアイン国家主席の一日も早いご回復を祈りつつ、カン・チェン(乾杯)。