データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日メコン外相会議議長声明

[場所] 東京
[年月日] 2008年1月16日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

1.2008年1月16日、東京において、2007年1月に発表された日本・メコン地域パートナーシップ・プログラムのイニシアティブである日メコン外相会議が開催された。同会議は、高村正彦・日本国外務大臣が主催し、メコン地域諸国の外務大臣であるハオ・ナムホン・カンボジア王国副首相兼国際協力大臣、トンルン・シースリット・ラオス人民民主共和国副首相兼外務大臣、ニャン・ウィン・ミャンマー連邦外務大臣、ニット・ピブンソンクラーム・タイ王国外務大臣、ファム・ザー・キエム・ベトナム社会主義共和国副首相兼外務大臣が参加した。会議では、信頼、発展及び安定、並びに地域・地球規模の課題のテーマの下、幅広い事項が議論された。

2.我々、日本及びメコン地域諸国の外相は、メコン地域各国の自助努力及び東西経済回廊など主要インフラの整備に伴い、メコン地域は一層相互依存性を増し、新興市場として台頭していること、また、日本が地域にとり長期にわたってかけがえのないパートナーであることを認識した。我々は、地域の永続的な安定と更なる繁栄は、強靱なASEAN共同体やダイナミックな東アジアにとり重要であるとの意見を共有した。我々は、地域の発展の上での日本の重要な役割、及び開発パートナーとしてのタイを含むメコン地域の諸国の役割を認識した。我々は、「希望と発展の流域」とのビジョンを共有し、共通の機会を捉え、共通の課題に対処する上での、地域間及び域内協力の重要性を強調した。

信頼

3.我々は、日本とメコン地域諸国との間のすべての関係分野における長期にわたる友情と協力に満足の意を示すとともに、相互信頼を更に高める上での対話の重要性を再確認した。2007年には、スラユット・チュラノン・タイ首相、ブアソーン・ブッパーヴァン・ラオス首相、フン・セン・カンボジア首相、グエン・ミン・チエット・ベトナム国家主席、及びメコン地域諸国の多くの高官が成功裏に訪日した。我々は、今般の日メコン外相会議を歓迎するとともに、日ASEAN(東南アジア諸国連合)、ASEAN+3、EAS(東アジア首脳会議)、ACMECS(イラワジ-チャオプラヤ-メコン経済協力戦略)、日CLV(カンボジア、ラオス、ベトナム)協力を含む様々な枠組を通じた対話を促進することを決定した。メコン地域諸国の中から、日メコン外相会議を定期的に実施すべきとの提案がなされ、我々は、その提案を更に議論する。

4.我々は、2009年を「日メコン交流年」として祝し、政治対話、経済・文化・青年交流、観光といった様々な交流を促進することを決定した。この関連で、我々は、2009年に日メコン観光・文化フェスティバルをベトナムで開催するとのベトナムの意向を支持し、2009年に日本で開催されるメコン・フェスティバルに向けて協力することを決定した。

5.日本側は、21世紀東アジア青少年大交流計画(JENESYS Programme)を含む様々な計画のもと、5年間でメコン地域諸国の青年1万人以上を受け入れる意図を表明した。この関連で、日本側は、2008年及び2009年に合同の日メコン青少年交流事業を企画する計画を述べた。

6.我々は、日カンボジア間の直行チャーター便の運行、日タイ間の新たなより自由な航空協定が日本とメコン地域諸国間での観光交流を拡大することを期待した。この関連で、我々は、日本アセアンセンターが近い将来、CLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)諸国のエコカルチャー観光促進の調査を開始する意図を有していることを歓迎し、タイ側は知見を用いてこの取組に貢献する意向を表明した。我々は、地域における第三国国民の旅行を容易とし、観光を促進する、ACMECS単一査証を実施する合意にタイとカンボジアが署名したことを歓迎した。日本側は、いくつかのメコン地域諸国による日本人観光客への査証免除やラオスによる日本人への短期ビジネス査証免除の発表を歓迎した。

7.我々は、日本での日メコン友好議連の設立を高く評価し、日本とメコン地域諸国間の関係強化に貢献することへの高い期待を表明した。

発展

8.日本側は、日本・メコン地域パートナーシップ・プログラムに従い、日本として、今年度から3年間政府開発援助(ODA)を拡充することに着実に取り組んでおり、これにはインフラ開発、人材育成、環境保護や貧困削減が含まれることを説明した。タイ側は、大メコン河流域地域協力(GMS)やACMECS開発協力の枠組において同国が行っているインフラや人材育成の協力についての情報を会議で共有した。メコン地域諸国は、同地域の社会経済開発への日本やタイの継続的な支援を高く評価し、ACMECS、GMS、日CLVといった地域協力枠組の開発パートナーとして日本を歓迎し、これらの枠組で緊密なパートナーシップの下、協力するよう改めて招いた。

9.我々は、「開発の三角地帯」、「東西経済回廊」、「第2東西経済回廊」といった地域プロジェクトの進展を高く評価した。日本と関係国は、日ASEAN統合基金(JAIF)約2000万ドルを活用した「開発の三角地帯」の候補案件リストを決定した。我々は、JAIF約2000万ドルを活用し、「東西経済回廊」及び「第2東西経済回廊」の物流効率化の協力プロジェクトを形成し、「東西経済回廊」の実走実験の勧告を実現する意図を発表した。この関連で、我々は、これらプロジェクトの調整のため、本年、日メコン地域諸国の枠組で高級事務レベル会合を開催することを決定した。民間部門とのパートナーシップの重要性を認識し、我々は、民間部門に対し、インフラや人材育成プロジェクト・事業を支持し、貿易、投資、観光の拡大や経済社会開発のため既存の物流インフラの活用を促進することを奨励した。ベトナム側は、メコン地域諸国で物流能力育成の強化のため、地域の物流訓練センターをベトナムに建設する意図を表明した。

10.我々は、日ASEAN包括的経済連携(AJCEP)協定の交渉妥結、日タイ経済連携協定(JTEPA)の発効、「投資の自由化、促進及び保護に関する日本国とカンボジア王国との間の協定」の署名、及び「投資の自由化、促進及び保護に関する日本国とラオス人民共和国との間の協定」の署名を歓迎した。日本側とベトナム側は、互いに利益をもたらす質の高い経済連携協定をできるだけ早期に締結すべく、交渉を更に進める決意を表明した。日本側は、ASEAN経済共同体青写真の署名、並びにASEAN経済共同体の実現や地域の開発格差縮小に貢献するその他の経済面の合意を歓迎した。

11.我々は、「競争力強化のための投資環境改善に関する日越共同イニシアティブ」フェーズⅢの開始、タイの日本人ビジネス界との協力によるラオスとミャンマーにおける投資に関する官民合同対話といった投資環境整備に関する最近の協力進展を歓迎した。我々は、日本とタイやベトナムといったメコン地域諸国の投資に関する協力が、より大きな規模の経済をもたらし、地域の他の諸国に関わる日本企業の活動を通じて地域に利益をもたらすことを期待した。我々は、また、GMSの開発のパートナーシップを促進するため日本国際協力銀行(JBIC)がタイの輸出入銀行(EXIM銀行)と周辺諸国経済開発協力機構(NEDA)と覚書を署名したことを歓迎した。我々は、日メコン外相会議の際のセミナーを含め、同地域へ日本の投資を誘致するための日本ASEANセンターの継続的な努力を評価した。

12.我々は、メコン地域諸国の能力向上プロジェクトを促進する意図を共有した。この関連で、メコン地域諸国は、関税、金融、植物検疫、農業生産、交通、物流、水供給システム、労働といった多様な分野での日本による地域研修や技術協力プロジェクト、並びにコーン・ケーン県のメコン・インスティトゥート経由も含め、持続可能な農業、人材育成、その他の分野でのタイによる開発・技術協力を評価した。日本側は、情報処理技術試験の設立を支援し、日本のITシステムを地域に導入する実証プロジェクトを実施する意図を表明した。

13.メコン地域諸国は、日本がアジア開発銀行(ADB)の日本信託基金を通じて、メコン地域各国及び広域の案件が数多く実施されていることを高く評価した。我々は、メコン地域開発においてADBとの協調が重要であることを確認した。

14.我々は、メコン河流域の持続可能な開発におけるメコン河委員会(MRC)の重要性を強調し、2007年4月にハノイで閣僚級の第1回国際会議が成功裏に開催されたことなど最近の協力進展を歓迎した。メコン地域諸国は、MRCに対する日本の資金的・技術的協力を評価した。

安定

15.我々は、鳥及び新型インフルエンザをはじめとする感染症の脅威への対処に協力を強化する決意を表明した。また、我々は、医療・福祉といった社会分野の向上のための日本の地域協力に満足の意を示した。メコン地域諸国は、日本がJAIFを活用し、同地域諸国の備蓄用抗インフルエンザ・ウィルス剤総計20万人分以上を追加に拠出することを歓迎した。我々は、ベトナム国立衛生疫学研究所を将来、地域の感染症臨床学研究拠点として改善することを決定した。タイ側は会議で、ACMECS地域における鳥インフルエンザ対処のための250万ドルのシード・ファンド立ち上げを含むタイのイニシアティブに言及した。

16.我々は、テロ、環境保護、自然災害軽減、麻薬、HIV/エイズを含めた保健、人身取引といった国境を越える域内の課題に対処するために日本が行っている人間の安全保障に関する地域協力・イニシアティブ、及びタイが「人間の安全保障ネットワーク(HSN)」の一員としての同地域において進めている、人間の安全保障上の課題に関する途上国の優先事項の推進のためのイニシアティブに満足の意を示した。日本はこれらの分野での更なる地域協力を支持する旨表明した。

17.我々は、社会経済開発にとり、法の支配や行政手続の透明性が重要であるとの見方を共有した。この関連で、メコン地域諸国は、日本のCLV諸国の法整備支援や法分野でのメコン地域諸国の能力向上支援を評価した。日本側はJAIFを活用し、日本の民主制度や報道に関する経験を共有するプロジェクトを検討する意図を表明した。日本側はクメール・ルージュ裁判が迅速かつ公平に行われることへの高い希望を表明した。カンボジアは、本年の総選挙に日本が選挙監視団を派遣する意図を有していることを歓迎した。

18.ミャンマー情勢に関し、我々は、国民和解に向け、全ての関係者を含む真の対話の緊急の必要性を強調した。この関連で、我々は、国連、特にガンバリ国連事務総長特別顧問との完全の協力を再確認し、ミャンマーが引き続き国連と緊密に協力することを奨励した。

地域・地球規模の問題

19.我々は、共通の関心事項である地域国際情勢の意見交換をした。我々は北東アジア及びアジア太平洋の平和と安定を維持する上での、北朝鮮に関する非核化を含む諸懸案の解決の重要性について見解を共有した。日本国政府は、すべての懸案を包括的に解決することを通じ、北朝鮮との関係を正常化する強い意志を有する。メコン地域諸国は、その目的のためのあらゆる努力を支持する。我々は、「共同声明実施のための第二段階の措置」で合意された非核化プロセスの完全な実施及び2005年9月19日の共同声明の完全な実施に向けた具体的かつ効果的な措置がとられることを求めた。我々は、北朝鮮が、拉致問題を含む、国際社会の人道上の懸念に対処する必要性を強調した。

20.我々は、国連首脳会合成果文書並びにその後の国連総会の関連決議及び決定に反映されている国連改革の早期実現の重要性、特に常任及び非常任双方の議席拡大を通じた安全保障理事会改革の重要性につき見解を共有した。日本側は、メコン地域の諸国による日本の安保理常任理事国入りに対する継続的な支持に謝意を表明した。

21.我々は、発展途上国によるミレニアム開発目標(MDGs)の達成を促す、集団的及び個別の努力への支援を表明した。この関連で、我々は国際的に設定された開発援助目標の達成への日本の取組、並びにMDG Plus追求及びMDGsの目標8の下での南南協力の枠組みでの開発協力を促進するタイの取組を歓迎した。

22.我々は、気候変動及びその他の環境問題に取り組む決意を再確認した。メコン地域諸国は、地球環境保護での日本のイニシアティブに支持を表明し、世界全体の排出量を2050年までに現状に比して半減するとの地球規模の長期目標を含む日本の提案「美しい星50」を評価した。我々は、クリーン開発メカニズム(CDM)の利用を促進するための協力を継続することを再確認した。我々は、バリ行動計画の下、全ての主要排出国が参加する実効性ある2013年以降の枠組構築への積極的な参加を決意した。我々は、「東アジアのエネルギー安全保障に関するセブ宣言」及び「気候変動、エネルギー及び環境に関するシンガポール宣言」のもと、エネルギー効率向上の目標及び行動計画を2009年までに策定することの重要性を再確認した。我々は、国内の環境汚染問題と気候変動問題を同時に解決するコベネフィットのアプローチを推進することが重要であることを再確認した。我々は、水、酸性雨、持続可能な交通、湿地保全、エネルギー効率やクリーン・エネルギーといった環境分野での地域協力を評価した。我々は、環境協力に関する日ASEAN対話を含む多様な枠組で具体的協力を促進する意図を確認した。この関連で、日本側は、ベトナムで実施している3R(Reduce, Reuse, and Recycle)計画策定支援を、ADBや国連地域開発センター(UNCRD)との協力で、近隣諸国へも拡大する意図を表明した。