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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第1回日本・メコン地域諸国首脳会議東京宣言‐共通の繁栄する未来のための新たなパートナーシップの確立‐

[場所] 東京
[年月日] 2009年11月7日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

 我々、日本国、カンボジア王国、ラオス人民民主共和国、ミャンマー連邦、タイ王国及びベトナム社会主義共和国の首脳は、2009年11月6日及び7日に東京に、史上初めての日本・メコン地域諸国首脳会議のため一堂に会した。

 我々は、日本とメコン地域諸国との関係及び協力が、過去幾年かの間、政治及び経済等の様々な分野で大きく進展していることに深い満足の意とともに留意し、2007年の「日本・メコン地域パートナーシップ・プログラム」及び2008年1月の第1回日メコン外相会議にて決定され、「日メコン交流年2009」等のイニシアティブが着実に実施されていることを歓迎した。我々は、2009年10月3日にカンボジアのシアムリアップにおいて開催された第2回日メコン外相会議及び2009年10月24日にタイのホアヒンにおいて開催された第1回日メコン経済大臣会合にて示された、関連省庁による協議及び協力的な取組を評価した。

 メコン地域諸国の首脳は、同地域における日本の重要な役割、特に日本をメコン地域諸国にとって長きにわたる、信頼できる、不可欠なパートナーと位置づける開発協力を高く評価した。

 我々は、メコン地域には、日本とメコン地域諸国による協力的な取組により実現され得る重要な潜在的可能性があり、それが日本とメコン地域諸国の双方に更なる相互利益をもたらすとの見解を共有した。日本国内閣総理大臣は、日本がメコン地域の発展のためにメコン地域諸国と協力することに引き続きコミットすることを再確認し、また、メコン地域諸国、特に二国間及び地域的枠組みを通じてメコン地域の開発に貢献しているタイによる自助努力を高く評価した。メコン地域諸国の首脳は、日本がメコン地域に対し引き続き強い関心を有していること、また、タイが、タイとメコン地域諸国の間の真の友好関係及び誠実な協力の精神を指針としドナーとして地域の発展に対して強いコミットメントを有していることを歓迎した。我々は、また、メコン地域が、人間の安全保障に対する脅威である、気候変動、自然災害、感染症等を含む地域的・地球規模的課題に未だ直面していることを認識した。

 この点に関し、我々は、様々な課題に効果的に対処するためのメコン地域の潜在的可能性を最大化するために、日メコン関係及び協力を更に強化する必要性を強く認識した。

 本日、我々は、メコン地域の更なる発展と、日本とメコン地域との協力の更なる拡大のために、日本とメコン地域諸国との間で「共通の繁栄する未来のための新たなパートナーシップ」を確立することを決定する。

 我々は、ここに以下の点を確認する。

I.共有されたビジョン

 我々は、我々の協力の将来の方向性を明らかにするために、メコン地域及び日メコン関係につき以下のビジョンを共有した。

 メコン地域においてこれまでに達成された発展、東南アジア諸国連合(ASEAN)の2015年に予定されている統合及びASEAN加盟国間の発展の格差を是正することの重要性を考慮し、メコン地域は以下の地域となることを目指す。

 ・ASEAN憲章に規定された普遍的価値に基づく恒久的な平和及び安定を享受する、開かれた地域。

 ・更なる経済発展を実現し、ASEANの更なる統合、また長期的には開放性、透明性、包含性及び機能的協力の原則に基づく東アジア共同体の設立に積極的に貢献する地域、及び

 ・環境保全と両立し得る持続可能な開発を追求し、人間と人間の尊厳を危険に晒す様々な脅威に対応する力をもつ地域。

 メコン地域に関する上記のビジョンの実現に向けて、日本は、同地域諸国と協力する意思を再確認する。このため、日メコン関係は、以下を追求する。

 ・自身の自由及び個人の尊厳を尊重しつつ、他者の自由及び個人の尊厳をも尊重する考え方である「友愛」の精神に基づき、互恵的関係を構築すること。

 ・ASEAN及び東アジアの平和及び繁栄並びに開放性、透明性、包含性及び機能的協力の原則に基づく長期的ビジョンとしての東アジア共同体の設立に貢献すること。

 ・政治、経済及び社会面において互いに重要なパートナーとなること、及び

 ・様々な地域的枠組と協力し、重層的な協力を促進すること。

II.重点分野

 上記に示されたビジョンを達成するために、我々は、以下の分野に重点を置くことを決意する。我々は、この宣言に添付される「日本・メコン行動計画63」において具体的な計画を特定するとの認識を共有する。日本は、メコン地域を重点地域とし、メコン地域全体およびカンボジア、ラオス、ベトナム(CLV諸国)の各国への政府開発援助(ODA)を拡充するとの政策を継続する。日本は、メコン地域の更なる繁栄のために、今後3年間で5000億円以上のODAによる支援を行う。

1.総合的なメコン地域の発展

 我々は、メコン地域の発展が、地域統合を強化し、環境保全と両立し得る持続可能な開発を達成し、メコン地域諸国及び第三国の双方に裨益するような開発のモデルとなるべきであることを認識した。我々は、また、ASEAN共同体及び長期的に開放性、透明性、包含性及び機能的協力の原則に基づく東アジア共同体の構築に不可欠であるASEANの統合にメコン地域諸国が積極的に参加するために、ASEAN加盟国間に既に存在する開発格差を可能な限り早期に実質的に縮小させなければならないことを改めて表明した。

 この点に関し、我々は、メコン地域における総合的な開発のために集中的に実施すべき以下の事項を重点的に行うこととした。

  (i)ハード及びソフト両面での更なるインフラ整備

   より統合された地域をつくるため、日本とメコン地域諸国は、メコン地域におけるハード及びソフト両面のインフラの整備に向けて引き続き資源を活用する。ハード面のインフラに関し、日本とメコン地域諸国は、開発の三角地帯並びに東西及び南部経済回廊の残余部分のインフラを含む、メコン地域の経済発展に向けたプロジェクトを実施するために最大限取り組む。ソフト面のインフラに関し、日本は、メコン地域諸国と協力し、これらの重要な道路を民間企業がより容易にかつ効果的に利用できるような「経済回廊」へと変化させるために、通関分野における訓練プログラム等、経済面における人材育成に関する様々なプログラムを実施する。

  (ii)官民協力の推進

   日本とメコン地域諸国は、インフラ整備、天然資源の開発及び物流ネットワークの改善等、様々な分野における協力プロジェクトの効果的な実施に貢献するための官民協力を促進する。日本とメコン地域諸国は、官民間の調整のために、より多くの機会を提供する。

   日本とメコン地域諸国は、経済連携協定(EPA)及び二国間投資協定等の既存の経済に関する協定を円滑に実施するための取組を継続する。日本とメコン地域諸国は、日本とカンボジア、ラオス、ミャンマー及びベトナム(CLMV諸国)との既存の官民合同対話を活用する。

   日本とメコン地域諸国は、メコン地域諸国には同地域諸国の人々にとって研修機関となり得る著名な研修・学術機関があることを認識し、これら機関と協力する。

  (iii)地域横断的な経済制度整備支援

   メコン地域諸国は、大メコン圏経済協力プログラム(GMS)越境交通協定(CBTA)の実施の加速及び知的財産権の保護の強化等、一体性を促進し、地域全体の経済活動を活発にするために、貿易・投資に関する地域のルールの調和に向けて取り組む。日本は、メコン地域諸国によるかかる取組を評価し、日本貿易振興機構(JETRO)による専門家の派遣を含む技術支援を通じて支援する。

2.人間の尊厳を重んじる社会の構築

 我々は、メコン地域が、最近の発展にもかかわらず、未だ貧困、環境破壊、気候変動等の課題に直面し、そのなかには開発自体の結果としての課題もあることを認識した。これらの課題は、可能な限り早期に克服されなければならない。

 我々は、各々が個人及びコミュニティの保護及び地位拡大を通じて、「人間の安全保障」の観点から人間の尊厳を十分に保つことができるような社会を確立するために、これらの課題、特に以下の分野の課題に取り組むことを決意する。

  (i)環境・気候変動〜「緑あふれるメコン(グリーン・メコン)に向けた10年」イニシアティブ

   日本とメコン地域諸国は、地域が発展する一方で、環境及び気候変動に関する課題に喫緊に対処する必要があることを強調し、2010年に「緑あふれるメコンに向けた10年」を開始するとのイニシアティブを歓迎した。日本とメコン地域諸国は、メコン地域が、豊かな緑、豊富な生物多様性及び自然災害への強靱性を有する「緑あふれるメコン」を、植林等を含めた手段を通じて達成できるよう、環境保全に関する協力を推進する。日本とメコン地域諸国は、メコン地域における水資源管理に関する協力を促進する。日本及びメコン地域諸国はコペンハーゲン会議の成功に向けて、引き続き寄与していくことへのコミットメントを表明するとともに、「共通だが差異ある責任」を含む国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)の原則のもとで温室効果ガスの排出を更に削減するため共に努力する。この点に関し、メコン地域諸国は、世界の環境保護に関する日本のイニシアティブへの支持を再確認し、国際交渉の進展状況を注視しながら、開発途上国に対して資金的・技術的な支援を行うことを含めた、2009年9月22日に国連気候変動首脳会合において鳩山総理大臣によって発表された日本の新たな提案である「鳩山イニシアティブ」への評価を表明した。

  (ii)脆弱性克服

日本とメコン地域諸国は、メコン地域におけるバランスのとれた発展を達成するために、貧困削減、経済不均衡の是正、食料安全保障の推進及び公衆衛生の改善に積極的に協力する。この点に関し、日本は、基礎教育並びにクラスター弾を含む地雷及び不発弾(UXO)の除去等の分野における支援といった、人々の日常生活の向上を促進し地域の発展に貢献する分野に重点を置く。日本とメコン地域諸国は、また、様々な地域及び多国間の場における互いの協力を強化することにより、災害リスクの軽減、インフルエンザの大流行、感染症、人身取引等の国境を越える課題に焦点をあてる。日本は、景気減速の影響を受けやすい人々に対し支援を実施する。

3.協力・交流の拡大

 我々は、日本とメコン地域諸国との人と人との接触が、様々な分野においてより強固な絆の基礎となることを認識した。この点に関し、日本とメコン地域諸国は、政治、安全保障、経済、文化、観光及び青少年交流等の幅広い分野において、草の根レベルから最も高いレベルまでの協力、交流及び対話を一層拡大する。

 我々は、協力及び交流の拡大の鍵となる以下の方策に焦点を当てた。

  (i)人的交流の推進

   日本とメコン地域諸国は、より頻繁にハイレベルの訪問を実施する意思を有する。日本とメコン地域諸国は、また、人と人の交流、特に青少年交流を、草の根レベルで更に促進する。この点に関し、日本は、研修プログラム、交流プログラム等の様々なスキームを通じて、メコン諸国から2010年からの3年間で青少年を含め3万人をめどに招待する。日本とメコン地域諸国は、国会議員や政党の間の交流を活性化させる。

  (ii)観光の促進

   日本とメコン地域の観光の促進が人的交流の拡大において非常に効果的であるとの共通の見解に基づき、日本とメコン地域諸国は、観光当局及び観光産業における交流及び協力を引き続き強化する。メコン地域諸国は、日本人観光客を含む国内外の観光客を増加することに貢献する「安全で安心なメコン地域」のイメージの確立に向けて観光客の安全を確保するための取組を継続する。日本は、そうした取組に対して関連する支援を行う。

  (iii)文化遺産の保護

   文化遺産の保護は、各々の国の伝統及び誇りの重要な部分を示す基本であり、国家主権の相互尊重につながる。この点を考慮し、日本とメコン地域諸国は、メコン地域における文化遺産の保護に関する協力を強化する。これに関し、日本とメコン地域諸国は、知見及び経験の共有に向けて文化財の保護に関する専門家の交流及び協力を促進する。

4.アジア太平洋地域の他の枠組との協力の推進

 日本とメコン地域諸国は、メコン河委員会(MRC)、ASEAN-メコン流域開発協力(AMBDC)、GMS、エーヤワディー・チャオプラヤー・メコン経済協力戦略(ACMECS)、インドとのメコンーガンガ協力(MGC)及び最近立ち上がった米国・メコン河下流域閣僚会合等の多くの部門にわたる既存の協力メカニズムを認識し、メコン地域における発展と繁栄を促進するために、これらのメカニズムの間で効果的な機能を最適化する方法を追求する。

 日本とメコン地域諸国は、政治、経済、社会及び安全保障分野において関心を共有する地域的・地球規模的課題につき密接に協力し、地域の平和、安定及び繁栄を確保するために、既存の日メコン協力及び日ASEAN対話関係、ASEAN+3プロセス、東アジア首脳会議(EAS)、ASEAN地域フォーラム(ARF)及びアジア太平洋経済協力(APEC)等の他の枠組での協力を深化させ、拡大する意思を有する。

5.日メコン関連会合

 我々は、日メコン協力を前進させるために、日メコン関連会合を定例化することを決定した。日本・メコン地域諸国首脳会議は、3年に1度、日本において開催され、他の年には国際会議の機会を利用して開催される。日メコン外相会議は定期的に開催され、メコン地域諸国の国がASEAN議長国を務める際には当該国の主催により、それ以外の場合には日本の主催により開催される。日メコン経済大臣会合は、日メコン経済産業協力イニシアティブ(MJ-CI)に基づく協力を促進するために定期的に開催される。日メコン高級実務者会合は、首脳会議及び外相会議のフォローアップ及び準備のために毎年開催される。