データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 「東西・南部経済回廊に関する国際会議」における藤村外務副大臣基調講演

[場所] タイ・バンコク
[年月日] 2010年9月9日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

カシット外務大臣閣下,メコン各国及び援助機関代表の皆様,ご列席の皆様,

 本日この国際会議が,タイ王国政府のイニシアチブにより開催されることに対し,心より敬意を表したいと思います。メコンの開発について,メコンの国のイニシアチブで関係者が語り合うこの会議は,オーナーシップとパートナーシップのすばらしい共鳴(Synergy)の産物であると思います。

 また,開発のパートナーとしての役割を増しつつあるタイ王国とは,「日・タイ・パートナーシップ・プログラム」の下,メコン地域の開発に対して共同の取組を行ってきています。今般,そのタイと共同で今回の会議を開催することができることをうれしく思います。

 さて,我が国とメコン地域の交流の始まりは,今からおよそ600年前にさかのぼると言われています。当時は,貿易船が行き交い,琉球,今の沖縄が中心となって,メコン地域を含む東南アジア諸国との間で活発な貿易を行っていました。アジアの広い海が日本とメコン地域を結ぶ回廊の役割を果たしてきたわけです。

 そして現在。多くの日本企業がメコン地域に向かっています。メコン地域は投資先としての魅力を更に増しており,世界から投資が流入するとともに,この地域で生産された物資が日本や世界に流れています。そして,この地域を横に結ぶ回廊,東西・南部経済回廊というインドシナ半島の大動脈は,この地域でビジネスを行う民間企業にとって,有効なインフラとなっています。メコン地域で,国境を越える人・モノの流れは,日々,加速してきています。

 私自身,昨日,東西経済回廊のタイとラオスの国境付近を実際に走ってきました。第二メコン国際橋をトラックや人々が行き交う様子は,まさに国境を越える貿易のダイナミズムを感じさせるものであり,メコン地域全体としての更なる経済成長の可能性を見せつけられたように感じました。

 メコン地域の各国,各地域が “連結(Connect)”する。“連結”することでの発展の可能性は測りしれません。域内の生産拠点の最適分散を追求する日本企業にとっても,また,メコン地域の地元企業にとっても極めて重要ですあり,地域の潜在成長力を十分に開花させるためには不可欠と言えます

 ASEANは,「ASEAN Connectivity」の向上を打ち出していますが,我々はこれまでもメコン地域においてハード及びソフトのインフラ整備を積極的に後押しし,「Connectivity」向上のための支援を行ってきました。

 GMSで「経済回廊」のコンセプトが提示された1998年以降を取っても

 メコン地域で我が国が行った道路整備の総延長は千キロ以上。

 メコン地域で我が国がこれまでに整備した橋は,300本以上。

 そして,メコン地域の人々を対象に実施してきた人材育成事業の受講者は,既に数万人にものぼる数です。

 しかし,我々は,協力の「量」を誇るのではありません。我々は,メコンの人々との協力が,質の高い,誠実な協力であること,新たな課題に挑戦する協力であること,そしてなによりも,「共に汗を流し経験を分かち合う協力」であり,今後もそうあり続ける協力であることを誇りに思っています。我々のパートナーシップは「信頼」に基づき,「共に考え共に行動する」,「進化する」パートナーシップであります。

 我が国は,今後もメコン地域内の輸送時間を短縮し,物流コストを軽減するために,「回廊」及び「回廊」につながる道路,港湾や空港の整備を進めていきます。また,地域の中心的都市の産業発展のためのインフラ整備も行っていきます。我が国は本年6月,南部経済回廊上のカンボジアのネアックルンにメコン河にかかる橋梁の建設を行うことを決定しました。この橋梁が数年後に完成することにより,南部経済回廊の経済性は飛躍的に向上することになります。また,ベトナムのラックフェンに新しい大水深港を建設すべく,調査・検討を行っていますが,より多くの貨物を取り扱うことのできる港が建設され,アジアの他の国々との貿易が促進されれば,それに伴い東西経済回廊の利用価値も高まるものと考えます。また,この計画は官民が連携して進めることを考えています。大きな需要のあるメコンの開発を持続的に進めていくためには,民間の活力をどの様に取り込んでいくか,今後知恵を絞っていく必要があります。

 一方,ここで強調したいのは,経済成長を牽引するのは,この物理的連結性と呼ばれるハード・インフラの部分だけではなく,ハード・インフラを運営していくための制度面の整備や人材育成も合わせて重要だということです。そして,そのような制度面や人材育成面での支援についても我が国は特に力を入れてきていますし,今後とも一層充実させていく所存です。

 両経済回廊の効果を最大化するためには,「税関の効率化」,「基準の標準化」,「産業育成・貿易投資促進」が不可欠であり,我が国はこれを支援します。例えば,物流マネジメントの向上を支援するためのワーク・ショップをミャンマーを含むメコン5カ国で実施しています。

 また,回廊を利用する民間セクターは,効率的な物流を実現するため,迅速で一貫した税関手続きを求めています。ここでもお手伝いをして参ります。特にメコン地域の税関の近代化を進め,税関行政サービスの改善を行うことを目的として,我が国は現場レベルの税関職員の能力向上を支援するプロジェクトや税関機材の供与を実施しております。

 さらには,経済回廊沿線の中小都市がもっと回廊を活用したビジネスを展開できれば,回廊の更なる活性化にも資することでしょう。我が国はコンケンにあるメコン・インスティチュートの行う東西経済回廊沿線の商工会議所の機能強化プロジェクトを支援していきます。

 このように経済回廊をハード,ソフト両面で支援していくことはいうまでもありませんが,経済回廊を活用し地域の産業が発展していくことが,究極的には重要です。産業発展のためには何よりもその原動力となる人材の育成が欠かせないと考え,我が国は,メコン地域の産業人材育成に長年貢献してきました。

 たとえば,カンボジア,ラオス,ベトナムには,我が国のODAによって「日本センター」を建設し,ビジネスコースを開講してビジネス人材の育成を行っています。また,これまで各センターごとに協力を行っていましたが,CLVの日本センターと日本をつないだ広域の研修プログラムも始まりました。「日本センター」で勉強された方々の活躍によって,メコン地域の製造業の競争力が更に高まっていると聞いています。また,最近では,日本の技術を習得された溶接の技術者の方が,日本でもできないような部品の製造を担うようなケースも出てきたということです。

 「技術力の日本」そして「ものづくりの日本」として,日本自身の発展から得られた知見を活用し,メコン地域のニーズに合った,ビジネス人材の育成を今後とも支援していく考えです。

 以上,我が国とメコンとの協力に関わる基本的考え方を申し上げましたら,忘れてはならない点を最後に申し上げます。我々のパートナーシップは,地域の抱える様々な脆弱性を克服するものでなくてはなりません。我々が目指す発展は,この地域で依然として脆弱な層の人々が成長から取り残されたり,その犠牲の下に実現されるものであってはなりません。「連結性」が向上し,自由貿易が拡大しても,競争力のない貧困層が様々な成長機会から取り残されることがないよう十分配慮することが必要です。こうした観点から,我が国としては,農村開発支援,社会福祉などの面でメコン地域の人々と協力を進めていくことといたします。特に,貧困層の人々の生活基盤である農業発展は重要であると考えています。また,感染症対策や人身取引対策等,地域全体で取り組む必要のある課題に対しても,メコン地域に協力していく所存です。

 さらに,地域の発展は環境と調和したものであることが重要です。メコン地域は,貧困等に起因する環境破壊,急速な経済発展に伴う環境破壊といった課題に直面していますが,こうした課題に地域全体で取り組み,豊かな国土,森林,水資源,都市環境を守っていくことも重要です。こうした考えから,我が国は昨年の日メコン首脳会合で,「グリーン・メコンに向けた10年」イニシアチブを打ち出しました。今後,10月に予定されている首脳会合に向けてイニシアティブのの具体化を進めつつ,具体的な協力も行っていく予定です。

 先ほども申し上げましたが,日メコン協力枠組みの下での取組は「ASEAN連結性」の向上にも貢献するものと考えています。すべての人々が,この「ASEAN連結性」の輪の中に入ることを常に念頭におき,「Think together, Act together」の精神で,これからも皆さんと一緒にメコン地域の発展を深化させていきたいと考えます。

ありがとうございました。