データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 特別な友情の絆で結ばれた隣国間の「戦略的パートナーシップ」の包括的推進に関する日・フィリピン共同声明

[場所] 
[年月日] 2011年9月27日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

 ベニグノ・S・アキノ3世フィリピン共和国大統領は、日本国政府の招待により2011年9月25日から28日までの日程で日本国を公式実務訪問した。アキノ大統領は、天皇陛下と会見したほか、東日本大震災の被災地である宮城県石巻市を訪問した。

 野田佳彦日本国内閣総理大臣及びアキノ大統領は、初めての首脳会談を、友好的、未来志向的かつ建設的な雰囲気の下で、生産的に行った。両首脳は、共有する基本的価値観及び共通の戦略的利益によって結ばれた二つの海洋国家として、日・フィリピン両国の関係が「戦略的パートナーシップ」に発展してきたとの共通認識の下、次のとおり共同声明を発出した。

1.野田総理は、東日本大震災に際し、フィリピン共和国政府による緊急物資の提供及び医療支援チームの派遣に対して深甚なる謝意を表明した。また、野田総理は、この未曾有の国難に際して国際社会との友情の絆を強化し、諸外国の活力を取り込みながら、世界に開かれた復興に最大限の努力を払う決意を強調するとともに、日本国が東京電力福島第一原子力発電所事故から得られた経験及び教訓を国際社会と共有し、世界の原子力安全向上に貢献していく旨表明した。これに対し、アキノ大統領は、大震災の犠牲者及びその家族に哀悼の意を改めて表明し、フィリピン共和国がその能力の範囲で更なる支援を行う用意があることを再確認するとともに、このような支援は日本国民に対するフィリピン共和国国民の友情と連帯の証であり、日本国が早期に復興し、国際社会で引き続き積極的な役割を果たすことを確信する旨表明した。

2.アキノ大統領は、天皇皇后両陛下その他皇族に対し、双方の都合の良い機会でのフィリピン共和国への御訪問を謹んで招待した。また、アキノ大統領は、今次訪日における日本国政府の温かい歓待に謝意を表明し、野田総理に対して、2012年の双方にとって都合の良い時期でのフィリピン共和国への訪問を招請し、野田総理は、これに謝意を表明した。

3.両首脳は、両国が、自由、民主主義、基本的人権、法の支配などの基本的価値を共有し、自由かつ活発な市場経済国として共に発展し、また、海上交通路の安全確保など共通の戦略的利益を有していることを改めて確認した。両首脳は、1956年の外交関係正常化以来、半世紀以上にわたり育んできた友好協力関係の基礎の上に、二国間関係を強化することにとどまらず、アジア太平洋地域における共通理念と原則の共有及びあり得べきルールの策定に資する、既存の地域協力の枠組みから構成された開放的かつ多層的なネットワークの育成に向け協力していくことで一致し、両国政府が二国間関係を「戦略的パートナーシップ」へと高めてきたことを確認した。

4.両首脳は、日本国及びフィリピン共和国が、特別な友情の絆で結ばれた隣国として、「戦略的パートナーシップ」を一層強化するために以下の具体的協力を包括的に推進していくことで一致した。

(1)高い次元の二国間関係の維持・強化

(ⅰ)経済面での互恵協力

 両首脳は、日本国及びフィリピン共和国が、力強い貿易、投資及び開発協力を含め活発かつ互恵的な経済関係を共に享受していることに満足の意を表明した。野田総理は、日本国の経済成長には、フィリピン共和国を含む活発かつ持続的に発展するアジア諸国の活力を取り込むことが不可欠であるとの考えを表明し、アキノ大統領は、このような日本のアジア諸国との経済関係を強化する政策を歓迎した。両首脳は、両国の緊密な経済関係を一層深化させていくことの重要性につき一致した。

(日・フィリピン経済連携協定)

 両首脳は、日・フィリピン経済連携協定の円滑な実施及び運用を歓迎した。また、両首脳は、9月15日にマニラで開催されたビジネス環境整備小委員会の最近の会合を含め、同協定に基づいて設立された合同委員会及び小委員会の開催を歓迎するとともに、投資の更なる促進のために、日本国のビジネス界との対話を継続することの重要性を確認した。さらに、両首脳は、同協定の下での自然人の移動の促進が両国の利益に資するとの認識を共有するとともに、看護師・介護福祉士候補者の円滑な送り出し及び受入れを含め、現状の更なる改善のために引き続き協議していくことで一致した。アキノ大統領は、日本国政府によって講じられているフィリピン人候補者の支援のための訪日前日本語研修の導入を始めとする様々な措置に謝意を表明するとともに、この点に関し、両国政府間で行われている協力を歓迎した。アキノ大統領は、日本国の看護師国家試験におけるフィリピン人看護師の合格率の向上の重要性を強調した。両首脳は、両国政府が、相互の利益を最大化させるため、同協定第161条に従って初めて行われる一般的な見直しを成功裡に実施するよう協力していくことを確認した。

(投資の促進・強化)

 両首脳は、ビジネス環境を改善し、両国間の投資を更に促進していくことの重要性を確認した。アキノ大統領は、良好で責任ある統治の促進並びに行政の透明性及び予見可能性を引き続き高めることを含むビジネス環境の改善に対する現政権のコミットメントを強調した。これに対し、野田総理は、アキノ大統領によるこれらの取組を高く評価した。

 アキノ大統領は、「フィリピン開発計画2011?2016」を促進するため、インフラ及び開発事業を優先案件とする現政権の官民パートナーシップ(PPP)計画に対し、日本国の支援を要請した。これに対し、野田総理は、日本国が政府開発援助(ODA)の積極的な活用を通じて投資環境の改善を支援することにより、民間投資を促進し、フィリピン共和国の開発に貢献していくことを表明した。この点に関し、野田総理は、2012年3月までに官民ミッションをフィリピン共和国に派遣し、同国のインフラの改善及び開発に資するセミナーをマニラで開催することを表明した。

 また、両首脳は、投資を促すインフラ開発を進めるため、日・フィリピン経済合同委員会など経済団体間の交流及び協力の重要性を強調した。両首脳は、地上デジタルテレビ放送日本方式に関してフィリピン共和国において進行中のプロセスを時宜を得て完了することの重要性を確認した。

(経済協力の継続)

 アキノ大統領は、日本国がフィリピン共和国に対する最大のODA供与国として、フィリピン共和国の貧困削減及び経済発展のために供与されてきた支援に心からの謝意を表明した。これに対し、野田総理は、重要なODA対象国であるフィリピン共和国に対する援助を今後も継続していく旨を表明した。また、両首脳は、円借款案件「森林管理計画」が、気候変動への対応のみならず、災害対策の観点からも重要との認識で一致し、その交換公文が本日署名されたことを歓迎した。両首脳は、技術協力に関する日本国政府とフィリピン共和国政府との間の協定が本年4月8日に発効したことを歓迎した。

 両首脳は、東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)によって作成されたアジア総合開発計画(CADP)とも連携しつつ、ASEAN連結性に関するマスタープラン(MPAC)の下でのイニシアティブである「ASEAN島嶼部連結性向上支援」及び日・BIMP?EAGA(ブルネイ・インドネシア・マレーシア・フィリピン?東ASEAN成長地域)の枠組下の協力の支援を通じ、引き続き、フィリピン共和国及びその周辺地域における海洋連結性強化を推進していくことで一致した。

(防災・災害対策)

 両首脳は、両国に蓄積された経験及び教訓の共有に基づき、防災及び災害対策の分野における二国間協力が強化されてきたことを確認した。アキノ大統領は、フィリピン共和国の防災能力向上のための日本国のこれまでの援助に謝意を示した上で、フィリピン共和国が、円借款による「パッシグ・マリキナ川河川改修計画(フェーズⅡ)」、無償資金協力による「気象レーダーシステム整備計画」など現在進められている事業を着実に実施することを表明した。また、両首脳は、「マヨン火山周辺地域避難所整備計画」等の無償資金協力案件を通じて災害対策能力を一層改善し、また、「災害リスク軽減・管理能力向上プロジェクト」等の技術協力案件を通じて防災に係る知見及び経験を更に共有していくことを確認した。

(環境・気候変動)

 アキノ大統領は、気候変動対策に関する日本国による2012年までの途上国支援として実施された「太陽光を活用したクリーンエネルギー導入計画」、「気候変動による自然災害対処能力向上計画」等の無償資金協力案件に示されているとおり、フィリピン共和国の気候変動の緩和及び適応措置に対して日本国が援助を継続していることに改めて謝意を表明した。また、両首脳は、環境・気候変動の分野において引き続き緊密に協力していくことで一致した。

(ⅱ)政治・安全保障面での相互信頼

(政策対話の重層的実施)

 両首脳は、地域及び多国間の会合の機会をも活用しながら、ハイレベル対話を頻繁に実施していくことで一致した。また、両首脳は、従来の次官級政策協議を新たに次官級戦略対話に格上げし、海洋、テロ・国際組織犯罪対策、国連改革、軍縮・不拡散、環境・気候変動など両国が互いに関心及び利益を有する地域的及びグローバルな課題について議論及び協力を進めていくことで一致したほか、2012年上半期にフィリピン共和国で第5回日・フィリピン外務・防衛当局間(PM)・防衛当局間(MM)協議を開催することで一致した。

(海洋分野における協力)

 両首脳は、日本国及びフィリピン共和国が海上交通路を共有する海洋国家であり、海洋分野における二国間協力を強化することの必要性を改めて確認した。両首脳は、ソマリア沖における海賊が海上の安全保障及び海洋航行の安全に対する重大な脅威であるとの認識を共有した。アキノ大統領は、ソマリア沖を定期運航している船に乗船しているフィリピン人船員にも裨益するとして、ソマリア沖に派遣された日本国の自衛隊及び同乗の海上保安官による護衛活動に謝意を表明した。また、両首脳は、アジアの海賊対策においてアジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)が果たしてきた重要な役割を歓迎した。

 両首脳は、2011年9月9日に開催された第1回日・フィリピン海洋協議を歓迎し、相互の同意に基づいたフィリピン沿岸警備隊(PCG)の訓練を目的とした日本国海上保安庁巡視船のフィリピン共和国への派遣やフィリピン沿岸警備隊の能力向上支援などを通じて両国の海上保安機関間の協力及び連携を強化していくことで一致した。また、両首脳は、日本国海上幕僚長及びフィリピン共和国海軍司令官の相互訪問の実施、海上自衛隊艦隊のフィリピン共和国への寄港、日本国海上自衛隊・フィリピン共和国海軍幕僚協議の実施など、両国の防衛当局間の交流及び協力を推進していくことで一致した。

(ミンダナオ和平)

 両首脳は、ミンダナオ和平が地域の安全及び安定にとって重要であることを再確認した。アキノ大統領は、ミンダナオ和平の確保に対する現政権のコミットメントを強調するとともに、ミンダナオ和平プロセスに対する日本国政府のこれまでの貢献に対して謝意を表明した。この点について、アキノ大統領は、和平プロセスを前進させた2011年8月4日に日本国で行われたモロ・イスラム解放戦線(MILF)指導部との会談の実現を促進したとして、日本国による支援に謝意を表明した。これに対し、野田総理は、国際監視団(IMT)への開発専門家の派遣、J?BIRDプロジェクト(ミンダナオ社会経済開発支援)の継続、国際コンタクト・グループ(ICG)を通じた貢献、ミンダナオ和平に関連する青年招聘等を今後も継続していく旨を表明した。また、野田総理は、J?BIRDプロジェクトに関し、フィリピン共和国から要請のあった「ムスリム・ミンダナオ自治地域稲作中心営農技術普及プロジェクト」及び「ミンダナオ紛争影響地域コミュニティ開発のための能力向上支援プロジェクト」の2件の技術協力案件の採用を決定する旨を表明し、これに対し、アキノ大統領は、謝意を表明した。

(ⅲ)国民レベルでの相互理解

(観光交流)

 両首脳は、日本国に21万人を超えるフィリピン共和国民が在住し、在日外国人としてフィリピン共和国国民が規模において第4位であることに言及しつつ、友情の絆を強固なものとするため、双方向の観光の促進を通じて両国間の人的交流を一層拡大していくことで一致した。野田総理は、東日本大震災後も日本への渡航が安全であること示すものとして、アキノ大統領の被災地への訪問に謝意を表明した。両首脳は、フィリピン共和国の観光展に在フィリピン日本国大使館が参加するなど、フィリピン共和国国民の訪日の促進に向けた日本国政府の取組を歓迎した。

(青少年交流)

 両首脳は、安定した二国間関係を将来確実なものとするためには、両国民、とりわけ次世代の指導者たり得る青少年の交流が不可欠であるとの認識で一致した。アキノ大統領は、この目標を達成するために21世紀東アジア青少年大交流(JENESYS)計画及び「東南アジア青年の船」事業(SSEAYP)が果たしてきた役割を評価し、これらの継続に対する希望を表明した。これに対し、野田総理は、青少年交流を継続していきたいとの意向を表明するとともに、フィリピン共和国の大学生400人を「フィリピン東北友好親善大使」として日本国に招聘し、被災地の大学生等との交流プログラムを実施する旨を表明した。

(2)地域・国際社会への貢献

 野田総理は、日本及び日米同盟がアジア太平洋地域の安定及び繁栄の維持のために不可欠な役割を果たしている旨を表明し、アキノ大統領は、これを歓迎した。両首脳は、地域における戦略的利益を共有する国として、また、共にアメリカ合衆国の同盟国として、豊かで安定したアジアの実現に向け、日・ASEAN、ASEAN+3、東アジア首脳会議(EAS)、ASEAN地域フォーラム(ARF)、アジア太平洋経済協力(APEC)等の地域協力の枠組みに積極的に参加していかなければならないとの認識で一致し、特にEASについては、このフォーラムの更なる発展のために、本年11月の首脳会合に向けて互いに緊密に連携していくことを確認した。

(海上の安全保障)

 アキノ大統領は、紛争の対処及び解決並びに協力の促進のためのルールに基づく体制の必要性を強調するとともに、「南シナ海における関係国の行動宣言(DOC)」及び南シナ海をめぐる海事紛争の平和的解決に対するコミットメントを確認した。両首脳は、DOCの履行のためのガイドラインが採択されたことを歓迎し、確立された国際法規に合致する形で法的拘束力のある行動規範(COC)が早期に策定されることに希望を表明した。

 両首脳は、世界とアジア太平洋とを結ぶ南シナ海は極めて重要であり、この海域における平和及び安定は国際社会の共通の関心事項であることを確認した。また、両首脳は、海上交通路を共有する国家の指導者として、航行の自由、円滑な商業活動並びに国連海洋法条約及び紛争の平和的解決を始めとする確立された国際法規の遵守が両国及び地域全体の利益にかなうことを確認するとともに、これらの同じ利益が南シナ海においても促進され、守られるべきであるとの認識を共有した。

(地域経済統合の促進)

 両首脳は、地域経済統合を促進するため、共通の経済ルールを一層強化していくことで一致した。この点に関し、両首脳は、日・ASEAN包括的経済連携(AJCEP)協定のサービスの貿易及び投資に関する章についての交渉の早期妥結を通じて、また、同協定を着実に実施することにより、日本国とASEAN加盟国との間の経済関係が更に強化されることを希望する旨を表明した。両首脳は、東アジア自由貿易地域(EAFTA)及び東アジア包括的経済連携(CEPEA)に関する政府間の研究プロセスを加速し、交渉開始に向けて取り組むことへの支持を表明した。

(防災分野の地域協力)

 アキノ大統領は、ASEAN防災人道支援調整(AHA)センターの発足に貢献する日本国政府の取組を称賛するとともに、ASEAN防災ネットワーク構築構想に関連し、日本国とASEAN加盟国との間で防災に係る知見を共有し、また、津波等の災害を防止する地域的な能力を向上させるためにASEAN全域における情報共有ネットワークを構築することの重要性を確認した。野田総理は、東日本大震災の経験を踏まえ、日本国政府が2012年に大規模自然災害に関するハイレベル国際会議を、また、2015年に第3回国連防災世界会議を日本で開催したい旨表明し、これに対し、アキノ大統領は、これらの重要なイベントが日本で開催されることを歓迎した。

(朝鮮半島)

 両首脳は、関連安保理決議及び2005年六者会合共同声明に違反するとして、進行中のウラン濃縮計画を含む北朝鮮による核・ミサイル開発の継続に対して重大な懸念を表明し、その上で、関連安保理決議を全面的に実施することに対する両国のコミットメントを改めて表明した。両首脳は、北朝鮮が非核化を含め、そのコミットメントを履行して国際的な義務を遵守するとともに、拉致問題を含む国際社会の人道上の懸念に迅速に取り組むよう要請した。この文脈で、両首脳は、今後も継続するプロセスとして南北対話に対する支持を表明しつつ、六者会合の再開に資する環境を醸成する上での具体的行動の重要性を再確認した。

(気候変動交渉)

 両首脳は、カンクン合意に基づき、透明性のある包括的なプロセスを通じ、全ての主要国が参加する形で、公平かつ実効性のある国際枠組みを構築することの重要性を確認した。また、両首脳は、本年11月28日から12月9日まで南アフリカ共和国で開催される国連気候変動枠組条約第17回締約国会議(COP17)の成功に向けて建設的に協働していくことで一致した。野田総理は、東アジア低炭素成長パートナーシップ構想を推進し、及びその目的を達成するためにフィリピン共和国と共に取り組んでいく意向を改めて表明し、アキノ大統領は、このパートナーシップに対する支持を表明した。

(国連安保理改革)

 両首脳は、国連安全保障理事会の常任理事国及び非常任理事国双方の議席拡大を含む改革の早期実現に向けて、両国が共同して取り組む重要性について確認した。アキノ大統領は、日本国の常任理事国入りについて改めて力強い支持を表明し、野田総理は、謝意を表明した。

(国連平和維持活動)

 両首脳は、国際社会の平和及び安定に寄与するため、両国がそれぞれ国連平和維持活動に積極的に参加してきていることに満足の意を表明し、現場における協力及び支援を推進していくことを再確認した。また、両首脳は、平和維持及び平和構築の分野における要員の能力の向上の重要性について一致した。

2011年9月27日 東京にて

日本国内閣総理大臣

野田 佳彦

フィリピン共和国大統領

ベニグノ・S・アキノ3世