[文書名] 第8回 日本・メコン地域諸国首脳会議共同声明
1.日本国,カンボジア王国,ラオス人民民主共和国,ミャンマー連邦共和国,タイ王国及びベトナム社会主義共和国の首脳は,2016年9月7日に,ラオス・ビエンチャンにおいて,第8回日本・メコン地域諸国首脳会議のために一同に会した。
2.首脳は,2016年7月25日にラオス・ビエンチャンにて開催された第9回日・メコン外相会議及び8月6日に開催された第8回日メコン経済大臣会合の成果を称え,今後も様々な枠組みを活用し,メコン地域の発展と繁栄に向けて取り組むことを決意した。
3.首脳は,2015年7月の第7回日本・メコン地域諸国首脳会議にて採択された,「日・メコン協力のための新東京戦略2015」に基づき,2015年8月の第8回日・メコン外相会議で「『新東京戦略2015』の実現のための日メコン行動計画」,第7回日メコン経済大臣会合で「メコン産業開発ビジョン」が採択されたことを歓迎した。また,メコン諸国の首脳はこの行動計画及びメコン産業開発ビジョンに基づき,3年間(2016年〜2018年)で7500億円の支援表明のうち1年目である本年4月以降既に3分の1以上の支援がプレッジされたことを高く評価した。さらに,メコン諸国の首脳は,昨年の首脳会談以降,ラオス・ワッタイ国際空港ターミナル拡張事業の起工式の実施,ベトナム・ホーチミン市における都市鉄道一号線の建設,カンボジアにおける5号線改修,ミャンマーにおけるバゴー橋建設,タイ都市鉄道建設に対する支援等,この1年間で質の高いインフラ整備面における日本の取組が加速していることを歓迎した。
4.首脳は,本年がASEAN共同体の元年であることに留意しつつ,ASEANの共同体としての一体性の維持が重要であるとの認識を共有した。日本の首脳は,メコン地域諸国の自助努力を高く評価するとともに,メコン地域全体の更なる発展と「質の高い成長」の実現のために,引き続き一貫した支援を実施することを確認した。メコン諸国の首脳は,同地域における日本の建設的な役割に対し謝意を表明し,日本による継続的かつメコン地域のオーナーシップを重視した支援を高く評価した。首脳は,ミャンマーにおける民主化の進展を歓迎し,ミャンマーの発展に向けたプロセスへの支援を再確認した。首脳は,日メコン関係が着実に深化していることを歓迎し,今後も,経済協力や地域の共通の課題を含む様々な分野に共に取り組むことを再確認した。
5.メコン諸国の首脳は,2016年3月に施行された「平和安全法制」を含む,国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の下で,地域及び国際社会の平和,安定及び繁栄にこれまで以上に積極的に貢献する日本の意図を歓迎した。
メコン地域の包括的かつバランスのとれた持続可能な開発に向けた日メコン協力
6.首脳は,日メコン協力における連携ドナー及び開発パートナーとしてのタイの建設的な役割に謝意を表明した。この観点から,首脳は,タイにおけるメコン諸国向けの第三国研修(TCTP)をその協力スキームの一つとして共同で実施する,タイ国際開発協力機構(TICA)とJICAとの協力を歓迎した。首脳は,日メコン連結性イニシアティブを補完するものとして,JICAと周辺諸国経済開発協力機構(NEDA)とのパートナーシップ・アレンジメントの締結(2016年7月)に謝意を表明した。首脳は,ミャンマーの要望に応じて短期の研修を提供する,ミャンマー向け三角協力の合意書が2015年に締結されたことを歓迎した。首脳は,TICAとJICAが,域内の開発と連結性強化の更なる推進に貢献するパートナーシップ・アレンジメント締結の可能性を模索していることを歓迎した。
7.首脳は,ASEAN共同体の統合,域内の開発格差是正といった課題に対する取組を加速させることで一致した。首脳は,世界経済の見通しに対する下方リスクが高まっている中,6億人の巨大市場を有するASEANにおける経済の強化の重要性を再確認し,潜在力に富むメコン地域の更なる発展が不可欠であることを確認した。この観点から,首脳は,「新東京戦略2015」の経済分野に関し,メコン地域全体の経済成長に必要なハード・ソフトを含む総合的な経済・産業対策である「メコン産業開発ビジョン」を実現させるための具体的な取組をまとめた「ワークプログラム」の策定を歓迎した。首脳は,「メコン産業開発ビジョン」の進展についてPDCAメカニズムによって政策提言を行うことを確認した第8回日メコン経済大臣会合の成果を称えた。
8.首脳は,第9回日・メコン外相会議における「日メコン連結性イニシアティブ」の立ち上げを歓迎した。首脳は,ASEAN統合市場の実現と域内の生きた連結性の強化に向け,優先的なプロジェクトに取り組むことを決定した。首脳は,「日メコン行動計画」及び,日メコン経済大臣会合の成果である「メコン産業開発ビジョン」,「ワークプログラム」に留意した。メコン諸国の首脳は,東西経済回廊,南部経済回廊の開発及びビエンチャン‐ハノイの連結性に対する日本の支援を歓迎した。
9.首脳は,メコン地域における質の高いインフラ投資の促進のため,官民連携(PPP)プロジェクトを推進していくことの重要性を確認した。首脳は,メコン地域の産業開発と集積生産拠点の促進を加速化するものとして外国投資の重要性を確認した。この観点から,首脳は,この3年間で,約1000の日本企業が新たにメコン地域へ進出したことを評価し,特に昨年の,約5〜6万人の雇用を創出するミャンマー・ティラワの経済特別区の開設,及び,ラオスのパクセーにおける「日系中小企業専用経済特区」の開設を歓迎した。首脳は,メコン地域における産業構造の高度化のため,引き続きメコン地域における官民協力・連携促進フォーラムや,2016年7月7日に開催された日メコン産業政府対話を活用していくことの必要性を確認した。
10.首脳は,メコン地域の持続的発展には,各国の産業を担う人材の育成が重要であるとの認識を共有した。その観点から,メコン各国の首脳は,昨年日本が表明した3年間で4万人の産業人材を育成する「産業人材育成協力イニシアティブ」を歓迎し,すでにASEANにおいて1万6千人以上の育成を実現していることを賞賛した。
11.首脳は,日本及びメコン地域諸国間の文化交流及び人的交流が,近年更に活発化していることを歓迎した。首脳は,本年9月の日越大学の開講を歓迎した。メコン地域諸国の首脳は,日本がJENESYS2016や日本語教育支援と双方向の芸術文化交流を促進する文化のWAプロジェクト,スポーツ分野での協力等の様々な取組を通じて,メコン各国との間で文化・人的交流促進に取り組んでいることを評価した。また,メコン地域の首脳は,行政官の研修や,学校の改修を評価した。メコン地域諸国の首脳は,今後5年間でアジアから1000人の学生を受け入れる人材育成事業「Innovative Asia」により,メコン地域の学生が利益を享受することに謝意を表明した。
12.首脳は,日本とカンボジア及びラオスとの間でのそれぞれの航空協定が最近発効し,プノンペンと東京間の直行便の就航が9月1日に開始したことを歓迎するとともに,今後も様々なレベルの,特に人と人との交流が活発化することを期待した。
13.首脳は,東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)による,メコン地域諸国への継続的な貢献に深い謝意を表明した。この関係で,首脳は,ERIAによる「Lao PDR at the Crossroads: Industrial Development Strategies 2016-2030」報告書の完成を称賛した。
人間の安全保障とグリーン・メコンの実現
14.日本の首脳は,メコン地域を含むASEAN諸国において,国民生活の改善に日本の知見とノウハウを活かして貢献していくことを表明し,「日本ASEAN女性エンパワーメントファンド」を通じた女性の活躍を支援し,保健分野においては,生活習慣病,医療格差,高齢化といった新たな課題に協力していくことを表明した。
15.首脳は,メコン地域における干ばつ・塩水遡上や水害被害等の自然災害による影響に懸念を表明し,自然災害及び気候変動に伴う災害に対する強靭な社会の構築により,メコン地域の持続可能な発展,人間の安全保障及び水資源管理を実現することの重要性を強調した。首脳は,2016年6月13日に日本とタイが共催した第4回グリーン・メコン・フォーラムにおいて,セクターを越えた知見の共有と意見交換が行われたことを高く評価した。
16.首脳は,メコン河の水及び関連資源の持続的管理・開発の死活的重要性並びに地域及び国際機関,特にメコン河委員会(MRC)との協力を継続することを再確認した。この観点から,メコン諸国の首脳は,日本によるMRCの洪水及び渇水プロジェクトに対する支援に謝意を表明した。また,日本の首脳は,メコン河の環境保全に関する更なる貢献を行う意向を表明し,メコン諸国の首脳はこれを歓迎した。また,日本の首脳は,メコン地域諸国による「世界津波の日」の制定への支持に謝意を表明した。また,首脳は,全てのメコン地域諸国を含む29カ国の高校生を招待する本年11月の「世界津波の日」高校生サミットin黒潮の開催を歓迎した。
17.首脳は,ベトナムが、本年10月の第66回国際捕鯨委員会(IWC)本会合へのオブザーバー参加を決定したことに留意しつつ,科学的根拠に基づく,鯨類を含む水産資源の持続可能な利用についての重要性を再確認した。
18.首脳は,自然災害に対するリスクマネージメントの重要性を再確認しつつ,かかる観点からも,質の高いインフラ投資の重要性を再認識し,安全性や自然災害に対する強靭性の確保を含む,その基本的要素を盛り込んだ「質の高いインフラ投資の推進のためのG7伊勢志摩原則」の採択を歓迎した。また,メコン諸国の首脳は,日本による「質の高いインフラ輸出拡大イニシアティブ」の提起を歓迎し,今後,質の高いインフラ投資がメコン地域にも利益をもたらすことへの期待を表明した。
19.メコン地域諸国の首脳は,日メコン協力を含む,様々な既存のメコン協力の枠組みを歓迎しつつ,各協力枠組み間の効果的な連携の必要性について強調した。この観点から,日本の首脳は,ニーズや優先分野を特定するためのメコン域内の連携を推奨し,ACMECS,CLMV協力や三角協力を含む,メコン地域自身の自助努力を称賛した。首脳は,メコン地域内の取組を含む,既存の協力枠組み間の連携強化が重要であるとの認識で一致した。
地域・国際情勢
20.首脳は,世界の様々な地域で引き起こされているテロ攻撃を強く非難し,犠牲者とその家族,被害を受けた国々の国民及び政府に対し深い哀悼の意を表明した。首脳は,テロとの戦いにおいて,特に「テロ及び国境を越える犯罪と闘う協力のための日ASEAN共同宣言」に基づき引き続き緊密に連携していく決意を表明した。
21.首脳は,朝鮮半島の平和,安全及び,安定の維持の重要性を強調した。関連する安保理決議に違反する,北朝鮮による核実験や2016年8月23日の潜水艦発射弾道ミサイルをはじめ弾道ミサイル技術を使用した発射を含む,朝鮮半島における最近の動向に関する懸念を共有した。首脳は,北朝鮮に対し,関連する安保理決議の遵守を求めた。首脳は,朝鮮半島の平和的な非核化を求め,朝鮮半島の平和,安全及び,安定の維持及び強化のための道を開く六者会合の早期再開に資する環境を作り出すことの重要性を強調した。首脳はまた,拉致問題を含む国際社会の人道上の懸念に対処することの重要性を強調した。
22.首脳は,南シナ海における平和,安全,安定並びに航行及び上空飛行の自由の維持の重要性を強調した。首脳は,行動を自制し,関係国が,国連海洋法条約を含む国際法に従って紛争を平和的手段により解決することの重要性を強調した。首脳は,非軍事化の重要性を強調した。首脳は,南シナ海行動宣言(DOC)全体としての完全かつ効果的な履行を確保する必要性を強調し,効果的な南シナ海行動規範(COC)の早期妥結に向けた取組へのASEAN加盟国及び中国の努力を歓迎した。
日メコン協力の今後の方針
23.首脳は,今次会合開催に関するASEAN議長国としてのラオスの尽力に謝意を表明するとともに,ラオス及びメコン地域全体の更なる発展と成長のために協力していくことを確認した。
24.首脳は,2017年以降の日メコン協力の将来的な方向性について議論し,第9回日メコン首脳会議を2017年にフィリピンで開催することを確認した。
(了)