データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第10回日メコン外相会議議長声明

[場所] 仮訳
[年月日] 2017年8月6日
[出典] 外務省
[備考] マニラ
[全文]

1.第10回日メコン外相会議は,2017年8月6日にフィリピン共和国のマニラにおいて第50回ASEAN関連閣僚会議に続いて開催された。同会議では,日本国の河野太郎外務大臣が議長を務め,カンボジア王国のプラック・ソコン上級大臣兼外務国際協力大臣,ラオス人民共和国のサルムサイ・コンマシット外務大臣,ミャンマー連邦共和国のチョウ・ティン外務大臣代行,タイ王国のドーン・ポラマットウィナイ外務大臣,及びベトナム社会主義共和国のファム・ビン・ミン副首相兼外務大臣が出席した。

2.外相は,日メコン外相会議の10周年を祝し,2015年7月4日の第7回日本・メコン地域諸国首脳会議において採択された「新東京戦略2015」及び2015年8月5日の第8回日メコン外相会議で採択された「新東京戦略

2015の実現のための日メコン行動計画」に基づく日メコン間の協力をレビューし,同協力を一層強化するとの決意を再確認した。

3.外相は,ASEAN設立50周年に対する祝意を表明し,「質の高いインフラ輸出拡大イニシアティブ」,ASEAN統合イニシアティブ作業計画III及びASEAN連結性マスタープラン2025の効果的な実施のための継続的な支援等を通じ,開発格差の縮小並びに地域統合及び連結性の強化に向けた「日ASEAN戦略的パートナーシップ」及び日メコン協力の重要性を再確認した。

4.外相は,また,共通の関心のある地域的及び国際的な課題について意見交換を行い,地域の平和,安定及び繁栄の実現のために,東アジア首脳会議(EAS)を含む関連する地域的及び国際的なフォーラムにおいて,引き続き緊密に協力する必要性を強調した。

5.外相は,南シナ海に関するASEANと中国との間の協力が改善していることを温かく歓迎した。外相は,双方で合意されたタイムラインでの実効的な南シナ海行動規範(COC)策定に向けた作業を促進するCOCの枠組みの合意及び採択に勇気づけられた。外相は,南シナ海行動宣言(DOC)全体としての完全かつ効果的な履行の重要性を強調した。

6.外相は,南シナ海における海洋上の緊急事態に対処するための外交当局間のホットラインの試験の成功に留意した。外相は,緊張並びに事故,誤解及び誤算のリスクを低減させるための実践的な措置の一部として,南シナ海における「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準(CUES)」の適用に関する共同声明の運用に期待した。

7.外相は,地域において信用及び信頼を低下させ,緊張を高め,平和,安全及び安定を損ない得る同地域内の活動について複数の外相から表明された一定の懸念に留意した。外相は,南シナ海における平和,安全及び安定並びに航行及び上空飛行の安全及び自由を維持し,促進することの重要性を再確認した。

8.外相は,南シナ海を平和で,安定的で,繁栄をもたらす海洋とすることから得られる利益を認識した。

9.外相は,地域の平和及び安全が最重要であることを確認した。外相は,相互の信用及び信頼を高め,活動を行うに当たっては自制し,状況を更に複雑にし得る行為を回避し,国連海洋法条約(UNCLOS)を含む国際法に従い,紛争の平和的解決を追求することの必要性を再確認した。

10.外相は,2017年8月5日付けの朝鮮半島情勢に係るASEAN外相声明を歓迎した。外相は,過去の核実験及び弾道ミサイル発射に加えて,20

17年7月4日及び28日の北朝鮮による大陸間弾道ミサイル(ICBM)の直近の試射を含む,朝鮮半島における緊張の高まりに対する重大な懸念を改めて表明した。

11.外相は,これらの動向が地域全体の及び地域を越えた平和及び安定を深刻に脅かすことに留意しつつ,北朝鮮に対して,全ての関連する国連安保理決議の義務を完全かつ即時に遵守するよう強く求めた。

12.外相は,平和的な方法による,完全な,検証可能な,かつ,不可逆的な朝鮮半島の非核化に対する支持を改めて表明するとともに,緊張を緩和し,平和と安定に資する環境を醸成するために,自制と対話の再開を呼びかけた。複数の外相が拉致問題を含む人道上の懸念に対処することの重要性を表明した。外相は,韓国が2017年6月にベルリンにて提案した直近の取組を含む,朝鮮半島における恒久的な平和の確立に向けた南北関係の改善のための取組に対する支持を表明した。

13.外相は,過激化及び暴力的過激主義は人類共通の惨害であることを認識した。外相は,ASEANテロ防止条約(ACCT),国連グローバル・テロ対策戦略及び暴力的過激主義防止に関する国連行動計画の下で,国レベル,地域レベル及び準地域レベルで,措置及び対策の効果的な履行を通じ,この難題と闘うことに対するコミットメントを再確認した。

14.外相は,同様に,かかる問題と闘うに当たり,純粋に軍事的な選択肢ではなく,国家全体でのアプローチの重要性及び有効性を再確認した。外相は,予防的教育,女性,若者及び市民社会の参画,平和,寛容性,多様性の尊重及び穏健主義を対抗言説として促進すること,並びにテロリストのオンライン上のメッセージに対抗するための,ソーシャルメディアのより効果的な利用及びインターネット,ソーシャルメディア及びサイバー空間のテロ活動への悪用を防ぐためのより効果的な対策は,この点に関する対話による協力を補完するものであることを認識した。

15.外相は,2017年6月22日にマニラにて開催された安全保障に関するフィリピン・インドネシア及びマレーシアの3か国による外相会議を歓迎し,本年中にインドネシアにおいて,行動計画案について議論するためのフォローアップ会合に向け期待を示した。

16.外相は,2017年7月29日にインドネシアのマナドで開催された外国人テロ戦闘員と国境を越えたテロに関する準地域閣僚会合を歓迎した。

17.メコン地域諸国の外相は,メコン各国のオーナーシップを尊重しながら,メコン地域全体の発展に貢献する,様々な分野における日本の力強い支援に対し感謝の意を表明した。この関係で,外相は,第9回日メコン外相会議にて立ち上げられた日メコン連結性イニシアティブの下で,「ハード連結性」のみならず,通関の円滑化や人材育成といった「ソフト連結性」の強化のための取組が着実に実施されていることを歓迎した。この観点から,外相は,「生きた連結性」が大幅に強化されていることを評価し,地域の連結性を更に強化するため,高級実務者レベルで確認した諸課題に取り組む決意を表明した。この関連で,メコン地域諸国の外相は,通関等の「ソフト連結性」に係る地域的な課題に取り組むため,4日間のワークショップ(9月18日から21日)を開催するという日本の意図を歓迎した。

18.「新東京戦略2015」の第一の柱であるメコン地域における産業基盤インフラの整備及び「ハード連結性」の強化に関し,メコン地域諸国の外相は,日本がアジア開発銀行等の機関と連携して,「質の高いインフラパートナーシップ」及び「質の高いインフラ輸出拡大イニシアティブ」を着実に実施していることを評価し,国際スタンダードに沿った,開かれていて,透明性があり,排他的でない使用がなされる質の高いインフラの整備が,「質の高い成長」の実現のために重要であることを改めて強調した。この関係で,メコン地域諸国の外相は,日本が,ODAのみならず,日ASEAN統合基金等を通じ,メコン地域全体に質の高いインフラを展開していることに謝意を表明した。また,外相は,地域のインフラ開発におけるタイと日本のパートナーシップに謝意を表明した。

19.当該戦略の第二の柱である産業人材育成と「ソフト連結性」の強化に関し,メコン地域諸国の外相は,「産業人材育成協力イニシアティブ」に基づく日本のメコン地域における取組を高く評価した。この関係で,外相は,日本とタイが,メコン地域における産業人材育成に関する協力覚書に署名したことを歓迎し,地域における人材育成が更に加速することを期待した。外相は,日本がタイとの協力の下,メコン諸国を対象とした素材加工技術向上のための第三国研修を通じた人材育成を,両国共同で支援してきていることに留意した。外相は,また,日本とメコン地域各国との人的交流が着実に促進されていることを賞賛した。メコン地域諸国の外相は,日本がイノベーティブアジアや若手行政官の育成等を通じ人材育成を力強く推進するとともに,JENESYS2017,日本語教育支援と双方向の芸術文化交流を促進する「文化のWAプロジェクト」及びスポーツ分野での協力等の様々な取組を通じて,メコン各国との間で文化・人的交流促進に取り組んでいることを高く評価した。

20.外相は,メコン地域における持続可能な発展,グリーン成長及び人間の安全保障の実現の重要性を強調し,防災及びリスク情報を活用した災害管理,気候変動への適応及び緩和,並びに国境を越える水資源を含む水資源の持続的管理及び利用の死活的重要性を再確認した。外相は,天災,人災,気候変動による影響にASEAN防災緊急対応協定(AADMER)の枠組みとも整合的な形で適時適切に対処するため,関係当局の能力,国境を越えたマルチハザード早期警戒システム,データ情報共有プラットフォーム,災害への包括的な備え及び緊急対応計画を発展させるに当たり,総合的なアプローチを採ることの重要性を強調した。外相は,メコン流域の持続可能な開発のために,日メコン協力とメコン河委員会の連携を更に強化することへの強い決意を表明した。この関連で,かつ,当該戦略の第三の柱である「グリーン・メコンの実現に向けた持続可能な開発」に従って,外相は,環境保全及び経済成長を実現するために知見の共有を行い,議論を深めていくことを決定した。この議論は,特にタイにおける第5回グリーンメコンフォーラムを含む様々なフォーラムにおいて行われ得る。

21.外相は,メコン地域の更なる経済成長のため,官民両セクターが引き続き協力することの重要性を強調した。この関係で,外相は,2016年11月に東京にて行われ官民双方の当事者が集い,建設的な議論を行ったメコン地域における官民協力・連携促進フォーラム特別会合を評価した。また,外相は,当該戦略の第四の柱である「多様なプレーヤーとの連携」が,上記フォーラムへの参加を通じて進展していることを認識した。

22.外相は,本年11月に第9回日本・メコン地域諸国首脳会議をフィリピン共和国で開催すること及び2018年に第11回日メコン外相会議をシンガポール共和国で開催することを確認した。

(了)